本書は韓国社会の2020年現在を活写している。データも豊富で、最近話題のドラマ・映画までカバーし、守備範囲も広い。ただもう少し政治・経済との関係性まで踏み込めていたらより肉厚な一冊になっていたが、紙面の関係上割愛したようだ。加えて、統計データ等から表面的な分析を行うだけではなく、より深く「なぜそうなったのか?」まで歴史的背景まで踏み込んでいたら良かった。
最近は日本でも若者を中心に韓国の印象は悪くはなく、K POPや韓国コスメなどは実際に人気が高い。しかし、おそらく若者の大半は1960年代当時は韓国は世界最貧国で北朝鮮より貧しく、脱北ならぬ「脱南」があったことすら知らない。北朝鮮のほうが豊かだったというと驚くだろうが、日本統治時代は農耕に適さない寒冷な北朝鮮は工業化し、南朝鮮を農業化したので、日本からの独立後は工業化していた北朝鮮エリアのほうが豊かだったのだ。社会主義はもとから行き詰っていたわけではなく、当初は上手くいっていたので労働者革命によって平等な社会となるという理想はある程度の現実味を持っていた。いまでこそ日本の学生運動はナンセンスに語られるが、当時は日本がレッドチームに入る可能性は少なくなかったと思う。そんな当時世界最貧国の韓国は軍事政権が続いたが、日米からの経済援助を使って半世紀で経済成長を遂げ、いまや一人当たりの所得では日本に猛追している。しかし、もともと貧しかった李氏朝鮮時代に儒教的な序列社会が形成され、その硬直的な社会構造は現在でも引き継がれている。
硬直的な学歴社会は、縦社会の儒教国家らしい。韓国は財閥系企業が幅を利かせており、財閥系企業に入れないと満足な所得を得ることが難しい。そこで韓国ではトップ大学である「SKY」(ソウル・高麗・延世)に入ることが至上命題となっている。ちなみに、韓国の4年制の学士課程は「大学校」で、「大学」だと3年制ということになってしまうらしい。この3校に並ぶのがPOSTECH・KAISTである。この5校が韓国社会の頂点をなすエリート校であり、この大学に入るために韓国の学生は死に物狂いで勉強するのだ。しかし、韓国では学校の後も塾で勉強するが、これは単に日本以上に長時間労働なので塾が子守代わりになっているのが実際のようだ。そして日本と違うのが、韓国では一部を除き普通は大学まで受験がないので、それまで学力でのスクリーニングも挫折もないことだ。それゆえ、みんながトップ5校に入れるという幻想があるのだという。日本では少なくとも高校受験でスクリーニングされるので自分の学力の相対的な立ち位置に気が付くが、韓国ではそれがない。大学受験まで受験がないことが総受験・総競争化を招いているという。しかし、韓国は現在では大半が書類選考で大学の合否が決まるので、留学させたりスポーツ・芸術にお金を投資できる富裕層が有利になっているという。韓国は格差社会だが、それが子供の受験にも影を落とす。
こんなお受験大国の韓国なので教育費はべらぼうに高いし、親も厳しいく、教育虐待も珍しくない。結果的に家庭を持つネガティブなイメージも広まり、おまけに経済負担も相まって韓国では少子化に歯止めがかからない。歴史的に見ても一国の出生率が1人を割ったのは韓国が初であるが、今年の出生率はさらに悪化し、史上最悪の0.8人代にまで落ち込むと予測されている。悲観的なケースでは100年後には韓国は1000万人強の小国に転落する。日本も少子化は深刻だが、それを上回るほどの超少子化先進国が韓国である。
さて、勉強を頑張っている韓国の若者だが、しかし、若年層の失業率は高いし、おまけに新卒社員の平均年齢は30歳を超える。20代はずっと徴兵や就職浪人等で潰れるのだ。生計を立てるのが遅いため、これも少子化に拍車をかける。こんな経済環境なので実のこと大学進学率はここ数年は低下傾向らしい。韓国は高等教育機関の学費が高いのに就職率が悲惨なので、教育投資に合わないということで進学が忌避されるようになってきているという。若者を取り巻く環境は良いとは言えないが、社会保障も脆弱ゆえに貧困に苦しむ高齢者も多い。貯金もせずに子供の教育費にかけたのに、過度なプレッシャーをかけたせいで子供との関係がこじれて見捨てられるという悲劇的な高齢者も韓国では珍しくないという。
昨今のコロナ禍で、日本のデジタル後進国ぶりと韓国のデジタル先進国ぶりの明暗が分かれたが、韓国は利便性の裏で国家に情報を全てコントロールされているのが実際であり、個人情報の漏洩もあとが立たないという。韓国では個人番号によって出身地から銀行口座・学歴・通院歴などがすべて紐づけされている。日本でも韓国を見習おうという動きがあるが、マイナンバーを銀行口座に紐づけることすら大きな反対がある日本ではおよそ不可能だろう。当然、韓国でも反対はあったが北朝鮮のスパイが多く、朴正煕暗殺未遂事件などのように国家的な危機が相次いだので、身元確認の容易さのために国家が個人情報をコントロールすることが受け入れられたのだ。平和な日本ではおよそ無理だろう。手放しに韓国を良く描こうとする日本のメディアも見受けられるが、祖国への憧憬でもあるのだろうか?
少子化で国力は衰えるのが必至であり、若者は競争に晒されるが、良い大学に入ったとしても就職難に直面し、やっと就職しても長時間労働を強いられるのに終身雇用ではないので安心することはできず、子供を産んでも教育費に家計は圧迫され貯金もあまりできず、老後も不十分な年金しかない。こんな韓国の現状を「ヘル朝鮮」という。
朝鮮半島は歴史を通して大国間の緩衝地帯に過ぎなかったが、現在、韓国は米中対立に巻き込まれている。韓国は経済的には中国に依存しているが、政治的には米国の同盟国である。しかし、文大統領は親中を隠さない。徴用工問題を関係がこじれた日本は韓国にもはや興味がなく、米国も韓国を見限りつつある。文政権がいつまで続くかわからないが、徴用工問題という爆弾を暴発させれば、いよいよ韓国は窮地に立つ可能性が高い。韓国は金融機関が脆弱ゆえに日本のメガバンに資金を頼っている。日本が資金を停止したら韓国経済は終わりなのだ。中国に資金を依存したら、また中国の属国として扱われるのが目に見えている。そればかりか韓国企業を中国が買収して技術だけ貰ってあとはポイ捨てだろう。韓国市場は人口規模で比較して中国の4%に満たず、1つの省程度の扱いだ。そうでなくとも中国は韓国の半導体事業などのシェアを露骨に奪おうとしているが、おそらく数年でひっくり返るだろう。さてさて強国の間でコウモリのように揺れ動く韓国は今後どうなるだろうか。明るい未来ではないことだけはたしかだ。