第98回アカデミー賞で主要4部門を含む計9部門にノミネートされたが無冠に終わったティモシー・シャラメ主演の映画。なお、ゴールデングローブ賞等では主演男優賞を受賞している。

1950年代を舞台に、実在のアメリカの卓球選手マーティ・リーズマンをモデルにした作品。実話ベースかと思ってみていたが、あまりも素っ頓狂な出来事の連続で、壮大な脚色と創作がされていることが分かって、逆に安心して観れた。すごい面白かった。アカデミー賞では無冠だったのが残念だが、人種ネタとかが尾を引いた感がなくはない。

(一部ネタバレ有り)
卓球選手のスポコンかと思ったら、破天荒な主人公のドタバタコメディ。金がなくて金策に走りまくる主人公が真面目なのにあまりにも滑稽で笑ってしまう。ドタバタコメディも本気なのに、アクションぽいシーンがあったり、ハラハラするスポーツの対戦があったり、本当に多彩な魅力が詰まった作品だった。

ティモシー・シャラメは、優男なイメージだが、本作では過活動で倫理観がない主人公を熱演しており、「君の名前で僕を呼んで」「DUNE/デューン 砂の惑星」「名もなき者」などで見せる表情とは全く違う役を演じきっている。この演技の使い分けはあまりにも見事だ。

何気に本作では日本がよく出てくる。というのも、主人公のライバルが日本人で、上野でも撮影されているからだ。ちなみに、日本人役エンドウを演じるのはトヨタ自動車所属のガチの卓球選手の川口功人選手(東京デフリンピック銅メダリスト)である。この川口選手が、寡黙な侍のようで、すっごいカッコいい。このリベンジマッチは実際の出来事がモチーフだが、実際は大阪で開催されたそうだ。

本作は日本もよく登場するのに、そこまで日本で話題になっていないのは、第二次世界大戦直後が舞台で、英米目線で敗戦した日本が登場するからだと思う。日本を悪く描いているシーンはないが、戦中に対立関係だったのは歴史的事実でありそれを踏まえて描かれている。また、ユダヤ人ネタも盛り込まれており、その問題に疎い日本人にはウケが悪いのだろう。ピラミッドの破片をお土産にして、「我々の先祖が作った」といわれても、大半日本人は「?」だろう(ユダヤ人はエジプトで奴隷で、それを解放したのがモーゼなのだ)。

終盤はよくあるご都合主義の展開だったが、それゆえの安定感もある。どこまでもティモシー・シャラメの独壇場という感じ。スポコンファンには肩透かしだろうが、シャラメファンやアメリカンなブラックユーモアやアイロニカルな笑いが好きな人にはたまらない作品だと思う。

 

★ 4.3 / 5.0

米経済誌フォーブスが11日までに発表した2026年版の世界長者番付で、米実業家のイーロン・マスク氏が2年連続で首位となった。総資産は前年比2.5倍の8390億ドル(約133兆円)に急拡大した。同氏が率いる電気自動車(EV)大手テスラの株が急騰したことや、今年にも株式上場が想定される宇宙開発企業スペースXの企業価値が膨らんだことが背景にある。個人資産が8000億ドル台に到達したのは史上初となる。(中略)資産10億ドル以上の富豪は3428人と、前年から400人増えた。ー 日経新聞

 

私が子供のころはビルゲイツが世界一の大富豪で、総資産5兆円ですごいといっていたと思うが、イーロンマスクの総資産がいよいよ100兆円を超えたそうだ。日本は落ちぶれたとはいえ、世界第4位の経済強国だが、国家予算は120兆円ほどであるから、イーロンマスク氏の個人資産は、日本の国家予算を上回る。1000億ドル以上(約15~16兆円以上)を超えるのは世界で20人おり、10億ドル以上(1500-1600億円以上)の富豪は3428人いるそうだが、10億ドル以上を保有しているのは世界人口の上位約0.000042%にあたる。

 

ちなみに、1987年にフォーブズが大富豪ランキングを発表したとき、トップ10のうち6人が日本人で、1~4位を日本勢が独占していた。その時の堤義明氏の総資産は200億ドルで、今の為替で3兆円程度だった。その後、堤義明氏は4年間、世界首位を維持していたが、その後、バブル経済が崩壊。1997年には世界大富豪トップ10から日本人の名前が消滅。2000年に孫正義が世界8位に登場するが、それ以降は日本人の名前は見られない。こうしたデータは、90年前後、ジャパンアズナンバーワンといわれて、日本経済が輝いていたことを示しているが、その後の日本経済の低迷をも雄弁に物語る。円安によりいまや日本の一人あたりGDPは、韓国・台湾を下回り、東欧諸国と変わらない水準にまで落ち込んでおり、老衰国家となってしまった。40年弱でここまで落ちぶれるとはだれが予測しただろうか。

 

それにしても経済格差が凄まじい。世界不平等レポート2026によると、「上位0.001%(6万人未満の富裕層)が、世界人口全体の下位半数の資産の3倍を保有、そしてほぼ全地域で上位1%が下位90%を合わせた資産を上回る資産を持つ」(LINK)。正直、こうしたグローバル経済における経済格差が広がる中で、日本は落ちぶれている。一人当たりGDPでは台湾・韓国に追い抜かれ、一人当たりGDPでは世界30位未満になってしまった。国の経済規模でみても、インドに追い抜かれ、世界第5位にまで後退する。なお、「子ども・子育て支援金」の徴収が2026年4月分から開始されるので、さらに手取りは減少し、消費活動にはマイナスになる。まだ大丈夫と思っていたのが、いよいよダメになってきた。

イギリス議会の上院(貴族院)は10日、世襲貴族の議員を廃止する法案を可決した。これによって、世襲貴族が自動的に議員を務めるという数百年前からの伝統が終わることになる。上院の世襲貴族議員を全員廃止する政府案については、根強い反対もあったが、政府が妥協案を提示した結果、上院は「上院(世襲貴族)法案」を可決した。貴族の位を世襲で相続した人が自動的に上院議員を務める制度は、1999年に当時の労働党政権が大幅に改革し、世襲貴族の議席のほとんどが廃止されていた。残っていた世襲貴族議員92人の議席が、今回の法律で廃止される。― BBC

 

英国では、世襲貴族が、国会の上院(貴族院)で世襲で議席を有しているというと驚くかもしれないが、現時点では世襲で議席を有している。もともと貴族院では、英国国教会(聖公会)の高位聖職者と、世襲貴族(男性)のみが議員になれたが、1958年に保守党首相ハロルド・マクミラン(ストックトン伯爵)により一代貴族法が制定され、男女問わず一代に限り貴族院議員に登用できるようになった。例えば、元英国首相のマーガレット・サッチャーも首相退任後に女男爵となり貴族院議員になり、ボリス・ジョンソン元英国首相の弟もジョー・ジョンソン男爵(一代貴族)として貴族院議員であり、デーヴィッド・キャメロン元英国首相も政界復帰の際に男爵(一代貴族)になり貴族院議員となっている。

出典:LINK

 

労働党の躍進等もあり、20世紀初頭から改革が叫ばれていたが、大きく動いたのはブレア政権(労働党)下であり、1999年の貴族院法で世襲貴族の議席を大幅制限したことで、身分制議会から任命制議会の色が強くなった。また、専門性がある人を一代貴族として貴族院議員とするため専門性が確保されるようになった。その後、貴族院改革は停滞していたが、今回、スターマー政権(労働党)が世襲貴族議員の全廃法案を提出し可決したことで、世襲の貴族議員は消滅することなった。そもそも、貴族院は定員すらなく、貴族院議員は829名であるのに、英国国民が直接選出した下院議員数は650人しかいないことを考えると、国民の意見を国政に反映させるという観点でみれば、異様な規模だった。これが長らく改革されてこなかったというのが驚きである。

 

日本の感覚だと、世襲というと、親から地盤を引き継いで当選する世襲議員を想像するが、これは選挙によって選ばれているので、英国の世襲貴族が貴族院に自動的に議席を有することとはわけが違う。日本では敗戦し、GHQの改革で財閥は解体され、華族制も廃止され、莫大な相続税を課されたことで上流階級は崩壊した。結果、日本の歴史に名を刻んだ五摂家・大大名家・財閥家などの名家も、表立って名を聞く機会は少ない。一方、英国は世界大戦を二度潜り抜け、世襲貴族制を維持している稀有な国であり、上流階級が歴然と存在している。ユーラシア大陸の隅っこにある島国同士ではあるが、日本は総中流社会として発展したので、対比的である。

 

さて、英国の話に戻るが、貴族院に世襲貴族がいないのだとすると、すべての議員が一代貴族ということとなる。そうなると、一代貴族に任命し、貴族院議員とする必要性があるのだろうか。貴族に任命して貴族院議員とならずに、平民として上院議員のようなかたちで職務にあたればいいだけだろう。今回の改革が貴族院の性質にどのような影響を与えるのか、今後の動向が気になるところである。

 

余談だが、今回、世襲貴族としての議席を喪失する貴族院議員には、歴史上に名を刻んだ人物の子孫も多い。例えば、第9代ウェリントン公爵チャールズ・ウェルズリー卿がいる。初代ウェリントン公爵は、1815年のワーテルローの戦いにおいて、ナポレオンを打ち破った軍人として著名である。第9代ウェリントン公爵夫人であるプリンセス・アントニアの両親は、ドイツ皇帝ヴィルヘルム2世の孫であるプロシアのフレデリック王子と、第2代アイヴァーン伯爵令嬢のブリジッド・ギネス令嬢(ギネスビールで有名なあのギネス家である)である。

 

他にも、第7代ソールズベリー侯爵ロバート・ガスコイン=セシル卿も世襲貴族としての議席を失う。第3代ソールズベリー侯爵は、三度にわたり英国首相を歴任したが、ボーア戦争をはじめとする帝国主義外交を行った。日本とは日英同盟を締結した首相としても知られている。セシルというと、国際連盟創立者の一人でノーベル平和賞を受賞したロバート・セシル(初代セシル・オブ・チェルウッド子爵)を知っている人もいるかもしれないが、第3代ソールズベリー侯爵の三男にあたる。

 

英国を知るには貴族の知識は必須だが、日本では貴族制への理解が恐ろしく乏しい。今回の英国貴族院改革もほとんど取り上げられていないのは残念なことだ。なお、英国貴族の基礎知識であれば、次の新書を推奨したい。

 

 

ドナルド・E・ウェストレイクの小説「斧」を原作とした作品。名匠コスタ=ガブラスが先に同原作を映画化していたのだが、韓国の鬼才パク・チャヌク監督がリブートを熱望し本作が誕生。

韓国社会における男性へのプレッシャーなどを下地にしつつ、グローバル化・AI・機械化等で奪われていき、仕事を奪われる人々を起点として物語が動き出していく。笑えないのに笑ってしまうブラックユーモアあふれる展開が魅力。シュールな笑いが好きな人には強くおすすめしたい。

(以下、一部ネタバレ有)
結局、真実を話すのが正しいとしても、その選択がしあわせとは限らない。しあわせのためなら目をつむるべきだろうか?人生とは選択の連続だ。妻と息子は現実的な選択をするが、しあわせな現実な一方で倫理的には正しいのだろうか?こうした俗っぽい2人と対比すると、娘は無垢で純粋だ。娘は音楽の才能があるが、こうした汚い現実を浄化する存在として、音楽・芸術がおかれていたように思う。

最後、主人公はイヤホンで耳を塞ぎ、機械化された工場で働く。人の意見など聞いていられないのだ。そして、伐採される木々の映像が流れながらエンディングとなるが、この伐採される木々は、労働者のメタファーだろう。

楽曲の使い方も印象的で、3人の取っ組み合いで流れるチョー・ヨンピルの「赤とんぼ」はすごい良かった(「パラサイト 半地下の家族」での家政婦と家族との取っ組み合いをほうふつとさせる)。ノリノリの音楽に身を任せながら崩壊していく倫理観がたまらない。

ただこんなに面白い設定と素晴らしい俳優陣なのに、なぜかテンポの悪さと、まとまりが若干悪い感じがしたのが惜しまれる。ポン・ジュノ監督の「パラサイト 半地下の家族」のように注目されるべき作品になったと思うのだが、どこか惜しい。パク・チャヌク監督作品は、凄い面白い設定と演出なのに、どこか余計なことをしてバランスを崩している作品が多いように思う。本作もずば抜けて面白かった、素晴らしかったと言い切れないのが悔しい。こんなに良い作品なのに!

 

★ 3.8 / 5.0

 

大好きなミュージカルの「ウィキッド」の映画版。二部構成で、前作の公開から約1年、ようやく本作で完結。アカデミー賞もノミネートゼロで、前編のほうの出来が良かったという声が多いのだが、たしかに納得。各シーンは素晴らしいし、感動もしたのだが。。

ミュージカル版だと2時間半ほどの作品だが、本作は前編・後編をあわせると5時間になっており、特に後編はストーリー展開があまりなく間延びしている感じがする。いっそのこと1本の長編として描いた方がよかった。二部に分けることで、一気に観た時の感情の高揚感も減ってしまう。

映画版では細部まで丁寧に描いているのであるが、さすがにテンポが悪いし、観客が想像する余地を奪ってしまう。また、楽曲は良いものの、前作と比べてしまうと、見せ場となる楽曲シーンも本作は限定的である。

前作よりも「オズの魔法使い」のストーリーに絡んでくるので、「オズの魔法使い」を知らないと何のことを言っているのか分からないシーンが多くあるので、映画版「オズの魔法使い」は予習で観ておくことを推奨したい。

本当に良い作品ではあるのだが、求めていた期待値からすると、少々腰砕け感が否めなかった。もし二部作ではなく、3時間半ぐらいにまとまっていたらものすごい名作だったのではないかと思う。

 

★ 3.8 / 5.0