1940年代、戦後の混乱期にある上海のある洋館を舞台に、一癖ある映画業界人が集められる。一晩で殺人事件の映画脚本の完成を求められるのだが、なんと事件の真犯人も同席。事件の真相を明かして脚本に落とし込もうとする中で徐々に衝撃の事実が明らかになっていく・・・。

よくある洋館を舞台にした謎解きサスペンスかと思いきや、最初のほうはコミカルなタッチ。中盤は当時のシックな上海の劇場を想起させるダンスシーンがあったりするのだが、後半の謎解きから衝撃の真相が明らかになり、さらにもう一段オチが来る展開で、かなり面白かった。

なかなか事件の真相がえげつないのだが、エプスタイン事件を彷彿とさせる。2021年の中国の作品が、いまさら日本で劇場公開ということで、その話題性にのっかったのかなと思う。しかし、韓国ノワールほど、残忍でもなく、絶望のまま終結しないのが救いである(中国では政府の意向もあり、道徳的・倫理的な節度とラストが用意されている)。

洋館を舞台にした謎解きというとよくある話だが、これを社会問題も絡めた展開にするとは恐れ入る。中国では大ヒットしたそうだが、さすが面白かった。

 

★ 4.0/ 5.0

 

 

観ながら「あれ、こんな話だっけ?」と思い、映画を観終わってあらすじを再度読んだのだが、だいぶ改変されている。というか、後半部分は全カット。主人公キャサリンのお兄さんも出てこない。原作に忠実な映画版ではなく、エメラルド・フェネル監督が「嵐が丘」を原作に、現代風に再構築した映画。

前半は物語に引き込まれたし、全体通して興味深く観させてもらった。ただ、当初は全体的に装飾や調度品などがモダンなテイストで素敵だなと思ったのだが、さすがに過剰でくどい。キャサリンのお父さんが亡くなるシーンで、背景のうず高く積まれた空き瓶とかギャグにしか見えなかった。キャサリンが身に着ける服装はあまりに派手で、身に着けている宝石は主張があまりに強く、大き過ぎる。ヒースクリフの部屋もいくらなんでも荒れ果て過ぎだろう。

そして、原作にはない性的シーンがあれこれ追加されているのだが、SMタッチのシーンなどは、正直、気分が良いものではない。暖炉の手をモチーフにしたデザインなども個人的には少々悪趣味に感じられた。

ただ全体的には登場人物を削り、表現は過剰だが、キャサリンとヒースクリフの純愛に焦点を当てたプロットは分かりやすく、ストーリー展開も推進力が維持され、飽きずに観れた。衣装や室内装飾なども節度あるものについては素晴らしかった。格調高い文芸作品の映画版と思ってみると、全く異なるものであるが、モダンなテイストで再構築されたものとして鑑賞すると、斬新で興味深かった。英国のシンガーソングライターのチャーリー・XCXの楽曲なども個人的には良かったと思う。

 

★ 3.7 / 5.0

 

3連休最終日の夜は松本和将さんのピアノリサイタルへ。松本和将さんの演奏はずっと前にテレビで聴いてから虜になっており、一度、生演奏を聴きたいと思っていた。オールラヴェルプログラムと、なかなか粋な選曲である。場所は音楽ホールではなく、「タカギクラヴィア 松濤サロン」という50席ほどの小さなサロン。防音性が低く、道路の音などが結構聴こえてくる(;´∀`) しかし、ピアノはスタインウェイで、小さなサロンなので響きもちょうどよく、大変満足だった(1ドリンク付きだったのでワインもいただけましたし笑)。

 

松本和将さんは日本音楽コンクールで優勝しており、また、ブゾーニ国際ピアノコンクールで第4位、世界三大ピアノコンクールの1つエリザベート王妃国際音楽コンクールでも第5位の上位入賞を果たしている。知名度がとても高いわけではないが、CDも多数リリースしており、レコード芸術特選盤に2枚が選ばれるなど、名演奏家として知られる。

 

【プログラム】

(前半)亡き王女のためのパヴァーヌ、水の戯れ、ソナチネ、夜のガスパール

(後半)鏡

(アンコール)亡き王女のためのパヴァーヌ

 

本当に極上の演奏だった。ピアニッシモが本当に儚く美しい。色彩豊かで、詩情たっぷりで雰囲気の引き出し方が率直にすごい。過度な演出や、過剰な感情表現などはなく、どこまでも中立的に誠実に奏でていく。曲の深い理解と、真摯な姿勢が演奏から伝わってくる名演だった。ピアノの音を鳴らしているというより、ピアノが音色をそれこそ自発的に奏でているような自然さがある。天から音が降り注ぎ、スッと心に染み入ってくるような感覚。素人の聴衆がおこがましいが、大変な音楽性だと思う。トークをはさみつつの演奏会だったが、曲の解説も興味深く拝聴させていただいた。「鐘の谷」を「風の谷」と言い間違えて「ジブリになっちゃう」というセルフツッコミには微笑まさせていただきました。

 

最近はピアニストというと、Youtubeなどで派手な演奏だったり、超絶技巧で分かりやすい表現をされる人が好まれる傾向があるように思われるが、一方で、松本さんのような正統派の極上のピアニストももっと注目されてほしいなと思う。超絶技巧は加齢とともに失われていくし、派手な演奏は飽きられやすい。ウィスキーやワインのように年数を重ねることで円熟を増す演奏はもっと長く楽しめて良いものである。

 

伝説のピアニストのブーニン。2013年に突如として表舞台から姿を消し、9年の沈黙の後に復活を果たす。そんなブーニンと、傍らで彼を支えた奥様の榮子さんを追ったドキュメンタリー。

ブーニンは、父親もピアニストで、祖父はギレリスやリヒテルの師でもあるモスクワ音楽院の名教師ゲンリフ・ネイガウス。17歳でロン=ティボー国際コンクール(ピアノ部門)で最年少優勝、1985年に19歳でショパン国際ピアノコンクールでも優勝し、一躍ブーニンフィーバーを巻き起こしたピアニストである。ショパンコンクールの演奏はCD等で聴けるが、スピーディでキレのある音は何度聴いても感銘を受ける。特にワルツ第4番、革命のエチュードは絶品。

彼はなぜ表舞台から姿を消したのか知らなかったのだが、左肩に「石灰沈着性腱板炎」が発生し、左手が思うように動かなくなり、さらに左足を骨折し、治療したものの症状が悪化。左足を一部切除し接合する手術を行い、左足は残ったものの8cm短くなってしまったそうだ。劇中でも語られるが、足は体のバランスをとったり、指先から体重を鍵盤に伝えるのに重要であり、演奏への影響が大きい。そうした苦難を乗り越えての復帰だそうだ。ただ面白いもので、苦難を経たが故の音もあるもので、劇中に流れる味わい深い演奏は素晴らしかった(演奏者が満足いくものではなかったにせよ)。

ブーニンは奥さんが日本人なので日本語を少し話せるが、日本語で他愛もないコメントをするシーンがほほえましかった。彼が亡命した理由も初めて知ったが、当時、音楽院からコンサートを禁止されるなど、自由な演奏活動ができなかったことが原因のようだ。アシュケナージやアファナシエフなど亡命を余儀なくされた演奏家は多い。

本作では、ブーニンと関係がある人もインタビューに答えているが、個人的にはジャン=マルク・ルイサダさんのインタビューが興味深かった。日本人ピアニストも登場していたが、ブーニンが優勝したショパンコンクールで第4位入賞の小山実稚恵さん、ショパンコンクール第2位の反田さん、同コンクール第4位の桑原さん、ロンティボー優勝者亀井さんなど錚々たる面々で、非常に貴重な映像である。

個人的にはブーニンさんのご自宅の映像なども興味深く観させていただいた。ピアノはイタリアの名器FAZIOLIを使用されているんですね。

本ドキュメンタリーは、解説やインタビューはそこそこに、演奏をたっぷりと聴かせてくれるのが素晴らしい。ぜひ音響の良い映画館での鑑賞をおすすめしたい。音響坂本龍一監修の109シネマズプレミアム新宿で聴いたが、本当にコンサート会場にいるような臨場感を味わえた。機会があればぜひおすすめしたい。

復帰コンサートでの演奏をたっぷりと堪能できる極上の音楽ドキュメンタリーだった。

 

★ 3.9 / 5.0

 

 

2003年の韓国映画「地球を守れ!」をリメイクした作品で、鬼才ヨルゴス・ランティモス監督がメガホンをとった。主人公を演じるのはエマ・ストーンだが、ランティモス監督の作品に出るのは4作目で名コンビ。

ちなみに、題名のブゴニアは、ミツバチは腐った牛の死体から自然発生するという古代ローマの信仰に由来している。生と死、終わりと再生を象徴しているタイトルである。

【一部ネタバレ有り】
個人的にはすごい面白かった。人に薦められるような内容ではないが、エッジの効いた社会風刺やブラックユーモアが面白い。しかも、映画のラストは、どっちもあり得るなぁと思っていたが、あまりにも壮大で衝撃的なラストだった。サスペンスかと思ったらSFだった笑。

本作のためにエマ・ストーンは実際に丸刈りにして撮影に挑んだというから驚かされる。なお、力ある者が、髪の毛を失い力を無くすというのは、怪力の男が力の源である髪の毛を剃られて力を失うという旧約聖書の「サムソンとデリラ」のエピソードに由来しているのだろう。

それにしても陰謀論というと、信頼性が低いのは事実だが、しかし、陰謀論が実は事実だったなんてことは現実でもある。エプスタイン事件もそうだろう。こんな荒唐無稽なことがあるわけないと思ったら事実で、王族・政治家・財界人の一大スキャンダルになっている。陰謀論を信じる人もちょっと問題があるが、陰謀論だから事実ではないと思考停止することも問題なのだ。

こうしたトリッキーな展開に目が行くが、個人的には映像もすごい好きだった。主人公の服装や自宅、会社の雰囲気などが洗練されていてカッコイイ。地下室での様子も、シリアスな場面であるはずなのに、クライム映画みたいなほの暗さがない。ラストの宇宙船の内装や服装のデザインは、私はあまりだったが、よく見ると、詳しくは言わないが、主人公の帽子は、題名ブゴニアを想起させるデザインなのだろう(私はちょっと苦手でした・・・)。

映画のラストシーンはすごいお気に入りで、破滅的ながら美しかった。でも、こうした歴史は一直線でいつかは終わるって終末的な発想が、西洋的だなと思う。ヨハネの黙示録的な歴史観が根底にある。韓国の映画が原作だけど(観てないけど笑)、韓国もキリスト教徒が多いですからね。日本人の感覚とはちょっと違うなと思う(だからこそ刺激的に鑑賞できるのですが)。

かなり好き嫌いが分かれる作品だと思いますが、私には刺さりまくりの作品でした笑。低評価でも高評価でも、どちらにも共感します笑。

 

★ 4.8 / 5.0