『ヒストリエ』の参考文献リスト | 胙豆

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傲慢さに屠られ、その肉を空虚に捧げられる。

書いていくことにする。

 

僕は今まで散々に『ヒストリエ』の解説やら考察やらを書いてきたのだけれども、その検証作業の最中に岩明先生が『ヒストリエ』の材料に使ったであろう資料が色々分かったので、今回はそれをリストアップするだけです。

 

どういう書き方が良いか迷ったけれども、まず初めに一覧を用意して、その後に個別の細かい説明を入れていくことにする。

 

・確実に読んだであろう資料

プルタルコス 『プルターク英雄伝』 河野与一訳 岩波文庫

ヘロドトス 『歴史』 松平千秋訳 岩波文庫

ホメロス 『イリアス』 松平千秋訳 岩波文庫

ホメロス『オドュッセイア』 松平千秋訳 岩波文庫

ポンペイウス ・トグロス 『地中海世界史』 合阪学訳 西洋古典叢書

 

・読んだ可能性があるもの

アッリアノス 『アレクサンドロス大王東征記およびインド誌』 大牟田章訳 岩波文庫

ヘシオドス 『神統記』 松平千秋訳 岩波文庫

ヘシオドス 『仕事と日』 松平千秋訳 岩波文庫

クセノポン 『アナバシス』 松平千秋訳 岩波文庫

トゥキュディデス 『戦史』 久保正彰 岩波文庫

 

・読んだであろう漫画

原泰久 『キングダム』 集英社

幸村誠 『ヴィンランド・サガ』 講談社

 

とりあえずは以上で、今後、新たに発覚したらこのリストに足していくことにする。

 

リストアップが完了したので、それぞれについて説明を加えていくことにする。

 

・『プルターク英雄伝』について

僕は以前、岩明先生が『プルターク英雄伝』をベースに『ヒストリエ』を描いているのだろうということをねっとりとした方法で検証した。(参考)

 

まぁ以前書いた以上のことはないのだけれど、この前、そのときに行った大学の図書館にまた行く用事があったので、ついでに『プルターク英雄伝』のアレクサンドロス大王の列伝を軽く読んでみた。

 

『プルターク英雄伝』の全部は読む気はなかったから、アレクサンドロスの話だけ図書館でコピーしようと思っての行動だったのだけれども、実際見てみたら80ページくらいあって、コピーしたら余裕でAmazonで『プルターク英雄伝』のアレクサンドロスの話が載ってる巻が買える金がかかると分かったので、ざっと目を通して終わりにした。

 

終わりにしたのだけれども、その中で、アレクサンドロスが医学に知識があって、そのことはアリストテレスに薫陶を受けたものだろうという記述があった。

 

『ヒストリエ』でもアレクサンドロスはアリストテレスの医術に感銘を受ける場面が存在してる。

 

(岩明均『ヒストリエ』6巻pp.185-186 以下は簡略な表記とする)

 

(11巻p.17)

 

あの心臓マッサージのくだりはどうやら、『プルターク英雄伝』のアレクサンドロスの話の記述が元らしい。

 

加えて、アレクサンドロスがアレクサンドロポリスと占領した都市に名付けた話もあった。

 

(10巻pp.134-135)

 

とはいえ、『プルターク英雄伝』ではフィリッポスはこのことについてアレクサンドロスを称賛していたから、まるきり『プルターク英雄伝』のままということもないらしい。

 

まぁパラパラとしか読まなかったから、それ以上のことは分からないけれども。

 

とはいえ、総合的に勘案して『ヒストリエ』のベースは『英雄伝』で、岩明先生が読んだのは岩波文庫の『プルターク英雄伝』だろうから、『ヒストリエ』の原作が知りたかったら、『プルターク英雄伝』を読むのが手っ取り早いのだろうと思う。

 

 

 

岩明先生は全12冊を全部読んでいるみたいだし、1巻のリンクを用意しましょうね。

 

次。

 

・ヘロドトスの『歴史』について

『ヒストリエ』の主人公であるエウメネスはスキタイ出身なのだけれども、スキタイのことなんて基本的にヘロドトスの『歴史』くらいにしか言及がない。

 

実際、Wikipediaの"スキタイ"の記事も8割くらいヘロドトスの『歴史』に依っている。(参考)

 

岩明先生がエウメネスをスキタイにすることに決めた何らかの動機があるだろうとは思うけれども、まぁ単純に、岩明先生がヘロドトスの『歴史』が好きなのだと思う。

 

『ヒストリエ』の前半、やたらにヘロドトス推しだしな。

 

(1巻p.22)

 

(3巻pp.139)

 

(5巻p.104)

 

ここまでヘロドトスのことを言わせておいて、ヘロドトスを読んでないとか逆に凄くなってきてしまうから、岩明先生はヘロドトスの『歴史』が好きなのだと思う。

 

加えて、あのハルパゴス将軍のエピソードも出典は『歴史』だから、まぁ岩明先生は『歴史』を読んでいるし、エウメネスがスキタイ出身なのは『歴史』の記述に由来していると言っていいと思う。

 

『プルターク英雄伝』においてエウメネスは嫉妬に加えてマケドニア人ではないという事柄から酷く蔑ろにされていて、いくら何でもマケドニア人じゃないだけでここまで虐めるか?ってくらい虐められている。

 

おそらく、その虐めをもっと分かりやすい形に変更するに際して、エウメネスはスキタイになったのだと思う。

 

僕は『歴史』は読んでない…というか、この前ヤフオクで落札しようとしたら競り負けたので、実際の所はご自身の目で確かめてもらいたい。(他力本願)

 

 

 

次。

 

・『イリアス』『オデュッセイア』について

…これは以前書いた以上のことはないから、何も言及しない。(参考)

 

『イリアス』は確実に読んだだろうけれども、多分『オデュッセイア』も読んだでしょ。(適当)

 

商品のリンクは内部データ的に文字数を食うから、気になった人は直上のリンク先から飛んでください。

 

・『地中海世界史』について

これについてはこの前書いた以上のことは理解していなかったので、急遽、この記事のためにお手元の『地中海世界史』をパラパラと読むことにした。

 

結果、1分くらいで『ヒストリエ』の材料になっていると判断できる記述を見つけた。

 

『ヒストリエ』ではスキタイの王とフィリッポスは戦争をしているけれども、その話はほぼほぼ『地中海世界史』と同じであって、あの話は岩明先生が『地中海世界史』のこれから引用する文章を読んで描いたと言っていいと思う。

 

「 その当時、スキュティアの王はアテアスであった。彼はヒストリアの住民との戦争で苦しみ、アポロニア人を介してピリッポスに援助を求め、〔自分は、ピリッポスを〕養子にしてスキュティア王国の継承者にするであろう、と言った。その間、ヒストリア王が死に、スキュティア人は戦争の脅威と援軍の必要から解放された。そこで、アテアスは〔援軍に来ていた〕マケドニア人たちを帰し、ピリッポスに、自分は彼の援助を求めたことも、長子縁組をしようとしたこともなかった、と伝えるように命じた。なぜなら、〔スキュティア人は〕マケドニア人より優れているのだから、彼らによる解放を必要としていないし、また息子が健全なので、自分に跡継ぎがいないわけでもない、というのである。これを聞いてピリッポスは、アテアスの所へと使者を出し、〔ビザンティオンを攻囲する〕戦争の継続を戦費の不足故に断念することにならないように、と言って、攻囲に要する費用を求めたが、〔彼によれば〕こういう要求を自分が〔アステア王に対して〕進んでしなければならないのは、同王を援助するために自分が送った兵士たちに、自分は勤務の手当てだけでなく、生計の費用すら与えていないからだ、という。これに対してアテアスは、天候の厳しさと土地の不毛さとを口実に持ち出し、それらがスキュティア人を財産で富ませず、食料もほとんどない状態にしてしまった、と言い、自分たちは偉大なる王〔であるあなた〕を満足させるような富は何もないのだ、と答えた。そして、〔さらに付け加えて次のように言った。即ち、自分たちは〕わずかなものを手にして仕えるような恥しいことをせず、むしろ全部を拒む方がよいと思う。自分たちスキュティア人は富によってではなく、精神の勇気と身体の頑強さとで評価されているのだ、と。(ポンペイウス・トグロス 『地中海世界史』 合阪学訳 京都大学学術出版会 1998年 pp.156-157)」

 

(8巻pp.102-109)

 

先の引用の後、彼らを戦争で打ち負かした帰りに、トリバロイの襲撃を受けてフィリッポスが太股に大けがをして、その際に乗っていた馬が殺されるほどだったという記述もあって、まぁ一連の『ヒストリエ』の描写は『地中海世界史』が元だと言っていいと思う。

 

とはいえ、『ヒストリエ』と『地中海世界史』とでは戦いの経過に違いがあって、『地中海世界史』ではビザンティオンの攻城戦の戦費のために金を出せと要求していて、ビザンティオンは未だ包囲中になる。

 

一方で『ヒストリエ』では攻囲はもう切り上げている。

 

そこについてはおそらく、『プルターク英雄伝』のフォーキオンの話が理由にあって、フォーキオンが海軍を率いてビザンティオンでマケドニア軍を打ち破ったという話が書いてあって、そのことを描くことを優先した結果として、『ヒストリエ』ではビザンティオンの後にスキタイ人との戦いが描かれているのだと思う。

 

『プルターク英雄伝』のフォーキオンの話は読んでないから想像だけれど。

 

まぁここまで似通っていて参考にしていないとは考え難いから、岩明先生は『地中海世界史』は読んでいると思う。

 

それとも『地中海世界史』の内容を紹介した概説書でもあるのかねぇ。

 

分からないけれども。

 

 

次。

 

以下は確実に読んだと言えないテキストについてになる。

 

・ 『アレクサンドロス大王東征記およびインド誌』について

おそらく岩明先生はこの本を読んでいるのだけれども、表題通りに内容がペルシア戦争についてだから、『ヒストリエ』の物語がそこまで至っていない。

 

だから、どれ程に『ヒストリエ』に影響を与えるのかは分からないのだけれど、個人的に、『ヒストリエ』がペルシア戦争をやり遂げるところまで出来るとは思えないので、色々アレではある。

 

現状のペースだと、ペルシア戦争の途中までが精々なんじゃないのかなと思う。

 

悲しいなぁ…。

 

・追記

岩明先生がこの本を読んでいるらしいということが分かった。

 

この本にブーケファラスの顔の模様についての言及があるとか。(参考)

 

まぁ僕は読んでないからよう知らんけど。

 

 

次。

 

・『神統記』『仕事と日』について

詳しくはここを参照のこと。(参考)

 

…『ヒストリエ』にはそれっぽい記述があるから、読んでるかもね。

 

次。

 

・『アナバシス』について

前半、やたらに『アナバシス』の名前が出て来ていたから、読んでいるのかもしれない。

 

(1巻p.117)

 

(1巻p.141)

 

(1巻p.144)

 

僕自身は『アナバシス』を読んでいないから、『ヒストリエ』にどれ程与えているのかは分からない。

 

ちなみに、アナバシスの著者であるクセノフォンはソクラテスの弟子でもあって、そういう文脈で哲学の中でも彼についての言及がある。

 

とはいえ、他の弟子のプラトンのように高度な哲学的な議論を彼は好まなかったようで、彼の著書は沢山残っているけれども、哲学的な価値は皆無に等しくて、哲学の文脈では酷く蔑ろにされている人物になる。

 

まぁ、哲学とかいう劣った学問に蔑ろにされても、そのことは何も問題ではないとは思うけれども。

 

 

…一切関係ないのだけれど、先に本屋のシーンを引用してふと思ったことがあった。

 

エウメネスは将来的にパフラゴニアに戻るのだけれども、その時に、ティオスのあの本屋に今度は金を持ってやってきたりするのかもしれない。

 

(3巻p.187)

 

このことが伏線だったとしても、物理的に回収できない伏線でしかないよなと思う。

 

次。

 

・トゥキディデスの『戦史』について

この本はヘロドトスの少し後のギリシアについての話であって、岩波文庫から邦訳が出版されている。

 

岩明先生は原典訳の古代ギリシアについての資料を読む人であるということを考えると、このトゥキディデスの『戦史』も読んでいる可能性がある。

 

とはいえ、『ヒストリエ』の時代より結構前の話だし、僕自身、『戦史』は読んでいないので、はっきりしたことは分からない。

 

…そういえば本棚にあったよなと思って本棚を見てみたら、あったのはトゥキディデスではなくてタキトゥスだったし、優先順位的にヘロドトスの方が先だろうから、今後、トゥキディデスの『戦史』を読むことはないと思う。

 

どうせつまんないだろうしね。(辛辣)

 

 

岩明先生が読んだかもわからない本のリンクとか用意して何の意味があるんだよとは思うけれども。

 

さて。

 

最後に、岩明先生が読んだ漫画について色々書いていく。

 

・『キングダム』について

これについてはこの前書いた通りで、それ以上でもそれ以下でもない。

 

(10巻p.204)

 

ここでメナンドロスが「天下の大将軍だぜ?」と言っているけれども、これはおそらく、『キングダム』という漫画が元だと思う。

 

(原泰久『キングダム』26巻pp.189-190)

 

…どうでもいいのだけれど、天下の大将軍と言っているシーンを探すに際して少し『キングダム』を読み直して気付いたけど、蒙武は父親の死に際に現れてないんだな。

 

やっぱり、原先生って古代中国のことって言うか儒教のこと分かってないんじゃないかなと思う。

 

当時の価値観的におそらくあり得ないというか、そんなことしたら兵士が誰もついてこなくなるレベルだと思うんだよなぁ…。

 

まぁいいや。

 

岩明先生が触れた『キングダム』はアニメ版か、さもなければ断片的な情報なのではないかと思う。

 

『キングダム』は今、54巻出ていて、岩明先生の体力的にそんなに読めないのではないかなと思う。

 

そんな体力があったら、もう少しアフタヌーンに『ヒストリエ』は掲載されると思う。

 

ぶっちゃけ、『HUNTER×HUNTER』より単行本は余裕で出てないからね、しょうがないね。

 

次。

 

・『ヴィンランド・サガ』について

これは…まぁこのシーンについてになる。

 

(11巻p.142)

 

エウメネスのセリフの中の二つ、なんつーか、『ヴィンランド・サガ』ですよね…。

 

ただ、どういうことかを説明すると『ヴィンランド・サガ』のネタバレになるのでそういうことはしないけれども、何をどう考えても『ヴィンランド・サガ』だと思う。

 

現在『ヴィンランド・サガ』はアニメが放映されているらしいけれども、これを描いていた時にはまだアニメは始まっていないので、岩明先生は『ヴィンランド・サガ』を読んでいるのだと思う。

 

一方で『ヴィンランド・サガ』にも『ヒストリエ』由来だろう描写があって、主人公のトルフィンが幼少期に「よくも!○○たなァァアアッ!!」と叫んでいるし、時系列が『ヒストリエ』のように、現在→過去(幼少期)→最初の続き、という流れになっている。

 

更に、『ヒストリエ』では主人公が奴隷に落ちるけれども、『ヴィンランド・サガ』でも奴隷に落ちるというシチュエーションは存在しているし、どちらの作品も復讐は無駄だという話になっている。

 

(5巻p.96)

 

時系列的には『ヒストリエ』が先だから、『ヴィンランド・サガ』のあの描写は『ヒストリエ』由来だろうし、『ヒストリエ』11巻のあのセリフは『ヴィンランド・サガ』由来だから、持ちつ持たれつ、影響を与え合っている様子がある。

 

こういう事は時々あるようで、『HELLSHNG』と『鋼の錬金術師』も互いに由来があるだろう描写が存在している。

 

漫画家とて漫画から影響を受けることもあって、手塚治虫の『火の鳥』には人間に擬態が出来て人間社会に紛れて生きることが出来てテレパシーで意思疎通をするという、まんま『寄生獣』のパラサイトみたいな生物が出てくるらしいし、そういう風に漫画からの影響を受けるということはある。

 

まぁ、『寄生獣』の同居する寄生体という発想については、SF小説の『たったひとつの冴えたやりかた』が元ネタでミギーはそこからだろうと思うけれども。

 

だって、その小説だと寄生体は胞子の状態で最初出てくるらしいですし。(未読)

 

折角なのでAmazonリンクも用意しましょうね。

 

 

これくらいかな。

 

本当は『寄生獣』におけるリチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』についての話を書いていたのだけれども、内部処理的に40000字を越えてこれ以上書けなくなったので終わりにする。

 

やっぱり、商品リンクは内部的にかなり文字量が多いらしい。

 

超過した分を何とかするために『神統記』とかのリンクを削ったり色々してたけれども、『たったひとつの冴えたやりかた』の方が重要かと思って、そっちを残すことにした。

 

まぁアフィリエイト収入はアメブロだと発生しないから、あまり意味のある事でもないのだけれど。

 

そんな感じです。

 

では。