『ヴァンデミエールの右手』と『On Your Mark』について | 胙豆

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傲慢さに屠られ、その肉を空虚に捧げられる。

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書いていくことにする。

 

この記事は本来的にあのサイトに書いた「『ヴァンデミエールの翼』の新装版が出た理由などについての解説」を書いたとき(参考)に書いた内容で、後にガバが発見されて削除したときのものになる。

 

『ヴァンデミエールの翼』の一番最初のエピソードである「ヴァンデミエールの右手」の話の内容が、あまりにもジブリのアニメである『On Your Mark』に似ていることから、僕はヴァンデの元ネタがこのアニメなのではないかと考えて、そのことを先の記事に言及していた。

 

そのことを書いた数日後、「あれ?時系列はしっかり確かめなかったけれど、この二つの発表の時系列はどうなっているのだろう」と思って確かめたら、両方とも1995年の発表で、同じ年のそれだった。

 

僕はそれに気が付いて、その場でやべぇよやべぇよ…必ずしも「ヴァンデミエールの右手」が後発とは言えねぇよ…と思って、即座にその記述を削除してしまっていた。

 

なのだけれど、あれから半年以上たって落ち着いてそのことを考え直したのだけれど、該当の記述を全て消すまでもなかったということが分かった。

 

なので、今回は一応の意味で複製しておいたその内容を持ってきて、ただそのまま持ってくると文脈が分かりづらいので、少し手を加えたものに、今回明らかになった時系列の話とかを加えたものを公開することにした。

 

「ヴァンデミエールの右手」という物語なのだけれど、僕はそのおおよその元ネタについて把握している。

 

これはあくまで推測なのだけれど、多分骨格はジブリの短編映画の『On Your Mark』だと思う。

 

(『On Your Mark』より。http://movie-man.com/211-onyourmark/)

 

この『On Your Mark』はジブリの映画である『耳をすませば』と同時上映された数分程度の短いアニメーションになる。

 

おそらくなのだけれど、「ヴァンデミエールの右手」という物語は、この『On Your Mark』という一つの物語を原型として、それにフロイトの精神分析学の発想や、ブラッドベリの小説である『何かが道をやってくる』という物語の情報を組み合わせて構築されている。

 

まず、『何かが道をやってくる』についてなのだけれど、これはもう鬼頭先生自身がインタビューでヴァンデの元ネタだと言及している。(参考)

 

僕はめんどくさいから読んでないのだけれども、読んだ人曰く、ミルトンやエイバリーやといったヴァンデに登場する人名も登場するらしい。

 

(鬼頭莫宏『ヴァンデミエールの翼』1巻p.141)

 

(2巻p.76)

 

この地球上の全ての創作物は既存の情報の組み合わせで、少なくとも『何かが道をやってくる』の情報は存在していると言っていいと思う。

 

まぁ本人が言ってますし。

 

加えて、フロイトってドイツのおっさんの発想もチラホラとみて取れて、まぁそのことはあのサイトに書いたからよろし。(参考)

 

そして、僕はそれに加えてスタジオジブリのアニメである、『On Your Mark』というアニメの情報が使われていて、更に言えばこの『On Your Mark』こそが「ヴァンデミエールの右手」の骨格であると言えると思う。

 

この『On Your Mark』がどんな話かと言えば、囚われの身である白い翼の生えた薄幸の少女を二人の男が車で連れ出して、空に飛び立たせる話になる。

 

しかもその少女は白いワンピースのスカートを着ていて、作中で枷をかけられているシーンもある。

 

一方で鬼頭先生の「ヴァンデミエールの右手」のエピソードは、天使の翼を携えた薄幸の少女を少年がバイクで連れ出そうとして失敗する話になる。

 

ディテールに差異はあるけれども、偶然似てしまったというにはあまりにも似通っている。

 

こう言って理解していただけるかは分からないけれど、人間の全ての知識は既存の情報の組み合わせになる。

 

例えば、ハツカネズミはその目で、耳で、鼻で、舌で、髭で、皮膚で、感じて得た情報以外を知識として用いることが出来るかと言えば出来ないわけであって、その事情は人間とて同じだし、鬼頭先生とて同じになる。

 

だから、全ての創作家の創作物は作者がその創作物を作るまでに出会った情報の組み合わせ以外の形では存在し得ないわけであって、鬼頭先生とてそこは変わらない。

 

そして、時系列的に『ヴァンデミエールの翼』に先行して、囚われた翼の生えた少女を乗り物を使って男が連れ出すというお話が存在しているのだから、おそらくは鬼頭先生はこの短編アニメを見て、その情報を得た結果、『ヴァンデミエールの翼』の第一話が生まれたのだろうという話。

 

そもそもパクリがイケないという話が偏見であって、鬼頭先生が用いたジブリのアニメにしたって、宮崎駿氏の作品自体にアメコミやアメリカのアニメ、映画などに大量の元ネタが存在している。

 

この辺りはググれば沢山出てくると思う。

 

僕は鬼頭先生のことを糾弾するために書いているわけではなくて、そもそもこのようなことが悪いことであると考えていないから書いている。

 

どんな高尚な作家さんとて、無から有は作れないのだから、既存の情報を組み合わせて作品は作っている。

 

僕は、鬼頭先生が悪いとは思わないし、この世界に存在するすべての創作家がそれを行っていると考えている。

 

『On Your Mark』の情報と神話関係の情報、その他僕が把握していない何らかの情報を組み合わせることによって、「ヴァンデミエールの右手」という物語は成立している。

 

『On Your Mark』は翼を携えた少女を籠から解き放つ物語なのだけれど、一方で『ヴァンデミエールの翼』ではそれに失敗するどころか、罰を与えられてしまう。

 

当時の鬼頭先生の心理状態というか健康状態では、『On Your Mark』の出来過ぎた帰結より、奪われたり失ったりするような物語の方が何処か魅力的に映ったのかもしれない。

 

ここで『On Your Mark』の動画をアメブロに貼り付けようと思ったけれど、普通にググれば動画出てくるからそういう方法で見たほうが早いか。(参考)

 

このリンク先でアクセスできないようだったら、グーグルで普通に『On Your Mark』でググってみてください。

 

僕はある程度以上の事柄が共通していたら共通の元ネタを持っているか、片方が片方の元ネタであると考えるのだけれど、「翼を生やした少女を若い男が車両を用いて街の外へ連れ出そうとする」という事柄が両者にある以上、両者は共通の情報源から作られた創作物であるか、片方が片方の情報を得た結果作られたそれだと考えたほうが良いと思う。

 

ここで、「ヴァンデミエールの右手」の元ネタに『On Your Mark』があるとするには、時系列的に『On Your Mark』が先に存在していなければならない。

 

両者とも1995年だから、両方の発表年を調べた時、以前の僕はここでそうとは言えないかもしれないと思って削除したわけですね。

 

今回は実際に時系列について調べてみた。

 

この『On Your Mark』は1995年7月15日に公開された『耳をすませば』と同時上映で、鬼頭先生が描いた「ヴァンデミエールの右手」は1995年のアフタヌーン四季賞の準入賞作品になる。

 

このアフタヌーン四季賞は年に春夏秋冬の四回募集して、その中から入賞や準入賞を決める類の漫画新人賞になる。

 

だから、7月か8月に鬼頭先生が劇場で『耳をすませば』を見て、それから漫画を描いたと考えれば別に一切の問題はないわけであって、まぁ人によって進捗の速度は違うとはいえ、1~2か月あれば短編の一本を描くというのはそこまで難しいことではない。

 

一人で描くことを踏まえても、3か月あれば描けるだろうと僕は思う。

 

そんなゆるゆるな製作期間を設定しても、アフタヌーン四季賞の秋と冬には間に合うわけであって、そうとすると鬼頭先生は『On Your Mark』を見た上で「ヴァンデミールの右手」を描くことが可能であると言えると思う。

 

半年前の僕は、純粋に細かい日付を確認しなかったから、両方とも1995年という時点で、あかん、元ネタちゃうかもしれんと思って、記事の内容を変えてしまった。

 

ただ、一昨日あたりに考え直してみたら、何の問題もなかったということが確認されるに至ったので、今この記事を作っている。

 

まぁ冷静に考えて、映画館で『On Your Mark』を見て何か感銘を受けて、その熱が冷めないうちに自分の漫画にその情報を取り入れたと考えれば何にも問題はない。

 

更に言えば、鬼頭先生が準入選したときに大賞を受賞したのは遠藤浩輝という漫画家であって、彼が1995年のアフタヌーン四季賞のどの季節で受賞したかと言えば、実際1995年の秋に受賞しているのであって、鬼頭先生が応募したのも秋であるということが分かる。

 

時系列的に何の問題もないね。

 

…実は、書き始めるまで遠藤浩輝先生の受賞した季節から鬼頭先生が応募した季節を割り出せると分かっていなくて、秋か冬に応募したのだろうと決めつけて書き始めていた。

 

で、そういえば遠藤浩輝先生と同じ時に応募したって話を思い出して、Wikipediaのアフタヌーン四季賞受賞者一覧の記事を確かめたという経緯がある。(参考)

 

ここで遠藤先生の受賞が春か夏だったら、この記事自体がお蔵入りになるのだから、ひやひやもんでしたね…。

 

まぁそもそも、なんつーか鬼頭先生が秋に応募したとしっかり書いてあるページもあって、遠藤先生の話を持ってこなくても別に良かったのだけれども。(参考)

 

実際、この遠藤先生のくだりは全部書いた後に書き足しているから、もうね、これで春か夏かだったら僕が書いた数千字の全てがパーだった。

 

けれども、実際問題として遠藤先生及び鬼頭先生は、冬のアフタヌーン四季賞に応募していたみたいなので、めでたしめでたしというお話です。

 

さて。

 

そんな感じでヴァンデに『On Your Mark』の情報があると言えばあるのだけれど、あくまで「ヴァンデミエールの右手」の材料の中に『On Your Mark』があるというだけであって、『ヴァンデミエールの翼』というオムニバス形式の物語には『On Your Mark』の影響はほぼなくて、一話にあたる「ヴァンデミエールの右手」に少し『On Your Mark』の情報が使われただけという言及が精々になる。

 

他の話についても何らか元ネタとか着想元があるのだろうけれども、僕には「ブリュメールの悪戯」の元ネタしか分かっていない。

 

ヴァンデの解説を書いたときに、「ブリュメールの悪戯」と同じ発想が『ドラえもん』に存在すると僕は言及していて、その時は元ネタではないだろうとしていたのだけれども、今の僕は、『ドラえもん』が元ネタだと考えている。

 

あの解説を書いたときは、この世界の全ての創作物が既存の情報の組み合わせであると僕は理解していなくて、一方で今の僕はそうと理解している。

 

『ドラえもん』の一巻には「かげかり」というエピソードが収録されていて、自分そっくりの影を作ったら、いつの間にか自分自身と入れ替わってしまうという話になる。(参考)

 

僕自身は『ドラえもん』のコミックを読んだことがないのだけれども、確かちっちゃい頃、アニメでこのエピソード見てるんだよな。

 

まぁ『ドラえもん』にはジョジョのC-MOONの元ネタであろう、"地球下車マシン"って道具があるし、色々な漫画の元ネタになっている。

 

…というか、スティッキー・フィンガーズのジッパーもあれ、ドラえもんの道具が元ですし。

 

それに加えて、鬼頭先生は藤子不二雄のことが好きらしくて、その名前を『ぼくらの』のおまけ漫画で出している。

 

(『特別ヘン』より)

 

この漫画自体は、藤子不二雄って漫画家が二人いて、片方が藤子F不二雄で、もう片方が藤子不二雄Aであって、佐々見さんは藤子不二雄って言われたからAのネタを披露したけれど、マキはFの方しか知らなかったというネタになる。

 

僕はFもAも違いが分からないから何にも言えないけれども、こういう風に藤子不二雄を読んでいる形跡があるのだから、「ブリュメールの悪戯」に関しても、『ドラえもん』からだと思うよ。

 

そんな感じかな。

 

うんまぁそう、これ以上分かんなかったです。

 

はい。

 

では。

 

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