予備費の事後承認について(令和4年分) | 坂本雅彦のブログ

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 令和四年度一般会計新型コロナウイルス感染症及び原油価格・物価高騰対策予備費使用総調書及び各省各庁所管使用調書についての承認の採択が間もなく国会である。本原稿は衆議院決算行政監視委員会専門員の花島克臣氏の「コロナ禍を契機とした予備費拡大の背景」というレポートを主に纏めることにした。

 予備予算は憲法第87条で「予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基いて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。」と規定されており、第87条2項では「すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない。」と規定されている。財政法第24条にも同様の規定がある。予備費はあくまで予備であるから使途が限定できるものではない。しかし、予備費の中でも予め国会の議決を得て一定の範囲で使用される特定目的予備費というものもある。掲題の本調書は特定目的予備費に関してのものであり、新型コロナウイルス感染症や原油高・物価高対策費用として約7兆円、ウクライナ情勢緊急経済対策費用が約1兆円計上されている。

 令和4年のコロナ対策予備費は5兆円が盛り込まれたが新型コロナ感染症の新規感染者は減少し、行動制限も既に解除されている中であり、立憲民主党はコロナ対策として早急に実施すべき施策があるのだったらそれに振り向けるべきだと主張、共産党は国民生活と社会経済の強化が求められているが予備費で対応するのはその場しのぎであると非難した。

 令和4年4月にはウクライナ情勢に伴う原油価格や物価の高騰等に対応するための経済対策が策定され、使途拡大によって5兆円の予備費が計上された。「新型コロナウイルス感染症に係る感染拡大防止策に要する経費その他の同感染症に係る緊急を要する経費又は原油価格・物価高騰に伴うエネルギー、原材料、食料等の安定供給対策に要する経費その他の原油価格・物価高騰対策に係る緊急を要する経費以外には使用しないものとする。」と目的を特定する使途を補正予算で改正したが、年度中に使途を変更することは前代未聞のことである。

 第208回国会の予算委員会では立憲民主党がコロナ予備費の使途は物価高対策にまで広

げられ、公共事業関係費などを上回る規模の予算が事実上政府に白紙委任されようとしているとして政府の手法に疑問を呈した。日本維新の会も「補正予算の半分以上を先行支出し

ている予備費の補塡に充てている」ことを問題視し、予備費に対する考え方を正常に戻すべきだと求めた。日本共産党もコロナ対策としての予備予算が予見し難い予算の不足とは到底言えないとして巨額予算の計上を否定した。

 令和4年6月の補正の予算約1兆円の半分以上が既に4月以前に使われたコロナ対策だけではなく原油価格、物価高騰に対する対策費用である。予備費が予見できる事態に対して使われるようになり、それが肥大化していくと財政民主主義の原則が守られない。特定目的予備費だとしても経済対策まで拡大すると使途は事後承認であることから政権の都合で勝手に何事にも使用できてしまう。予備費の巨額化、特定目的予備費の目的の解釈の拡大は国会の機能を軽視し国民を愚弄する行為なのではないだろうか。

 令和4年10月の第二次補正予算ではコロナ・物価予備費の増額3兆7,400 億円、ウクライナ情勢経済緊急対応予備費の1兆円が計上された。予備費が2度も増額されることは過去に一度もないことである。コロナ・物価予備費とウクライナ予備費という2本の特定目的予備費が同時に盛り込まれるのも初めてのことだ。結果的に予備費の総額は約9兆8,600億円となった。日本維新の会は予備費の例外的な措置をやめるべきだと指摘した。各会派ともに予備費の使途拡大と予備費の増大は国会での審議を回避する手段となりつつあることを指摘している。この頃、政府は予備費の使途について議事録の残らない理事懇談会にて最低限の説明を行うに留めている。そのような状況は運用面から問題視されて当然だといえよう。

 ウクライナ対応予備費は平成20年12月に発生したリーマンショックを受けた経済対策費と同額を措置したとしている。ウクライナ情勢によるヨーロッパへのエネルギー供給の影響を鑑みて1兆円を計上した。

 令和4年度コロナ・物価予備費は、予算額9兆 8,600 億円に対し、地方創生臨時交付金や燃料油価格激変緩和対策事業等に7兆 814 億円余が使用され、残額は2兆 7,785 億円余となった。自治体が国から交付された予備費を何に使ったかを特定することは容易ではない。4月にはコロナ対策費であった特定予備費を補正予算では名称変更してガソリン高騰に対する施策に使えるようにした。ならば4月の時点で予算された予備費については目的外使用になるのではないか。一方、ウクライナ予備費1兆円は使用されなかった。なんのことはない、膨らんだのは予備予算だけではなく予備予算の残額も大いに膨らんだ。それを予見できない事態に備える予算だからと言って済ませるのは浅慮に過ぎる。

 野党は繰り返し政府の事前決議の例外である予備予算の巨額計上を財政民主主義の原則に反し議会軽視であることを指摘してきた。令和2年度を境にそれまでの10倍から20倍の規模に急増し無制限に拡大し続けている。令和元年には5000億円以下であった予備予算が令和4年には約10兆円を超える規模となっている。

 安倍政権、菅政権、岸田政権において予備予算の規律は失われ巨大化した予備予算が既成事実化されている。例えば、令和4年特定目的予備予算で計上したウクライナ予備費でまったく使われなかった1兆円が翌令和5年でも大寒波が来た時の備えなどというギャグのような理由を宣いそのままウクライナ予備費として1兆円が継続して計上されている。令和5年の会期中にもウクライナ予備費は使用されることなく補正予算で5000億円を減額することとなった。その後もウクライナ予備費は使われることは無く年度末で残額が5000億円のままである。

 コロナ・物価予備費とウクライナ予備費という2本の特定目的予備費の合計は10兆9,600億円の巨額予算に膨らんだ。政府の経済対策の規模である財政支出 約39兆円程度及び事業規模約71.6兆円には4.7兆円程度の特定目的予備費が含まれている。使用額が不明である予備費が経済対策の財政支出や事業規模に含めて計算されることには強い違和感を抱く。4.7兆円程度の特定目的予備費のうち、実際に使われたのは約2.2兆円に過ぎない。残りの約2.5兆円は数字を膨らます天ぷらの衣と利用されたということか。

 岸田総理は211回国会で予備費について「予算の一部として国会で議論されている。予備費の支出は、憲法、財政法の規定に従って事後に国会の承諾を得る必要があることから、財政民主主義に反するものではない」と述べている。違法な行為でないことは当然のことであるし理解している。問題であると指摘するのは手続きではなく財政民主主義の前提が損なわることである。特定目的予備費の目的範囲を拡大解釈し予算額を肥大化させ、その使途が事後承認で足りるという論理が正当化されると財政民主主義は成り立たない。予備費は「予見し難い予算の不足に充てるため」にあるものだ。何にでも使える打ち出の小槌ではない。コロナ禍前の状態に戻していく必要があろう。

 特定目的予備費の拡大使用と思われる一例をあげておく。令和4年国土交通省のこどもみらい住宅支援事業に必要な経費の支出を特定目的予備費から行っている。「原油価格・物価高騰等総合緊急対策の一環として、子育て世帯等に対する省エネ住宅の購入等を支援するため、民間団体が行うこどもみらい住宅支援事業に要する費用を補助する経費を支出するため」として300億円を支出している。子育て世帯が住宅を購入する費用を補助することは予備費の前提である「予期せぬ事態」なのだろうか。エネルギー価格が高騰していることから子育て世代にだけに省エネ住宅を購入する費用を補助するというのはもはや予備費でカバーするのは領域を大いに逸脱していると思われる。本来、本予算に計上し国会審議を経て支出すべきものである。

 

*コロナ禍で急速に肥大化した予備予算は議会制民主主義を軽視するものではないか。

*特定目的予備予算の目的の解釈に関しては国会での事前の承認を必要とするべきではないか。

*事前に支出した事項に対する補正予算で計上された予備費で補填する行為は禁止するべきではないか。つまり、予備予算はあくまで予期せぬ事態に備える予算であるから予備予算をあてにした事前の予算執行はロジックを逸脱していると考える。

*事後承認を承認されなかった場合は既に予算執行している支出はどのような扱いになるのか。

 

参考

令和4年度一般会計予備費使用総調書及び各省各庁所管使用調書

https://www.bb.mof.go.jp/server/2022/dlpdf/DL2022e1014.pdf

令和4年度特別会計予算総則第 条第項の規定による経費増額総調書及び各省各庁所管経費増額調書

https://www.bb.mof.go.jp/server/2022/dlpdf/DL2022e3011.pdf

新型コロナウイルス感染症及び原油価格・物価高騰対策予備費

https://www.mof.go.jp/policy/budget/budger_workflow/account/fy2022/kessan_04_17.pdf

コロナ予備費12兆円、使途9割追えず 透明性課題 日経新聞

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA143WV0U2A410C2000000/

2022年度が終わり、予備費はどうなるか。4年連続で予備費を巨額にする深いワケ

土居丈朗

https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/101719ea475e8e9fb4605a4e1529377f8b051bf0

コロナ禍を契機とした予備費拡大の背景 RESEARCH BUREAU花島克臣

https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_rchome.nsf/html/rchome/Shiryo/2023ron20-08.pdf/$File/2023ron20-08.pdf

補正予算案、主な使途は「予備費の埋め戻し」 読売新聞

https://www.yomiuri.co.jp/economy/20220517-OYT1T50010/#google_vignette