入管及び難民認定法改正法案について | 坂本雅彦のブログ

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作家、国会議員秘書、教員、学者

 出入国管理及び難民認定法等の一部を改正する法律案と聞くと何かを思い出す。去年、参議院法務委員会で傍聴と嘯いて委員会室に現れ採決を妨害したれいわ新選組の山本太郎氏の暴挙である。委員長席に向けて後方から飛び掛かり威力でもって委員長の職務を妨害した行為だ。懲罰動議が出されたが見送られた。山本太郎氏は「命に関わる法案に関しては体を張ってでも止めないといけない」というが単なるパフォーマンスであり迷惑行為である。

 昨年の入管法改正の大きな点は難民申請で送還措置が停止されるのは3回まで、戦闘状態にあるウクライナからの避難民のような立場にある者を補完的保護対象者として定住者並みの保護を行うこと、犯罪で有罪判決を受け3年以上の実刑に処された者の強制送還、収容しないで退去強制手続を進める監理措置制度の創設によって個別事案ごとに収容か監理措置かを選択することが可能となる、などが挙げられる。

 法務省は在留資格、在留期間等の審査を通じて外国人の出入国や在留の公正な管理に努めその国にとって好ましくない外国人の入国、在留を認めないとしつつも、例外的にではあるが、本来退去しなければならない外国人であっても家族状況等も考慮して特別在留許可を出してきていた。法務大臣の裁量で特別に在留を認める際の基準を定めたガイドラインが不明確であると指摘されてきていたことから見直しが行われた。

 新ガイドラインでは、在留資格がなくても親が地域社会に溶け込み、子どもが長期間、日本で教育を受けている場合や正規の在留資格で入国し、長く活動していた場合、その後に資格が切れても在留を認めるという案である。だたし、不法入国などによって国の施設に収容され、その後、一時的に釈放された仮放免中に行方をくらませた場合や不法滞在の期間が相当の長期間に及ぶ場合などは在留を認めない方向である。在留期間が過ぎており在留資格のない者の在留を認めるという意味不明な日本語を法務省が記すのだから残念だ。

 日本には既に中長期永住者が約278万人、特別在留許可永住者が約29万人いる。10年以上日本に在留し懲役刑などを受けておらず納税などの公的義務を履行している外国人は報道によると昨年6月末現在で88万人余りに上るという。現行法では一度在留許可を受けると税金を滞納しても許可を取り消すことができない。それを悪用する者がいることから自治体が出入国管理庁に通報し許可を取り消すことができるようにする。日弁連など一部の団体は「受け入れた人を追い出す、共生とは真逆の発想だ」と反対する。日本は主権国家である。脱税したり犯罪で有罪になった者の永住権は取り消すことは法治国家の主権を行使するうえで何ら躊躇すべきではない。

政府が拡大を目指す特定技能制度は家族の帯同や期間の更新も無制限である。技能実習生制度に変わって導入される育成就労制度においても特定技能への移行や職場の転籍を条件付きで認めることになる。政府は移民政策ではないと強弁するが国内に一定の移民社会が形成され存在している以上いつまでもそれは通用しない。技能実習生制度が導入され30年にわたり労働力として外国人を受け入れてきた事実は動かない。そのこと自体が取り返しのつかない失政であったと考える。肉体労働や単純労働の労働力不足を外国人で補えてしまうと生産性の向上や技術革新は進まなくなる。労働力が不足すると賃金が高くなる、一定の賃金上昇は一定のインフレを招く、事業者は生産性の向上を図り市場競争力を保つ。生産性の向上や技術革新の為の設備投資や開発投資が経済成長に糧となる。失いつつある労働力を外国人を補充することによって経済成長のサイクルを阻害することに繋がった。技能実習生制度の導入と並行して日本経済はデフレ経済に陥り脱却への出口を見いだせず直近30年を無駄に消費した。2008年に政府が打ち出した外国人留学生30万人計画も高度な人材の定着には繋がらず安い労働力を確保するための制度に変貌していった。30年もたてば日本で子供が生まれて定住する者も多い。文部科学省によると2022年5月1日時点で住民基本台帳に登録されていた学齢相当の外国人の子どもの人数は13万6,923人。うち不就学の可能性がある子どもは約6%相当の8,183人とされる。政府は移民政策の間口を広げようとするが社会での受け入れ環境には不足がある。貧困の問題や差別の問題も無視できない。

EUではEUブルーカードと呼ばれる高資格人材に在留許可証を発行し高収入者や理系技術者、医師などに滞在許可の条件を優遇してきた。高度人材を積極的に受け入れる一方で難民の受け入れについては規制強化を進めている。ドイツは2012年以降、国内での労働力不足も背景にあり難民を積極的に受け入れたことから100万人以上の難民が押し寄せ国内で外国人排斥を訴える勢力が台頭し政治的な混乱を招き2018年には移民の受け入れや家族の呼び寄せに厳しい規制をかけることとなった。

フランスは難民審査を迅速に行い違法移民の速やかな退去を促した。また社会保障制度を厳しく見直し移民による搾取を排除した。クオータ制を導入し人材が不足している産業分野で能力ごとに受け入れ人数を定めて移民を受け入れることとした・

アメリカではメキシコ国境での警備を強化した。メキシコから違法に入国した者を例外なく起訴するという政策が打ち出され、強制送還の対象が拡大されるなど不法移民への取り締まりが強化されている。また、難民受け入れの一時停止、難民による再定住申請の審査の厳格化、再定住難民の受け入れ枠の削減などが実施された。移民による家族の呼び寄せを大幅に制限し、ヨーロッパ諸国と同様、高学歴や高収入である人材を選択的に呼び込む方針に転換している。

スウェーデンは難民の受け入れには寛容であったが200万人以上の難民を受け入れた結果、安定していたスウェーデン社会と移民や難民のバランスが崩壊した。その結果、経済成長が鈍り外国人による犯罪率が高騰することとなった。銃による殺傷事件の発生率は欧州最悪レベルになったうえに北アフリカからの移民二世を中心メンバーとしたギャング団による麻薬や銃の密輸も横行している。銃による事件の90%以上が外国人移民によって起こされている。近年ではスウェーデン国内でも移民、難民の受け入れに対して消極的な世論が支配的になってきている。

日本政府は移民政策を移民政策だと認めずに来た。2018年に政府は質問主意書の答弁において「政府としては、例えば、国民の人口に比して、一定程度の規模の外国人を家族ごと期限を設けることなく受け入れることによって国家を維持していこうとする政策については、専門的、技術的分野の外国人を積極的に受け入れることとする現在の外国人の受入れの在り方とは相容れないため、これを採ることは考えていない」と回答している。その後、菅政権で特定技能2号による家族の呼び寄せを解禁し、岸田政権では特定技能2号の分野拡充と認定数の拡大、違法在留外国人や違法労働外国人への永住権を追認するガイドラインの整備を進めた。要するに日本は他の先進国が積極的に移民政策を進める中、慎重な姿勢を貫いてきた。その後、移民政策を進めた他国が移民による経済的負担の増大や治安の悪化など受けて移民政策の転換を図る中で、なぜか日本は遅まきながら時代の流れに逆行するがごとく本格的移民受け入れに舵を切りつつある。

かつて1950年代の日本経済は二桁の経済成長を続けていた。日本に匹敵する経済成長を続けていた西ドイツは1955年以降に急激に成長が鈍化していった。西ドイツが没落したのは1955年に英国と結んだ二国間協定によって大量の移民が西ドイツに流入したことによる。トルコ人など安い労働力によって投資活動が抑制されドイツ経済は長期に停滞することになる。日本経済はバブル崩壊をきっかけに低賃金の奴隷的外国人労働者が流入し、日本国民の実質賃金が低迷する要因となっている。改めていうが、労働力不足や賃金の高騰などの問題を解決するために賃金の安い外国人労働者で補っていけない。労働力不足や賃金の問題は設備投資や技術革新で生産性を向上することで解決するべきなのである。移民政策は不可逆的であるからこそ緩徐に検証しながら進める慎重さが求められる。

 

*現状において不法滞在者となっている者に対して既規定を覆えす規定やガイドラインを作ることは不法行為を追認することになるのではないか。

*不法入国やオーバーステイなど不法を不法として扱わないことは遵法意識に悖ると思われるがいかが。

*労働力不足を外国人の労働力で補うことは経済成長に繋がらないのではないか。生産性の向上や技術革新などを進めるチャンスを逃すことを危惧するがいかが。

*増加する在留外国人や呼び寄せた家族に対する社会保障の提供を国家ならびに自治体は負うことになるが、それを想定した制度維持に係る想定がされているのかどうか。

*在留外国人やその子供たちに対する日本語教育や義務教育を含めた学校教育等の提供体制、日常生活上での行政の相談窓口やサポート体制などの受入れ態勢に係る整備状況や方針は如何に。

 

参考 

 

出入国管理及び難民認定法等の一部を改正する法律案 出入国在留管理庁

https://www.moj.go.jp/isa/05_00043.html

 

入管法改正案について 出入国在留管理庁

https://www.moj.go.jp/isa/policies/bill/05_00007.html

 

不法滞在外国人の在留 ガイドライン見直し案まとまる NHK

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240228/k10014373081000.html

 

令和4年末現在における在留外国人数について 出入国在留管理庁

https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/13_00033.html

 

税未納なら永住許可取り消し 悪質ケース、自治体が通報―政府、今国会に入管法改正案

時事通信

https://www.jiji.com/jc/article?k=2024022500252&g=pol

 

福祉国家の敗北!?「移民政策」によって急増したスウェーデンの犯罪率

https://wanibooks-newscrunch.com/articles/-/4525#goog_rewarded

 

焦点:移民抑制へ「海上封鎖」求めるイタリア、EU内で軋轢も ロイター

https://jp.reuters.com/world/europe/5YFHFZ3PMNNWJK6VTPXHTFZGOU-2023-09-23/

 

日本の「移民政策」が置き去りにしていること 根橋玲子 明治大学教授

https://www.meiji.net/international/vol461_nebashi-reiko

 

そんな矛盾政策が欧州でまかり通る深刻な背景 プレジデントオンライン

https://president.jp/articles/-/57522?page=1