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鑑賞ポイント5.彗星の意味1、2、3
最後は作品タイトルにもなっている、1812年の彗星の意味だ。実に多様な解析が可能だろうし、私も2回の観劇で彗星の意味が違って感じられた。
1812年と彗星の関連を見ると、歴史的にはナポレオンがロシアに侵攻した時期である。しかしこの戦争で大敗北したナポレオンは没落し始める。
この辺で原作者トルストイの歴史観を見てみるのが良さそうだ。トルストイは人類の歴史が1人の英雄によって作られるのではなく、一人ひとりの物語が集まって歴史が作られると考えてていた。
従って、トルストイの小説もとある英雄的な人物が大事件を解決する話ではなく、どこにでもいるような日常的な人物が、日常を生きていく話が多い。
1人の英雄が歴史を変えると考えている人は、自分自身の人生の深みを見つけづらいだろう。「英雄たちが適当に世界を変えるだろう」と考えて虚無主義に陥る可能性がある。ピエールのように。
だが、自分の中で人生の意味を見つかると気づいたピエールは、もう世の中が英雄によって変わるとは考えない。自分も歴史の主導的な構成員になれると言うことだ。
ピエールは自分と全く同じように、愛の裏切りで傷ついたナターシャを慰めながら、彼女が新しく出発できるように勇気を与える。もし1幕のピエールだったら、果たしてそうするだろうか。
そして彼女が再出発しようとあのドアを出ていくのを見ながら、自分自身も、誰かにとって意味のある存在になれると言う事実に初めて気づくのだろう。
“Dust and ashes” でピエールが「灰の山で目覚める瞬間」と歌ったのがこのシーンだと思う。
人生の意味を発見したピエールは歓喜に包まれ、コートの袖がどこにあるかも探せない(歌詞参照)。
そして、外へ出ると、頭の上に彗星が飛んでいる!どれほど美しいことか。今のピエールは、道でフンを踏んでも「花ように美しい!」と言うほど人生の意味で満たされた状態だ。
もし自分が不安に怯えた状態で空に彗星が飛んでくるとしたら、そもそも彗星の事など考えないか、自分を破滅させる災いの火の塊だと考えるのではないだろうか。
私が考える2つ目の意味だが、最初に申し上げた通り、ピエールとナターシャの共通点は「変化する」という点だ。
この2人の人物が変化する最も大きな要因が、「生きること」と「愛」だと言う気がした。特に、この2人は愛の裏切りに傷ついたと言う共通点を持っている。
ナターシャは、アナトールとアンドレイによって。ピエールはエレンによって。
私はこの時〈ウィキッド〉For goodの歌詞が思い浮かんだ。
「太陽に惹きつけられる
小さな彗星のように
あなたと言う重力が手を差し出す
あなたによって、あなたによって
変化した、私が」
おそらく、お互いを惹きつける彗星と太陽のように、ナターシャとピエールがお互いに生きる意味を見つける存在になったというわけだ。
これも先ほど申し上げた原作の、ピエールとナターシャの結末とつながっていると言える。
最後の3番目に私が考えた彗星の意味は、空で起きるすべての出来事は予測できないという点だ。
夜空に突然やってくるあの彗星のように、私たちの人生もどうなるのか誰も知らない。悲しみもあるし、喜びもあるだろう。ただ生きていくこと。
自分が予測もできないことを心配しながら虚無感に陥るよりも、与えられた毎日を生きていくそのこと自体に意味があると言う事実を、夜空の彗星を見ながら感じられるのではないかと思った。
以上、5つのポイントをぎゅっと集約して、〈コメット〉を見た方、これから見る方の助けになるかもしれない私の主観的な解析を共有してみた。私の考えが正解ということはなく、逆に、私はこう考えたが、皆さんはどう考えますか?と、話のきっかけを提供したと考えていただけるとありがたい。