以下、黒字は2022年初頭に韓国版を見て、同年5月に日本版を見るに際してまとめたもの。
今読むといいセンいってる所もあるし、全然ズレズレ!な点もある。整理して今の考えを加筆した。
(私が勝手に考えたこと)
父親との関係
8歳の頃、南アフリカのバカンスで一度会っただけ。ローレンスに惹かれるのは父親像を投影しているからかもしれない。でも特に重要ポイントとも思えない。
象の死を体験させた、母親に希望を抱く決定的な出来事の契機を作った程度の存在?
母親との関係
マイケルの母はマイケルに興味が無かった。大基本。
「象の妊娠期間は22ヶ月。母親の体内にそんなに長くいられるのは幸せだろう。」
「母とは9か月間だけ良い関係だった。」
産まれ落ちた直後から望んでも得られなかった母親との関係。とても望んでいたのに。
マイケルは精神的にであれ、肉体的にであれ、どんな形であろうと愛されることを欲している。
ピーターソンに語る象とアリのジョーク。
「象と一夜の情事を過ごしたアリは翌朝象が死んでいるのを発見し、たった一晩の過ちで一生墓穴を掘るはめになったと嘆く。」
アフリカにバカンスに出かけた母が父と出会い24時間恋愛して生まれたのがマイケル。父親が象で母親がアリだ。母親にとって自分は、一夜の情事のために一生掘り続けなければならない墓穴のような存在だとマイケルは考えている。もしくは母親からそう思われていると考えているのではないか。
悪夢について。舞台の上。母親の喉の裂け目から産まれる自分。声を失う母。観客の熱狂的な拍手はブーイングに変わる。
象とアリのジョークと同様、マイケルの自尊心の低さ、救いのない自己否定感を感じる。
南アフリカから戻った時、「普通ならマネージャーを寄こすはずの母親が自ら迎えに来てくれた。自分だけのために歌を歌いアンソニーを与えてくれた。」
もしかすると母親が自分の方を向いてくれるようになるのかもしれない。
とてつもない変化への期待。
「愛せないなら希望を与えるべきじゃなかった。最初から最後まで希望を見せちゃいけなかったんだ!」
結果は、強烈な希望が失われた反動の…強烈な絶望、その1。
自殺を図った母親の言葉。
「『マイケル愛してるわ』それなら最高だったけど。『マイケルごめんなさい』それだって充分だ。」
実際の言葉。
『音程を3つ外してしまった』
自分には音符3つほどの価値もないと思い知らされる。強烈な絶望、その2。
「象が涙を流して死んでいった。その目で僕を見つめながら。」
8歳の頃の衝撃的な出来事。母親が死んで行くのを見ている状況にオーバーラップするのではないか。
ローレンスとの関係
アンソニーはクローゼットの中にある。
ピーターソンがアンソニーを見て意外そうな様子を見せたので、アンソニーはある程度の期間クローゼットに入っていたのかもしれない。(この反応は俳優によって違うので、何とも言えない。)
マイケルは「ローレンスに取り上げられた」と言うかと思えば「ローレンスがいてくれればアンソニーは必要ない」と言う。後者が真実に聞こえる。そうかも。
マイケルは自分のコードネームが「白い象」だと言う。「ローレンスの心配はしていないが、絶滅に向かっている象の方が心配だ。」
マイケルが象だとすると、マイケルも絶滅の危機にある。つまり死ぬかもしれない状況だと言っている?(結局マイケルが語ったことのほとんどは真実だったのかもしれない。)
「僕は一生懸命話している。あなたが理解できないだけ。」
「ローレンスに別れを切り出したら、泣いて大騒ぎだった。だからピーターソンの休みの日を選んだ。」
そういう関係ではない、そういう関係になりたいと考えるのはやめよう、何にせよ2人の関係を簡潔に定義しようとしたのはローレンスの方で、泣いて大騒ぎ、もしくはそんな気分になったのはマイケルの方だったのではないか?←関係性はそうだったが、実際に起こった事は違うと思う。
マイケルはずっと恋人的な関係を求めてきたが、ローレンスは常に一線を画してきた。最後の面談も普段と変わりは無かったことだろう。単に知らせが来て、ローレンスが向かっただけ。
「ローレンスが自分を他の病院に移すと脅した。」
脅すわけではなく、その方が治療のためになるとローレンスが言ったかもしれないが、全くの嘘かもしれない。分からない。全くの嘘だと思う。
ローレンスもマイケルを愛していただろうか。人間としてマイケルの優れた点を認めていたし、プラトニックであれ大切に思っていたかもしれない。
マイケルはローレンスとの関係を人生で1番の幸せ 幸せに近い状態と言っている。しかしマイケルが「僕たちの関係はこの部屋の中だけ」と言っているので、実際の幸福とは程遠いと思う。その通り。
実の姉の急病に慌てて駆けつけるローレンスの姿は、彼にとって姉が自分より大切な存在である事実をマイケルに突きつけた。母にとって音程3つが自分より大切だったのと同じように。
マイケルは彼も自分を捨てて去るかもしれない可能性に怯えたのかも。怯え…少し違うと思う。いや、どうだろう。ローレンスを失うのを恐れたのでなく、それで感じる感情を恐れたと言うべきか?
「捨てられる気分を味わいたくないんだ」
涙を流すローレンスを初めて目にしたマイケル。知性という限られた部分だけにしても自分を愛してくれるローレンスが、自分のために涙を流してくれるのか、ほぼ純粋な興味だったような気もする。それが知りたいだけで、生きる死ぬについては余り深く考えていないのかもしれない。
そもそもマイケルには生と死の差が感じられないのかもしれないから。死んでいるかのような人生。
グリンバーグとの関係
グリンバーグは院長であり、まだファイルを読んでいない。マイケルにとっては色々と利用すべき大チャンス。
マイケルが部屋に入ってきた段階では、何を得ようとするか具体的な考えは無かったはず。
最初は担当医師を変えること、程度だったのかもしれない。そうすれば、捨てられる気分は味合わずに済む。
マイケルがグリンバーグを翻弄するのは自分が欲しいものを手に入れるためだ。
グリンバーグが時間の浪費と感じて去ろうとすると、ローレンスは自分を愛していた、と切り出す。セクハラ事件を匂わせれば、大問題になった前例があるだけに、グリンバーグは簡単には去らないという計算。
マイケルがターゲットを決めたのは、いつなのだろう。
写真の話を持ち出したので、引き出しの中の物に意識が行ったのか?
最終的にマイケルが欲しかったのは「自由」。
「あなたは今、僕と僕が欲しいものの間にいる」
ピーターソンとの関係
マイケルはピーターソンを悪人だと言う。自分の計画の邪魔になるから。彼女が自分のことを良く理解しているから。ピーターソンの反応を見ているとマイケルの…なんと表現すべきか?…本当の状況が垣間見える。
象とアリのジョークの流れ。
ピーターソンがいつものジョークをねだる→ 鼻を鳴らして笑わない約束でマイケルがジョークを言う→ こらえきれないピーターソンが爆笑する→ つられてマイケルが笑い出す→ ピーターソンの膝枕でマイケルが寝転んで甘える。
このジョークをきっかけに、マイケルとピーターソンの本来の親密な関係を観客は知ることになる。だからジョークの内容自体には意味が無いのかもしれない。
今年はアドリブが入るようになった。死んだ像を見てアリがなんと言ったか、マイケルが質問する。ピーターソンは「分からない」と答え、マイケルが続けるのが台本のパターン。私が見たのは…
① ピーターソンが全然違う話を作って続けてしまう。
② アリのセリフをピーターソンが全部正確に言ってしまう。
③ ピーターソンは最後まで聞くが「そんなつまらないジョークがあるとは信じられない」と言い笑い転げる。
いずれの場合も、2人の笑いが演技に見えないシーンだった。2人の親密さが強調された。
ピーターソンは「一体何を企てているのか」と何度も問いただし、ばかな真似はしないと約束をさせたがるが、マイケルはアンソニーの陰に隠れて返事をはぐらかす。
大切な人であるピーターソンに嘘をつけなかったのだろう。グリンバーグを利用して自由=死を手に入れようとしているから返事はできない。
「アンソニーは大切な人にプレゼントしたい。その人は僕を一人の人間として見てくれて、嘘をついたことがない。」
やはり母親の死の記憶は、彼の存在を押し付け縛り付け、自由な1人の人間として存在させてはくれなかったのかもしれない。
マイケルは最後にアンソニーをピーターソンに贈る。
「アンソニーが愛してるって」
マイケルはなぜ直接ピーターソンに「愛している」と言えなかったんだろう。ㅠㅠ
垂直あるいは水平な線がどこにあるのか分からないこの部屋を見ていると、よりどころが無くて不安定な気分になる。