(15:42〜29:15)
愛の道化:1人の男がいた。笑顔が魅力的で、とても美しい手を持った…
芸術の道化:…彼の名はハンス。彼はピアノを演奏し…それで世界はますます美しくなっていった。
戦争の道化:そして、戦争が始まる!
さあ、それでは本格的に始めてみようか。歌って踊らないと、とても楽しく。そして語ってみるんだ。人間たちの残忍な現実について!
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避けることもできない 拒むこともできない
これが私たちの人生 これが私たちの世界
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愛:笑顔が魅力的な彼〜
戦:戦争が起きると 軍隊に召集された。
芸:ピアノを演奏していた彼の手に、
戦:今は銃が握られていた。ピアノごときを叩いていたか細い指に、破壊と言う偉大な能力が備えられたのだ。
ハンスたち:気をつけ!前へ進め!
1、2、1、2!
中隊長:第8中隊!突撃!前へ!
戦:空中には戦闘機が怪音を響かせながら飛び、どこから飛んでくるのかもわからない砲弾が、区別なく降り注いだ。突撃!前へ!
ハンスの仲間たちは、敵軍の姿を目にさえする前に銃弾に撃たれ倒れていった。ハンスには、目の前のこれらすべての事が非現実的な悪夢のように感じられた。決して目覚めることのできない悪夢。
♪♪♪
避けることもできない 拒むこともできない
これが私たちの人生 これが私たちの世界
♪♪♪
兵士:ハンス!起きて後退しろ!早く!ハンス!
戦:ハンスに叫び声が聞こえる。しかしそれは子守唄のように聞こえる。「負傷者はそのまま残して退却するぞー!」ハンスは小隊長の最後の命令の声を聞く。そしてその負傷者が自分であることを悟った。
ハンス:助けて!助けてください!
戦:ハンスの頭に「死」という単語が浮かぶ。そして彼はやがて気を失う。戦場で負傷者は自らを治療することができず、ひたすら横たわり死か衛生兵の2つに1つを待つしかなく、大抵の場合、死が先にやってきた。
65%の水分、16%のタンパク質、14%の脂肪、4%の無機質、1%の炭水化物から成る人体は、5.56ミリの弾丸ひとつでも単なる肉の塊になってしまう。
プロメテウスは火を盗んだのではなかった。火を人間に与えてはならないという神々の判断は正しかったのだ!ははははは。
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避けることもできない 拒むこともできない
これが私たちの人生 これが私たちの世界
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愛:時間がどれくらい経ったのか。火薬と血の匂いが混ざった風がハンスを目覚めさせた。
ハンス:助けて!助けてください!
愛:ハンスの目に輝く星が見えた。
戦:しかし!すぐに、漂う火薬の臭いが、そこが地獄のような戦場である事実を教えてくれた。
愛:ハンスは体を起こし、周囲を見回した。
戦:しかし、おぼろげな月明かりに照らされて見えるのは死体だけ。そして自分の足が見えた。引き裂いた服で止血されていた。誰かが退却時に応急治療を施してくれたようだ。
芸:ハンスは銃を杖に立ち上がり、味方の軍はどこにいるのか探し始めた。暗闇の中で自分がどこにいるのか、そしてどこへ向かうべきか知ろうと必死に道を探した。
戦:しかし、本来人間と言うものは自分がどこにいるのか、そしてまたどこへ向かうべきなのか知らないものだ。
ハンス: 小隊長!8中隊!誰もいないんですか?ここはどこなんだ。どこへ行ったらいいんだ!
戦:ハンスは戦闘の恐怖とは異なる、別の恐怖を感じる。血の匂いに満ちた荒涼とした暗闇の中に永遠に1人で残された恐怖。
愛:しかし!それでも行かなければならないという意思は、暗闇の中でもハンスを動かし始めた。ハンスは痛む足を引きずりながら、味方軍の死体がだんだんと増える方向に歩き始めた。
戦:しかし!銃弾が貫通した左足の激痛のせいで、50歩毎に休まなければならなかった。10回ほど休んだろうか。再び出かけようと立ち上がったが…ハンスの前方で足音が聞こえる。銃を掲げた兵士が見える。
愛:ハンスは味方軍の歩哨だと思い、起き上がって手を振った。すると向こうでも手を振り、応えてくれた。
戦:月明かりさえも雲に遮られ野原は更に暗さを増した。歩哨の姿がかなり近くに来るまで、黒い体型だけが見えた。ハンスは片足を引きずりながら、喜んで近づいていった。黒い人影がついに目の前に来た時、彼が見たのは!銃を持った敵兵の姿だった。
芸:その人と目を合わせた短い静寂の瞬間、星の光が降り注ぐ暗い戦場に、悲しい風の音だけが通り過ぎていった。
戦:その静寂を破って兵士たちは相手に銃を向けた!
愛:野原には驚いた二人の兵士の荒い息遣いが聞こえるのみ。異常な静けさが漂う。
戦:雲に遮られた月が顔を出すと、相手の姿がよりはっきりと見えるようになった。暗闇のように重い沈黙を破って、敵兵が先に口を開いた。
敵兵:おい、今ここには俺たちの他には誰もいない。
ハンス:だから?
敵兵:足を…だいぶ怪我したようだが。
ハンス:お前には関係ない。それでも銃は撃てるから。
敵兵:そうか?だけど俺はあんたを撃ちたくない。
ハンス:なんだと?
敵兵:あんたを撃ちたくないんだ。
ハンス:一体何を企んでいるんだ。
敵兵:そうしたら…もっと寂しくなってしまうから。
愛:こんな状況で微笑むことのできる人だとは。ハンスは理解できないこの男に、なぜか惹かれていった。
敵兵:こんな想像してみたことあるか?ここが戦場でなかったら、って。
ハンス:何の話だ?ここは戦場だ。僕の足も、罪もなく死んでいく仲間も、みんなあんたたちのした事じゃないか!
敵兵:その通りだ。しかしそれは俺の仲間たちも同じなんだ。
ハンス:なのにここが戦場ではないだと?ここで、おかしくなるほど酷いことが起こっているのに?
敵兵:だけど、その酷いことが起きたのは、あんたや俺のせいじゃないだろう?ここが戦場じゃなかったら、どこかの小さな町の平穏なカフェだったら、ただそんな想像だけでも可能だったら!ほら、俺たち銃を降ろして、友達になれるじゃないか。
愛:ハンスは、本当にこの男と友達になれたらいいのにと考えた。
戦:しかし、ここは火薬の匂いが立ち込めた戦場!
敵兵:火薬の匂いの代わりに、質の良いコーヒーの香りを想像してみよう。
戦:ハンスの耳元に聞こえるのは砲撃の音!
敵兵:銃声の代わりに、甘い音楽を想像して、
戦:永遠に忘れられない仲間たちの悲鳴!
敵兵:戦場の悲鳴の代わりに、人々の幸せそうな笑い声を想像してみろ。
愛:ハンスは敵兵が話すカフェを想像してみた。そしてそこに座っている自分の姿を想像した。質の良いコーヒーの香りがしてくるかのようだった。
ハンス:香ばしいコーヒーの香り。平和な人々の姿。美しい音楽…。
敵兵:俺につかまれ。ちょっと見せてみろ。傷が深いな。だけどよかった。ここに消毒薬が残ってる。少しだけ我慢しろよ。終わったぞ。(?)
ハンス:ありがとう。
敵兵:俺も。
ハンス:なんで?
敵兵:おかげで寂しくなくなった。
ハンス:変な人だな。
敵兵:変な奴の方が、怖い奴よりマシじゃないか?
ハンス:さっき話してたそのカフェ、実際にある場所なのか?
敵兵:そりゃそうさ。
ハンス:美しい場所らしいな。
敵兵:もちろんさ。それにすごく特別な場所なんだ。そのカフェは日が沈むと様々な芸術家が集まってくる。詩を書き、絵を描き、音楽を奏でて楽しく踊る、一種の公演場さ。そしてそこには、1人の女性がいる。
(準備はできたかい?)
芸:その女性は音楽に合わせて踊り、人々はその踊りさえ見れば幸せになる。
ウェイター:マリー!ちょっと待ってて。さあ踊ろう。
芸:都市に夜の帳が下りる頃、人々は1人の女性が踊るのを見るためにカフェに集まった。
ウェイター:僕だって踊れるのに。あー!僕も踊りたい〜。あっ、今だ!
芸:彼女の身振りが虚空を横切って動きを作り出す瞬間、都市の騒音は消え、すべての音が彼女の動きのために存在する。世界中の灯りさえ身を慎み、ただ彼女を照らしている光だけが誇らしげに輝く。戦争の噂で都市はざわめいていたが、彼女の自由な動きを通じて人々は戦争の暗さをひと時だけでも抜け出すことができた。
支配人:ブラボー!ブラボー!