(5:19から)
ヌ: 監督の指揮される姿を近くで見せて頂いたじゃないですか。見てみると、私たちが単純に知っていた音楽の速さ、強度、こうしたものを超えて、音楽の感情まですべてが監督の手の先から伝わっていくように感じました。
ム: ありがたいです。そうおっしゃっていただけると。
ヌ: 監督も人間なので、数多くの公演の中では1日位コンディションが良くない日もおありでしょうし、そんなコンディションが公演の直前に突然生ずることもあると思うのですが、そのときの管理はどのようにされるのですか?
ム: 管理…できないですね。辛いですよ。すごく辛くて。一番辛いのは気持ちがすごく憂鬱で悲しくて良くない事があるのに、楽しい公演をしなければならない時。むしろそういう時が辛いです。
一緒に深刻になる公演だったらいくらでも深刻にできるんですが。自分が楽しくやらなければオーケストラが、どうしたのかな、何か問題があるのかなと、心配して気にしながら演奏するのが表に現れます。その気分が舞台に上がっていくと思います。なので、楽しくない時に楽しいフリをしなければならない、そういう公演の時は辛く感じることがあります。
特別それに対する管理だとは思わないんですが、とにかくその時々集中するしかなくて、??であっても楽しくしようと決心して、公演を進めるしかありません。
そうしなければ、その公演が観客の皆さんに向けて同じように反射する鏡のようなものだからです。私がやるだけ表に出る…。
代わりに、少し、セリフを言う間とか休める間は思い切り浸って、またシャキッとします。私がありがたいのは、私も気づかぬ間に、薬を飲んだみたいにエネルギーが、一緒にシナジーを得られる時があることです。演奏者たちから受ける時もあるし、俳優たちから受ける時もあります。
おそらく天職なんでしょう。何かサプリなどが無くても、音楽を一緒に始める瞬間に全てを受け取る事ができるので、ありがたいです。
ヌ: 私たち観客の側として、そうした事は俳優たちに関しては心配していました。辛いことがある時に嬉しい演技をしようとすれば、笑おうとすれば大変だろうなと。それはいつも思っていましたが…。
ム: 深く悟っていらっしゃる
ヌ: 監督の話を伺ってみると…。
ム: 公演のスタッフも舞台のスタッフも皆そうです。実際の話、フリをする芸術じゃないですか。今日初めてあったようなフリをしなきゃいけないし、毎日顔を合わせていても。今日初めて愛したフリをしないきゃいけないし、10分後には別れなきゃいけないし。それをすべてリアルに見せるのが私たちの役割ですが、それは俳優を中心に行われるので、下にいるオーケストラとか、私とか、舞台を進行させる舞台スタッフとか、音響、照明まで、皆が状況に合わせるように努力しています。
そうした呼吸が合ったときに良い公演と思って頂けて、(ヌンヌンさんのように)何度も足を運んでくださるから、そこにやりがいを感じられますね。
ヌ: 演奏者の皆さんも一緒に演技していると考えても良さそうですね。
ム: 演奏者たちの楽譜を見ると、面白いことがたくさんあります。もちろん演奏の記号とか指示もありますが、作曲者が時々センスを表す言葉を書くときがあります。
どんなものかと言うと、???がこうして(9:05)打っているんですよ。どうしてそんな風にするの?と聞いたら、「Sadly (悲しそうに)と書いてあるから」と。
ヌ: ああ、楽譜に!
ム: ???とかも書いてあるんです。下品に???。私が昔やったイーブルデッドという作品は???の場面で、ギタリストに下品に演奏しろと。どうやれば下品に演奏できます?そんなふうに笑って話しましたけど、それほど作曲家も演奏者と同じマインドを持って、そのように演奏して欲しいので、そんな愛嬌のある記号?指示?を書くみたいです。
ヌ: そういうことも消化して演奏されるんですね。
ム: 消化できたのか、できなかったのか、わかりませんけど。そういう気持ちを持つようにはなりますよね。楽譜にそう書かれていれば。