装甲騎兵ボトムズ40周年記念第27話
メルキアのクメン上空の宇宙空間で、キリコの運命を変えたあの艦、秘密結社の母艦となった戦艦テルタインが待機していました。そこで、首領のキリィは、ボローとイプシロンの回収を、秘密結社専属の双子の科学者のアロンとグランの兄弟と共に待っていました。
キリィ「ボローめ・・・・・・つまらぬ実験に、湯水のように予算を使いおる・・・・・・。」
アロン「実験は有意義でしたよ。閣下も、お判りだと思うけどな?」
キリィ「で、どうなのだグラン?彼等を無事に回収出来るのか?」
グラン「問題ないでしょう。ただ・・・・・・・プロトワンを無事に連れ戻せるかは、イプシロンにかかっています。」
キリィ「・・・・・・プロトワンは要らん!」
アロン「いえ、彼女はまだ必要です。僕には興味がある。」
キリィ「クメンに送る前に、一度会ったきりだからな・・・・・・恋でもしたのか?アロン。」
アロン「まさか、ただ、実験対象として興味があるだけですよ。」
グラン「クメン内乱の終幕だ・・・・・・・さぞかし、派手な騒ぎになるでしょう。」
テルタインが衛星軌道で伺っているのも知らず、カンジェルマン宮殿は、EX-10の総攻撃で、次第に陥落に向かっていました。
ATを辛くも脱出したカン・ユーとル・シャッコも、宮殿内を進んでいましたが、シャッコを弾避けにするようにして、カン・ユーはどうにかPSを手に入れようとしていました。
キリコとフィアナは遂にボローを地下の縦穴坑道に追い詰めました。
ボロー「殺すのなら殺せ!!」
キリコ「それで済むのなら、当にそうしている!」
ボロー「一体、何が望みだ?」
キリコ「質問に答えて貰おう!!」
ボロー「内容によってはな・・・・・・・。」
キリコ「イプシロンと彼女をこんな所へ連れてきて、お前は何をしていた?」
ボロー「・・・・・・。」
キリコ「答えろ!!」
ボロー「うわわわ!・・・・・・・・彼等の、心理テストをしていた・・・・・・・。」
キリコ「テスト・・・・・・?PSはまだ、完全ではないのか?」
ボロー「・・・・・・・それを知って、どうなる?・・・・・・・・うわっ!わっ、判った、撃つなあ!!PSは肉体的にはともかく、心理面での問題があったのだ!」
キリコ「結果は!?」
ボロー「PSとしては、プロトワンもイプシロンも不完全だという事が判った!兵器である為には、純粋な憎悪が必要なのだ・・・・・!」
そこへイプシロンが現れました。
イプシロン「満足か!キリコ!!」
フィアナ「イプシロン!!」
キリコ「・・・・・・それがお前の専用マシンか?」
イプシロン「・・・・・・PSとして私が不完全でも、このマシンはとびきり優秀だぞ!」
ボロー「早くやれ!イプシロン!」
キリコ「待てっ!!」
イプシロン「怖くなったか!!」
キリコ「まだ、質問が終わっていない!!」
その頃、ゴン・ヌーもPSを狙う事に執着していました。
ゴン・ヌー「まだカン・ユーとの連絡は付かんのか?」
通信兵「はっ!通信は途絶えたままです!」
ゴン・ヌー「あの馬鹿め、やられたとは思えんが・・・・・・。」
キリコのボローへの質問は続いていました。
キリコ「・・・・・・・最後の質問だ。ボロー、PSを当たり前の人間に戻す事は出来ないのか?」
ボロー「・・・・・・・ふっ、不可能だ!元に戻すことなど不可能だ!!」
そして、遂にイプシロンが牙を向けます。
イプシロン「覚悟はいいな!キリコ!!」
フィアナ「やめて!イプシロン!!」
そこへキリコに通信が入りました。キデーラからでした。
キデーラ「動くな、キリコ・・・・・・!」
キリコ「キデーラか?」
キデーラ「今、奴の後ろに居る!思い知らせてやるぜえ・・・・・・!」
キリコ「やめろ!奴はお前に気づいている!」
キデーラ「馬鹿!俺はそんな間抜けじゃねえって、いくぜ!」
キリコ「よせっ!キデーラ!!」
キリコの制止を聞かずに、キデーラはイプシロンに襲いかかりましたが、察知されていて、アイアンクローの返り討ちを浴び、地下へ落ちていきました。
キリコ「キデーラ!!」
キデーラ「へへへっ・・・・・・遂に借りは返せなかったなあ、キリコーッ!!」
こうしてイプシロンのストライクドッグと、キリコのマーシィドッグは、戦いに入っていきました。
その様子を見ながら、ボローはイプシロンがキリコを倒したら、すぐに脱出しようと準備を進め、カン・ユーもまた、離宮の地下に達して、そこにPSが居る事をゴン・ヌーに伝え、ゴン・ヌーもそこへ自ら向かいます。
ところが、そんな彼等は、自分達の魔の手が迫っている事など、思いもよりませんでした。
ロッチナが率いるメルキアのAT降下部隊に、バッテンタインからの通信が送られてきました。
ロッチナ「バッテンタイン閣下。30分後にはカンジェルマン宮殿に到着し、一時間後には、クメン反乱軍も壊滅し、目的のPSも我々の手に戻っていることでしょう。」
バッテンタイン「ふむ・・・・・・・傭兵共の動きはどうだ?」
ロッチナ「司令官のゴン・ヌーは手なずけていますが、何か問題でも?」
バッテンタイン「うむ。クメン政府としては、叛乱鎮圧だけでは、不満らしい・・・・・・。」
ロッチナ「と、いいますと・・・・・・・?」
バッテンタイン「戦後のクメンに於いて、国体制秩序と、治安維持の障害となるのが、奴等だ・・・・・・。」
ロッチナ「・・・・・・秘密会談の、最終合意ですな?」
バッテンタイン「奴等は平和なクメンには無意味だ、戦いしか知らん。判るな?私の言っている意味が・・・・・・・・。」
ロッチナ「万事、お任せ下さい!」
メルキアAT降下部隊は、ゲリラもろとも、傭兵をも全て抹殺することが目的だったのでした。
そうした思惑の中、ポタリアはバニラに、カンジェルマンから託されたキーを渡します。
ポタリア「キリコは・・・・・・?」
バニラ「ああ、多分PSと戦っているんだろう・・・・・・・。」
ポタリア「ゴン・ヌーもPSを狙っている・・・・・・・いざとなると、キリコを殺すぞ!俺の事はいい、キリコを助けに行け!」
バニラ「でもよう・・・・・。」
ポタリア「殿下から渡されたキーがある、これを・・・・・・!」
キリコとイプシロンの戦いも、大詰めにきていました。
互いのATが、共に地下に落下し
気づいた時、最下層に落ちていて、そこにはヂヂリウムで埋め尽くされていました。
キリコ「これはヂヂリウム・・・・・!そうか、実験だけではなく、PSの量産も計画していたのか!?」
やがて、イプシロンは火器をキリコに向けます。
ボロー「もうすぐ、キリコの最期を見れる!ハハハハハ・・・・・・。」
しかし、イプシロンは自ら乗機から降り、キリコに決闘を申し込みます。
ボロー「馬鹿!?マシンを離れるな!」
イプシロン「最後の止めは、私自身の手でやる!出ろ、キリコ!!お前は逃げられん筈だっ!!」
やむなくキリコもATから降ります。
キリコ「決闘か、高貴なものだな・・・・・・。」
ところが、そこへフィアナの妨害が入ります。
フィアナ「やめてイプシロン!!キリコに手出しはさせないわっ!!」
イプシロン「あなたに私を撃てるはずがない・・・・・!!」
フィアナ「出来るわっ!!彼を愛してるからっ!!」
イプシロンは構わずに近寄りますが・・・・・・・。
フィアナ「動かないでっ!イプシロン!・・・・・・・やめて、イプシロン!やめてっ!!」
フィアナの放った銃弾は、イプシロンの額を抉り、イプシロンの視界は流血で真っ赤になり、自分が愛する者からの銃弾を受けた事で、茫然と立ち尽くします。
そんな一行の所に、ゴン・ヌー率いる部隊がやってきました。
ゴン・ヌー「ははははははっ!勝ったのはどっちだ?キリコか?PSか?どっちでもいい!悪いようにはせん!攻撃されたくなかったら、速やかに降伏しろ!!」
だがその時、異変が起こり、宮殿に新手からの攻撃が加えられてきました。
ゴン・ヌー「どうした?」
傭兵「メルキア軍です!物凄い大軍で攻撃してきます!!」
ゴン・ヌー「ロッチナが来たか・・・・・。」
カンジェルマン宮殿に到着するや否や、ロッチナは即座に命令します。
ロッチナ「AT部隊投下!武装した全ての者を抹殺せよ!!」
カンジェルマン宮殿周辺に、メルキアカラーのスコープドッグが、多数降り立ちました。
ヘルダイバー部隊の攻撃は熾烈で、ビーラーも、傭兵も関係なく、次々と容赦なく殲滅していきました。
ゴン・ヌー「何故だ・・・・・・!?約束が違うぞ!PSと引き替えに、メルキア軍人として・・・・・・。」
ゴン・ヌーが政府とロッチナの裏切りに気づいた時には既に遅く、部下の傭兵達と共にメルキアAT部隊の砲火を浴びて火葬されていきました。
その攻撃の余波によって、逃げようとしていたボローも、降ってきた天井に押し潰されて死にました。
ATの攻撃から逃げ惑いながら、キリコとフィアナは共に脱出しようとしますが、その二人に思わぬ救いの手が差し伸べられました。バニラでした。
バニラと共に逃げていくうちに、地下の単座シャトルの場所に着きました。
バニラ「これがカンジェルマンの為に用意されていた脱出機か・・・・・・・。」
キリコ「まだ、脱出していなかったのか?」
バニラ「その気は無かったらしいな。いや、今となっては、それも出来ねえんだが・・・・・・奴を倒したポタリアが、こいつのキーをくれたんだ。お前によろしくってさ。」
キリコ「だが、このシャトルは単座だ。一人しか乗れない。」
フィアナ「弾薬用のスペースに、PS用のカプセルがあるわ。」
キリコ「そうか、ボローがイプシロンを連れて、脱出するつもりだったんだ・・・・。」
バニラ「そりゃ都合がいいや!さあ、行けよ!」
キリコ「何を云っている?お前は?」
バニラ「お前こそ何いってるんだ、追われてるのはお前達だ。俺は逃げる必要なんかありゃしないさ!大気圏外でのハネムーンを楽しんでこいよ。」
キリコ「バニラ・・・・・。」
バニラ「勿論、礼は貰うぜ。たっぷりとよお!」
ところが、そこへあのカン・ユーの横槍が入りました。
カン・ユー「残念だが、ここに居て貰うぞ!!」
バニラ「馬鹿野郎!!メルキア軍が迫ってるんだ!!やばいのは、あんただって同じだろうが!!キリコ、構わねえから、行けよ・・・・。」
そんな3人を、カン・ユーは銃撃して脅します。
カン・ユー「お前らを引き渡す条件で、メルキア軍へ鞍替えするのさ!じっとしてろ!!少しでも動いたら、撃ち殺してやる!!」
だがその時、カン・ユーに同行していたシャッコが、その卑劣さと横暴に耐えてきた忍耐がとうとう限度を迎え、銃弾を喰らいながらも、カン・ユーを抑えつけます。
カン・ユー「なっ、何をする!放せ!俺はお前の上官だぞお!!放せ!放さないかっ、この野郎!!」
シャッコ「・・・・・・・あんたは人間のクズだな!!」
シャッコによって、カン・ユーは地下深くに投げ落とされました。
どうにか、シャトルに乗り込めましたが、フィアナの言葉は、キリコに暗い影を落としていました。
フィアナ「・・・・・・生き残る価値が、私にあるの?私はPS、普通の人間には戻れないのよ・・・・・・。」
キリコ「嘘だ!ボローは嘘を付いている!フィアナ、俺が必ず・・・・・!」
フィアナ「キリコ・・・・・・。」
メルキアのATが迫る中、シャトルのエンジンは点火されました。
バニラ「キリコ!急げっ!!」
キリコ「また会おう、バニラッ!!」
キリコとフィアナを乗せたシャトルは、カンジェルマン宮殿から飛び上がり、宇宙目がけて上昇していきました。
見送って残されたバニラとシャッコも、逃げ支度の相談をしていました。
バニラ「・・・・・・あんたにも、世話をかけたな。」
シャッコ「らしくないぞ。さあて、脱出するかあ・・・・・。」
バニラ「・・・・・・そうだな。俺には、ココナって奴がいるし、こんな所で、死ねねえよな!へへへっ、あんた恋人は?」
クメンでの旅が終わった・・・・・・・。
自分の為に選んだ地獄を、フィアナの為に捨てたのだ・・・・・・。
愛・・・・・・・かつて俺が、愛の為に戦っただろうか・・・・・・・。
次回予告
全てはリドの闇から始まった・・・・・・。
人は産まれ、人は死ぬ。天に軌道があれば、人には運命(さだめ)がある。
閃光に導かれ、辿り着く果ては何処。
だが、この命、求めるべきは何?探すべきは何?そして、我は何・・・・・・・。
次回「運命(さだめ)」
眼も眩む破壊の中を、キリコが走る。