宇宙海賊キャプテンハーロック40周年記念第39話
まゆに密かに最後の別れを告げて、ハーロックと40人の海賊、そして傷ついた切田長官を乗せて、アルカディア号はマゾーン中央艦隊との決着を付けるべく、最後の決戦に向けて地球を飛び立った。
その頃、太陽黒点の増大による爆発の影響が太陽系内に及び、夥しいガスと、太陽風の嵐を太陽系宇宙全体に叩きつけていた。
マゾーン前衛艦隊は、その太陽風の嵐によって、その進撃する速度が緩められていた。
アルカディア号は丁度太陽風をバックに、敵に向かっていく恰好でした。無数のマゾーン中央艦隊に向かって来る中、ハーロックが迎え撃つと決めた場所は、火星と木星の間にある小惑星地帯、アステロイドベルトでした。
そこには直径1kmのイカルスから、700Kmのケレス(後に準惑星に)まで、大小数百にもわたる夥しい小惑星群で構成されていた。
岩、小石、砂粒のような物まで含めると、その数は数十億にも及び、容積では地球の一千倍はあるという火星と木星の間にある隕石群であった。
ハーロックが睨んだとおり、マゾーン中央艦隊は土星軌道に達しており、アルカディア号は地球とマゾーン艦隊の中間の木星軌道に達し、木星もまた、強い太陽風による嵐の影響を受けていた。
アステロイドベルトにマゾーン前衛艦隊を誘いこみ、更に太陽風の影響で、木星表面の大赤班が増大してきて、それを応用した作戦も立てていました。
そうした嵐の前の静けさという中、病み上がりの切田は、ハーロックの基を訪れ、これまで自分のしてきた事を知った上で、一緒に戦いと申し出ました。
切田「俺がこの艦に相応しくない人間である事は充分承知している!俺は地球警備隊の長官だった、しかも、地球連邦政府の人間として、ハーロック、お前を執拗に付け狙った!ハハハハ・・聞きたくも無いだろうが・・・・・。」
ハーロック「飲みたまえ、人は時に饒舌を必要とする・・・・・・。」
ハーロックは切田にワインを勧め、切田もハーロックの杯を受け取ります。
切田「権力者の都合で両親が死んで、妹民まで失った・・・その時、俺は権力を憎んだ!だが、権力を倒すには権力しかない!そう誓った俺は、苦学して士官学校を卒業し、そして鉄の意志を持って地球警備隊に入り、やがて長官の地位に就いた!だが・・・・・・まゆとハーロックの姿を見ていて、俺の心に変化が起こった・・・・・死んだ妹の民の事がしきりに思い出された、民を死なせた事が無性に悔やまれて仕方が無かった、まゆとハーロックに憎しみを抱いたのは、その反動だったのかもしれん・・・・・・。」
ハーロックも切田と飲み交わしながら、しみじみと聞き入ります。
切田「ハーロック、覚えているか?クルナ村の子供達を。首相から追放された俺を拾って、助けてくれた・・・・・・盗み、かっぱらいを常習とするどうしょうもない子供達!だが、彼等だけが飢えた俺にパンを恵んでくれた・・・・・・「楽して飯が食える」という口実で俺は彼等をクルナ村に連れて行った。そして、親父のような年の俺を何故か「兄貴」、「兄貴」と、しきりに呼ぶようになって・・・・・どうせ、おだてて云ってるのだろうが、いつか彼等のために、海の見える丘に子供達の住む家を建てようと願うようになった・・・・・ハハハハハ!全くもって取り留めの無い話ばかりで、自分でも何を云ってるのやらさっぱり・・・・・・。」
ハーロック「・・・・・・手術の時、お前に血を分けてくれたのは、その子供達だ。」
切田「何!」
切田はまゆをクルナ村に届けて負傷した自分を救うために、子供達がハーロック達が止めるのも聞かずに、輸血してくれたと聞かされ、涙ぐみます。
切田「・・・・・・許せ、ハーロック!」
その時、マゾーン前衛艦隊が押し寄せてきました。ハーロックは前衛艦隊を、艦隊では活動しづらいであろうアステロイドベルト群に誘い込み、ハーロックの狙い通り、アステロイドベルトに飛び込んだものの、マゾーン前衛艦隊は思うように戦えなくなったように見えましたが・・・・・。
小惑星群の中に入って、隕石を回避出来ずに衝突、爆発する艦が相次いだ。
だが、物量を誇るマゾーンにとって、それは物の数では無かった。
前衛艦隊は、小惑星群をも押し戻す勢いでアルカディア号に襲いかかった。
懸命に応戦する中、多数の小型艇がアルカディア号に殺到し、艦載機発進口を破壊して乗り込んできました。
ヤッタラン「まあ、なんちゅうマゾーンの物量作戦や・・・・・!」
正「敵は発進ブリッジを狙っています!」
ハーロック「総員白兵戦用意!!」
切田「俺にも手伝わせてくれ!」
切田も艦内の非常時に自分だけ寝ていられないとして、マゾーンと戦いたい!と懇願します。その熱意にハーロックは台羽正とヤッタランと共に、切田を中枢大コンピューターの守りに就かせます。
正「ここをやらせる訳にはいかない・・・・・!」
ヤッタラン「そうや!この中枢大コンピューターはアルカディア号の命なんやからな、マゾーンなんかに好きにさせるかっちゅうんや!!」
切田「・・・・・・(そんな大事な所を、ハーロックはこの俺を信頼して・・・・・。)。」
やってきたマゾーン白兵戦士達との、必死の攻防戦が始まりました。
アルカディア号艦内では、歴戦のマゾーン白兵戦士との決死の銃撃戦が続いていた。
しかも、その周囲には無傷のマゾーン艦隊が、アルカディア号に止めを刺す機会を、息を殺して伺っていた。
だが、まさにその時、木星表面の渦から、太陽風の影響を受けた猛烈な重力の大変動が発生し、それはたちまち、小惑星群内に吹き荒れていった。
ハーロック「・・・・・・この時を待っていたのだ!友よ、切り抜けてくれ!!」
ハーロックは、木星の嵐が小惑星群に及ぶのを待っていたのでした。猛烈な太陽風による大赤班からの嵐が小惑星群内で吹き荒れ、アルカディア号は散弾のような隕石の嵐を回避しながら進みますが、マゾーン艦隊は嵐まで加わった小惑星内の嵐によって今度は逆に小惑星群に押し返される恰好で、無数の小惑星に潰されたり、艦同士が激突していきました。
しかし、艦内での攻防戦はまだ続いており、中枢大コンピューター室にマゾーン兵士が押し寄せてきて、形勢不利とみた切田は、副長と正を部屋に押し込め、たった1人で迎え撃ちます。
ヤッタラン「長官!あんたもはよお来いやあ!!」
正「切田長官!!」
切田「ここで食い止めるだけ食い止める、中から鍵をかけておけよ!俺がやられたら、後は頼んだぞ!!来ぉい、マゾーンめがあ!!」
奮闘する切田ですが、多数のマゾーン兵の放つ無数の弾幕で切田の身体は蜂の巣のようになって崩れおちました。
そしてマゾーンの破壊の手が及びそうになった時、最後の力を振り絞った切田が攻撃隊長を羽交い締めにして倒し、正とヤッタランの反撃に、駆け付けたハーロックによってやっと艦内全てのマゾーンが駆逐されましたが、全身に銃弾を撃ち込まれた切田の命もまた、尽きようとしていました。
木星表面から発生し、小惑星群内を荒れ狂った猛烈な嵐は僅かな時間ではあったが、嵐が過ぎ去った後には、無数を誇ったマゾーン前衛艦隊は一隻も残らなかった。
さしものマゾーン前衛艦隊も、この未曾有の大変動の前に壊滅したのであった。
アルカディア号もまた、多くの負傷者の手当てと、艦自体の傷を治すべく、デスシャドウ島に入った・・・・・・。
デスシャドウ島の人工の砂浜を、切田を載せた担架を持って、乗組員は行きますが、切田の目には人工の砂浜と海水を通して、地球と子供達の笑顔が見えたのでした。
切田「・・・・・海だ、青い・・・海だ・・・・・・・。」
それが切田満最期の言葉となりました。
ハーロック「お前を待つ地球の子供達の所へ、今は還すことは出来ない・・・・・・人工の海水と砂浜だが、俺の友が精魂込めて造り上げたものだ。安らかに眠ってくれ。さらば切田、お前の死は決して無駄にはしない・・・・・・。」
かつての仇敵を、共に戦ってくれた理解者、仲間としてデスシャドウ島の砂浜に葬り、乗組員一同は切田に黙祷し、ハーロックの友であるアルカディア号も、切田への弔砲を放ちます。