“冤罪”に苦しむ人々の声を聞き流す朝日 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 

女優・楠城華子 “冤罪”に苦しむ人々の声を聞き流す希薄な当事者意識

ZAKZAK 夕刊フジ


まだ私が絶賛婚活中の夏に、スイス人男性といい感じになりかけたことがあった。芽生えかけた恋心は8月のある日、表参道のおしゃれなカフェで熱く燃え上がり、一瞬で灰になった。時節柄、慰安婦問題について大激論になってしまったのだ。

 学生時代、私は国益や日本の政治家としての精神的支柱に関する講義を聴く機会に恵まれ、「慰安婦の強制連行はなかった」と理解していたが、当時は人前でそんなことを言えば右翼扱いされた。

 国際機関が集まるジュネーブ出身の彼は、「世界の人権問題を背負う正義の味方」の顔をしていた。そこが魅力でもあったが、悲しいかな、彼にとって第2次世界大戦時の日本は「悪」だった。

 韓国・済州島で女性を強制連行したとする吉田清治氏の証言を引き合いに出し「なぜ日本人は謝罪しないのか」と訊くので、私は好きな人の誤解を解きたい一心で「どうしてそんなこと信じるの? 私の話も聞いて」と拙い英語で訴えた。

 だが、証拠不十分だと納得してもらえなかった。自分の恋の行方より、日本人の誇りを守りきれなかったことが、私にはずっと心残りだった。

吉田証言を16回も報じた朝日新聞が「誤報」だったと認めてくれたので、あの時の私は間違っていなかったとすがすがしい気持ちだ。同時に朝日の社員の方々が気の毒に思えてきた。例えば自分の親が逮捕されたら、まずはそんなことをするはずがないと信じ、罪が確定してからは、自分がやったことでなくとも身内が人様に迷惑をかけて申し訳ないと責任を感じ、負い目を感じながら生きていくものだ。肉親を糾弾するのはさぞかし辛かったろう。

 しかし、朝日は日本人に濡れ衣を着せた張本人だ。実は冤罪だったと分かったら、「やっと冤罪が晴れた」と喜ぶのが人情だ。誤報を認めても、冤罪に苦んできた人々の声を聞き流せるとしたら、人としての愛情が欠けているか、あるいは日本人としての当事者意識が薄いのかもしれない。

 朝日が誤報を30年以上も放置したことで、私の恋は破れ、日本人は残虐な行為をして、しかもそれを認めない国民だという不名誉な烙印を押された。損なわれた国益の大きさは計り知れない。朝日はその過ちを償うため、現役の社員にも多大な負担がかかることだろう。戦時中、実際につらい思いをされた方の話でさえ疑われるかもしれない。

 国際社会における日本人の二重の不名誉を完全に拭い去るまで、自らの責任と捉えて積極的に取り組んでほしい。それが、朝日が新聞としての信用を回復する唯一の手段と言えるのではないか。

 
■楠城華子(なんじょう・はなこ) 1980年、山口県生まれ。東大法学部卒。「六條華」の名前でグラビアアイドルとして活躍。その後改名して映画「まいっちんぐマチコ先生」などに主演。2010年に結婚し、現在は二児の母。