【日曜経済講座】政府・日銀はウォール街動かせ
日本株式再浮上の条件 編集委員・田村秀男
米株価の上昇基調にもかかわらず、日本の株価は今年1月以降、軟調が続いている。これまで株高が個人消費を押し上げてきたのだが、株価の低迷が続くようだと、4月からの消費税増税に伴う家計負担増と重なり合い、景気がおかしくなる。株価の再浮上は可能か、条件は何か。
読者の中には、1月から始まった年100万円までの投資が非課税となる少額投資非課税制度(NISA)へ加入して、株式投資を始めた方々も多いだろう。日経平均株価は12月末に比べて約1割安いが、短期的な株価の上がり下がりにやきもきしても始まらない。問題は中長期的なトレンドである。
グラフを見よう。日経平均株価は安倍晋三内閣が発足した2012年12月以降、1年間にわたって大きく上昇してきた。当初は「アベノミクス」への期待先行で始まったが、間もなく日銀による異次元の金融緩和、機動的な財政出動が始まり、株価反転にはずみがついたが、今年1月に失速した。
他方、日本の国内総生産(GDP)の6割を占める個人消費はどうか。家計の金融資産に占める株式・出資金の割合が1割にも満たない日本の場合、同4割近い米国に比べて、株高に伴う資産増がもたらす消費刺激効果はかなり小さい。04年から07年にかけての株高局面では株価と消費動向はほとんど連動せず、株高がピークに達した07年4~6月期でも実質個人消費は前年比0・9%増にとどまっていたのだが、昨年は一貫して株高と同調するようになった。アベノミクスへの期待の大きさが株高をもたらし、15年間も続いてきたデフレの淵(ふち)に沈んでいた消費者心理を大幅に上向かせた。株価はかつてなく日本経済の重大な鍵を握っている。
一転して株安が長引けば、消費者のアベノミクスへの信頼は揺らぎ、アベノミクス以前の消費者心理に戻る恐れがある。消費税率の8%引き上げと駆け込み消費後の反動減が影響する4~6月期の実質成長率は前期比でマイナスになるのは不可避だが、7月以降、株安効果がのしかかると、夏場の家計消費回復シナリオが狂う。今後、景気を落ち込ませないためには、株価の再上昇が欠かせない。
ここで留意すべきは、日本の株価は日本ではなくニューヨーク・ウォール街が決めるという現実である。日本の株式売買シェアの6、7割は「外国人投資家」が占めているが、その「外国人」の総元締めがウォール街の投資ファンドや機関投資家である。ウォール街の投資家は米国株を主に、日本株を含む海外株で構成する資産配分を組んで、コンピューターによる自動売買プログラムで高速取引する。米財務省統計(最新データは2月分)から米国の投資家による海外株の国、地域別保有比率の推移をみると、日本株の比率は12年12月からほぼ一貫して上昇し、昨年後半には9・3%前後にほぼ固定されていた。ところが今年2月には8・9%に下がった。中国、ブラジル、ロシア、メキシコ、トルコなど新興国株式の比率は12年12月から下落基調が続いている。逆に、米投資家はユーロ圏の比率を昨年半ばから引き上げている。海外保有株全体に占めるユーロ圏株式の比率は12年11月で18%台だったが、今年2月には22%台だ。米国の投資家たちは、海外株のうち欧州株へのシフトとともに、新興国に続いて日本株離れに踏み切った。
日本株を再び上昇軌道に乗せるためには、ウォール街の投資家たちの保有株に占める日本株の比率を再引き上げさせるしかない。そのための条件は2つ。まずは安倍首相が6月に打ち出す具体的な成長戦略を通じて、国内外に対して強烈なメッセージを送ることだ。国家戦略特区、規制緩和と法人税の実効税率引き下げの議論が続いているが、官僚の作文を排し、政治の主導性を印象づけるべきだ。日銀がこれと合わせ、追加緩和に踏み切るのは当然だ。追加緩和でもう一段の円安を誘う。ドル建てで保有日本株を計算するウォール街投資家はドル換算の日本株の保有シェアを維持するよう、日本株を買い足す。これが円安=日本株高のからくりだ。
海外要因を考えると、ユーロ圏の市場不安は解消したわけではない。新興国の代表格である中国は鉄道貨物輸送でみた実物経済の成長率はマイナスが続いているうえに、不動産価格の下落が全国規模に広がっている。ウォール街が日本株を再評価する余地は十分ある。安倍政権は6月、このチャンスをものにすべきだ。日銀も決断の時だ。