「当たり前」の感覚がマヒしている防衛省 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 



連載:ニッポンの防衛産業
ZAKZAK 夕刊フジ


 「武器輸出3原則」が撤廃され、わが国の防衛産業を縛ってきた武器禁輸の方針が、目立つ格好で転換をすることになった。

 「目立つ」というのは、これまでも例外化を重ねてきたことや、民主党政権下で、すでに国際共同開発・生産への参加と、人道目的での装備品供与を解禁する官房長官談話が出ていた。こうしたことから、ある程度の素地が、形成されていた側面もあるからだ。

 北澤俊美防衛相(民主党)のころ、それまで国際活動において現地で求められても施設器材などの装備品提供ができないといったことなどについて、北沢氏が「当たり前の感覚ですべきだ」という姿勢で臨んだ成果だと語る関係者は多い。

 今回は、それをさらに明確にした形で、政治・外交的な意味は大きい。

 「当たり前」と言えば、ある行政機関の関係者から、こんな指摘を聞いたことがある。

 「防衛省は当たり前の感覚がマヒしているのではないか?」

 当事者たる自衛隊では気付かないかもしれないが、当たり前ではないことが数多くあるという。

 「例えば、『不具合が生じたから急いで直してくれ』と言われれば、どんな企業でも飛んでいきます。そこで、どこがどの程度悪いのかじっくりと見るわけですが、耳を疑ったのは、この時の作業は経費として認められないのです」

 担当の裁量にもよるだろうが、契約をしていないのに工数を認めることはできないというのだ。これは「契約前修理」呼ばれている。

小規模の企業は、地方部隊などで公募があった場合、直接見に行って、次の時に書類を受け取り、さらに後日、説明会に行き…と、入札に参加するには足を運ぶ回数があまりに多いため、「少額の品物ならば、この時点で赤字です」と苦笑する。

 また、国際活動中の部隊が使用する装備に何らかの問題が発生した場合、製造企業は異国の僻地(へきち)にも大急ぎで行くことになる。だが、経費が認められるのは、修理をしている時間だけで、飛行機が1週間に1本ほどしかなく滞在費がいくらかかろうが、事情は変わらない。

 装備品を試運転すれば燃料費がかかる、その燃料代が高騰しても、その分は企業がのみ込む。

 こうしたことは、かえって官民にしがらみを生じさせ、関係を不健全にしているのではないかという気もする。とにかく、「当たり前」の感覚を取り戻した上で、装備品移転というステップに進んでほしい。

 ■桜林美佐(さくらばやし・みさ) 1970年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作後、ジャーナリストに。防衛・安全保障問題を取材・執筆。著書に「日本に自衛隊がいてよかった」(産経新聞出版)、「武器輸出だけでは防衛産業は守れない」(並木書房)など。