【島が危ない 第2部 佐渡に迫る影(3)】
イカ釣り船激減で増える国籍不明船、安保も揺れ
しけのため港に係留されたままの漁船 =新潟県佐渡市
新潟県・佐渡島の北東部。内海府海岸の近くは定置網漁が盛んだ。特に白瀬、和木、黒姫、鷲崎といった漁港の沖合はブリの通り道に当たり、地元では定置網の四大漁場とされている。
清田満茂さん(64)が黒姫で定置網漁を始めた昭和43年ごろ、漁港には90人前後の漁師がいた。水揚げ高のピークは平成11、12年ごろで、黒姫と鷲崎だけで年間9億6千万円前後を記録したという。4漁港合わせて1日に6万本のブリを水揚げしたこともあった。
「市場がある両津港にブリを降ろしても、多過ぎて置く場所がなくて、港から400メートル近くにわたって道路に並べたこともある」
豊漁時の楽しみは両津界隈(かいわい)で交わす一杯。「10キロのブリを1本持ち出せば、3人で2軒ぐらい、はしごができる金になった。何万本もあるから1本ぐらいくすねても分からなかったし、だれも文句を言わなかった」。清田さんは当時を懐かしむ。
清田さんが所属する内海府漁協は今でも恵まれているほうだという。漁師は漁協に勤めている形をとって月給制。清田さんの場合で月30万円。厚生年金や社会保険なども整備されている。23年には久しぶりの豊漁で1千万円のボーナスまで出た。
「積み立てをしているので1年や2年、不漁のときもやっていける。1千万円は10年か20年に1度だが、たまには200万、300万のボーナスをもらえる」
ただ、後継者不足は年々深刻になっている。清田さんと同じ黒姫漁港の漁師は現在約20人にまで減っている。
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佐渡島全体でみると、元気のなさはよりはっきりする。漁船を動かす燃料費の高騰や高齢化に悩まされている。
佐渡水産物地方卸売市場の石川信彦販売課長(58)によると、昭和期は島全体で年間30億円前後の水揚げ高を維持し、平成の初めごろには40億円まで伸びた。それが10年ほど前から下がり始め、昨年は20億円に届かなかった。
「以前はイカ釣りが多かった。でも、油代がめっぽう高くなる一方で、他の地域との競合でイカの値段が下がっていった。単価は10年前からそのまま変わらない。採算が合わなくなって、目に見えて衰退していった」
かつて100隻ぐらいあったイカ釣り船も今はわずか10隻に減ったという。漁師の廃業が増え、高齢化も追い打ちをかける。「本当なら、私の年代が漁業の中心になるはずだけど、同級生の漁師なんてほとんどいない。最高齢は80歳を過ぎている」と嘆く。
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第1部の対馬編でも紹介したが、漁船はおのずと海の監視という役割も担っている。特に佐渡は、北朝鮮による拉致事件が起きた島でもある。近年、不審船のニュースは聞かれなくなったが、24年度と25年度の2年間で所有者不明の木造船の漂着が14件あった。
清田さんは数年前、黒姫から近い弁天岩沖で不審な船に遭遇した。「朝の5時ごろ、日本の船じゃない船が航行していた。海に何かをほうり込んでいたから、覚醒剤か拳銃か、何かを捜しに来ているのではという噂が立った。弁天岩沖には、しょっちゅう妙な船が来ていた」
元県議の清野正男さん(64)は、日本海中央部で日本の排他的経済水域内にある漁場、大和堆を例に挙げる。「大和堆はイカもマグロも、何でも取れるが、燃料費の高騰で漁師が行かなくなった。何年も前の話だが、中国や韓国、北朝鮮に占領されているんじゃないかという話があり、チャーター機で空から視察したところ、国籍が分からない漁船が数隻いた。今は漁師が行かないからどうなっているのか分からない」
漁業の衰退は、佐渡経済を根底から揺るがしている。同時に四方を海に囲まれた佐渡は、安全保障上重要な拠点でもある。民間監視が手薄になる危機が現実になっている。(宮本雅史)
冬の日本海は北西の強い季節風がひとたび吹くと、漁に出られない日が何日も続く=2月、新潟県佐渡市(大山文兄撮影)