◆日本は「言霊(ことだま)」の世界、最悪の場合を口にしない
古森 2点ほど追加させてください。アッシャーさんが先頭に立って実行したバンコ・デルタ・アジア(BDA)の口座の凍結ですが、その根拠となるのは9.11の同時中枢テロの後にできた愛国者法という一種の有事法制のような特別な法律です。
平時に比べて過激なことができるということで、私も最近、彼と長く話して、その説明を聞きました。アッシャーさんは非常に論客で、いっぺん話し始めると止まらなくなってしまう。そしてすごく早口でしゃべる人で、頭の回転がいかにも速いという感じです。
私が理解した範囲では、BDAの凍結が効いたのは、北朝鮮関連の口座の凍結だけではなくて、BDAと取引をしていた他の企業や金融機関に対してもアメリカの金融機関は取引をやめるようにさせる拘束力があったからだそうです。
日本のこれまでの制裁ではそれはできていないだろう、と彼は述べていました。足利銀行とか一つの銀行だけならまだしも、そことかかわりを持ついっさいの関係機関まで追いかける形で口座を閉めてしまう、取引停止にする。そうすれば一番いいんじゃないか、と彼は言っていました。
島田さんがおっしゃったように、アメリカは一枚岩ではない。強硬派とか軟弱派とかいろいろあるというお話しでしたが、いまもそうです。ついこの6月にも北朝鮮に対するきわめて強硬な意見が表明されました。民主党のクリントン政権の時、94年に北朝鮮の核開発が表面に出てアメリカと北朝鮮の合意ができたん
ですが、結果としてまったく守られない合意でした。
この時代にCIA長官をやっていたジム・ウールジーという人が、今はある研究所の幹部になっていますが、朝鮮問題について議会内での政策討論会で語ったことです。ウールジー氏は英語でいうとサージカル・ストライク(外科手術的な拠点攻撃)、一点だけを集中して攻撃することですが、これしかもうないんじゃ
ないかと述べたのです。
彼はクリントン政権の外交政策が軟弱に過ぎるということで民主党から離れてしまった人ですが、いま民主党の国防副長官をやっているアシュトン・カーターという人が、2006、7年に、北朝鮮の核問題を解決するには拠点攻撃が消去法で残されたベストの手段だと提言したことがあります。ウールジー氏はこのカー
ター氏のかつての提言を引用して、同意を表明したのです。
だが、もっと遡れば、1994年に、共和党のジョン・マケインという上院議員が、最初にサージカル・ストライクと言った。しかしできない、と。というのは、「もし攻撃すれば、北朝鮮は全面戦争のつもりで反撃してくる。そうすると北朝鮮と韓国の中枢は近いから、ミサイルや大砲のボタンを押しただけでそれこそソウルがあっという間に火の海になってしまう。だからできない」と。
しかし北朝鮮に武力を使わないで核兵器を放棄させるという歴代のアメリカ政権の目標というのはもう意味がないじゃないか、もうできないんだ、というような所まで議論が行っています。だからこそまたウールジー氏というような責任ある政府高官だった人物までが、また出発点にもどって、武力解決を提案したので
しょう。このようにアメリカの対応策というのはいつも幅が広いのです。
アメリカの場合、「もしこうなったら」という最悪を想定しての有事の研究がすごく盛んなのですね。金正恩政権が倒れたらどうなるか。中国軍がそのまま入ってくるのかどうか。日本はどうするのか、などと、国防上の緊急時への対処の研究をしています。
日本では、誰かが「言霊(ことだま)の世界だ」と評していたけれども、「もしこういうことが起きたら」と言っちゃうと、本当に起きてしまうのではないかということで、最悪の場合は考えない、口にしない、という傾向があるようです。「もし朝鮮半島で戦争が起きたら」とは言ってはいけない。言っちゃいけないなら考えてもいけないということで一切、その対応の研究をしない。
その点、アメリカはものすごく詳しく、この種の有事研究をしています。その過程や結果を発表しています。だから私たちも「もし金政権が倒れた時、拉致被害者はどうなるのだ、日本の自衛隊はどうするのだ」という想定の有事研究が必要ですね。しかしいまの状況ではなにもできないようです。それでいいのかということです。
いずれにせよ、アメリカの中でもまだまだ多様な意見や提案があるのだということは知っておくべきだと思います。
◆アメリカは「海兵隊を送れ」、日本は「米を送れ」
西岡 マケインさんが94年の6月だったか、上院で演説されているんです。その記事を古森さんが書いたのを読んで私は知っているんですが、その中に、「羽田外務大臣から聞いた」として、「年間18億ドルから20億ドルのお金が北に流れている。それを日本が止めないのなら日本に核の傘を貸す理由があるのか」
と言っているんです。
そして、「アメリカとしてはサージカル・ストライクをしても核を止める。ところが日本は、「北朝鮮の核の射程に入っていて、日本の安全保障にとっても重大な問題なのに逆にお金を出している」と。
ブラウンバック上院議員と一番最初に会ったのは、2003年です。その時、アーリントン墓地にお参りに行ってからブラウンバックさんの所に行ったんです。最初に会った時、挨拶をした後、「お前たちここに来る前にどこに行っていたんだ」と言うので、「アーリントン墓地に行っていました」と言ったら、ひざを突き出して「そうか」と言ってくれて、それから後真剣に考えてくれたんです。
その時言ったのが「イッツ クレイジー センド マリーン」。「13歳の少女がさらわれている」と言ったら、「海兵隊を送れ」と。私は心の中で、「うちは センド ライス(米を送れ)なんです」と。
軍事という選択肢を表面に自由にあげて議論できるアメリカと、お金が北に行っているのを止めないで米も出すという日本と、大きな違いがあったと思います。
◆憲法を改正して国軍を作っておかないと
しかし、それも少しずつ変わり始めていて、櫻井よしこさんが理事長の国家基本問題研究所では、2009年に「北朝鮮崩壊事態に備えよ」という政策提言を出しています。また崩壊した時にどうなるかのシミュレーションをし、またアメリカでこういうシミュレーションがあり、中国でこういうシミュレーションがあるということを分析した上で、日本はどうするかという提言をしました。
次の年には、「混乱事態の時、被害者を救出するための特別法制」が必要だと。拉致被害者救出のための特措法が必要という提言もしました。それが安倍政権になってできた、拉致問題与野党協議会の中で、民主党の渡辺周議員の提案があって、政府の中でも混乱事態の時にどう救出するかということが表舞台でも議論され始めています。もちろん水面下では数年前からあったのですが。
私自身は、今出ている『月間正論』に、日本と韓国は北朝鮮が崩壊したり、あるいは北朝鮮が最後の賭けで韓国に攻めてきたりする時共に戦うのか、全体主義勢力に対し日本と韓国が共に戦えるのかいうテーマで50枚くらい原稿を書きました。
私の結論は、「困難だけれども戦える可能性がある」です。アメリカを媒介とする準同盟国が全体主義国家と対峙しているわけですから、戦えるんだったら戦えた方がいい、と。しかし、戦えないかもしれない。そのどちらの場合でも、憲法を改正して国軍を作っておかないと、朝鮮で有事が起きるというのはかなりの確率で迫っている。その場合に被害者をどう助けるか。核兵器をどう処分するのか、中国の影響力が半島全体に及ぶことをどう防ぐのかということです。
そういうことを前提として、憲法改正をどうするか、集団的自衛権の行使をどうするかについて書きました。
これは拉致のこととは離れますが、言霊から縛られることが少しずつ解放されてきているんじゃないかと思っています。
◆13歳の男の子をほったらかして、13歳の女の子を助けるのに真剣?
島田 今の関連で、軍事力の話ですが、現在アメリカ国務省の国務次官をしているウェンディ・シャーマンという人がいて、北朝鮮に対する宥和派なんです。安倍首相から首相に復帰される前に聞いた話ですが、ウェンディ・シャーマンと議論した時に、安倍さんが「北に対してもっと圧力が大事だから制裁を緩めること
はしちゃだめだ」と言ったら、シャーマンは「そんなことを言って、緊張が高まって、いざ軍事力でぶつかるという時にアメリカは戦えるけど、日本は戦えるのか」と言われて、安倍さんは腹が立ったけれども、確かにそう言われてしかたがない面があると忸怩たる思いをしたということです。
やはり集団的自衛権、憲法解釈をしかりして、いざという時に一緒に戦えるという体制を作らないとウェンディ・シャーマン的な嫌らしい突っ込まれかたをして答えられないという情ない状況が続くと思います。
下院について一言いいますと、下院議員にも拉致議連の方々がアプローチしておられるし、また在米日本大使館のスタッフの中にも熱心な方がおられるとうことです。
またそこにおられる古森さんの奥さんのスーザン古森さんは、救う会の在ワシントンアドバイザーという形で、いつもワシントンで議員と会う時は手伝っていただいています。
先ほど古森さんの話に出たデニス・ハルピンという下院外交委員会の重要スタッフをずっとやってきた人ですが、こういう人物は長くそのポジションにいいますし、極めて関係を密接にしておくことが重要だと思います。
そのハルピンさんが、もう亡くなりましたけど、ヘンリー・ハイドという下院外交委員長のスタッフをやっていた時、ヘンリー・ハイド委員長はぼくらや増元照明さんの話を聞いて、「拉致問題で決議案を下院で通すよ」と、ハルピンさんに命令して、ぼくとも少し協力して決議案を作って出せと。
その時ハルピンさんから連絡があって、「13歳で拉致された子どもが二人いますね」と。横田めぐみさんと寺越武志さんですね。「寺越さんはなんで問題にしないのか」と言われました。「これは拉致じゃないのか」と言われて、「当然拉致です。日本政府は認定できていない」と事情を話して、「恥ずかしい話だけどめぐみさんしか認定していない」と。
しかし、ハルピンさんとのやり取りの中で、「13歳の男の子をほったらかしている国が、13歳の女の子を助けるのに真剣だと言ったら、それ通用しないんじゃないの」と。当然そういうことになります。だから寺越武志さんのことも、アメリカの下院の決議案には実名で載っているんです。
日本は認定していないけど、アメリカは認定しているという格好になっているんです。「決議案というのは大して意味がないもんだ」という人もいますが、それを作るのに中心になったデニス・ハルピンという人は、ヘンリー・ハイド委員長が亡くなった後、イリアナ・ロスレイティネンさんという委員長に代った時も、下院の重要スタッフとして残っていて、ロスレイティネンさんの時には、決議案から1ランク上げて法案を出してきて、「日本人拉致問題が解決しなければ、アメリカは北朝鮮と国交正常化しない」という内容にまで、続けて接触していると上がってくるわけです。その意味で地道に、拉致議連を中心に交流を深めていくことが大事だと思います。
(6につづく)
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担当:平田隆太郎(事務局長 info@sukuukai.jp)
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