知れば知るほど食べたくなる鯨肉。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 





「バレニン」で日本の捕鯨が復活?

http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/38239




 仙台の女子大で非常勤講師として食文化論を教えている。約100人の受講生のほとんどは、管理栄養士を目指す健康栄養学科の学生だ。文字通り浅学菲才の講師だから、奥の深い食文化を知識で伝えることは難しいと考え、毎回、食文化と関わる食品を持参し、試させている。

 五穀米、タイのジャスミン米、クスクス、くさや、鮒(ふな)ずし、イナゴの甘露煮、ゴルゴンゾーラチーズ、沖縄の豆腐よう、ラプサンスーチョンの紅茶、仙台の駄菓子・・・。毎回書かせている感想文を読むと、興味を持っておいしいと言ってくれる食品もあるが、くさや、鮒ずし、イナゴなどには手をつけない学生が多い。「栄養士を目指すなら、いろいろな食べ物に挑戦しなければ」などと、挑発するのだが、ほんの一口程度しか用意しなくても半分も余ってしまうことがある。

 ところが、先日、鯨肉の大和煮の缶詰を出したところ、思わぬ人気で、後ろの方に座って学生には、ちゃんと肉が回らなかったということで、追加の缶を開けたほどだった。

 いつもは「匂いだけでダメでした」などというコメントが交じる感想文も「おいしかった」というものばかりだった。鯨肉は初めてという学生もたくさんいたが、彼らを含め好評だったのには驚いた。

 「食べる前は生臭そうだとかイメージしていましたが、ショウガで匂いが消されていたので、おいしくいただけました」

 「とても柔らかくて匂いもなく、とてもおいしかったです。祖母からは硬くて匂いがあると聞いていたので、驚きました」

 「学校給食のときは生臭くておいしくありませんでしたが、今日の缶詰はとてもおいしかった」

被災した水産加工会社の新商品

 この日の缶詰は、木の屋石巻水産(宮城県石巻市)が宮城県遠田郡美里町の新工場で製造したもの。「内陸地に新工場を建設、被災した水産加工会社『木の屋』の冒険 」というコラムで紹介したように、この水産加工会社は東日本大震災の津波で石巻漁港のすぐ近くにあった工場が全壊したため、内陸に新しい工場を建てた。そこで最初の缶詰として2013年5月から生産を始めたのが鯨肉の大和煮だった。いわば、出来たてほやほやの缶詰だ。

 大手水産会社が反捕鯨団体からの批判を恐れ、捕鯨や鯨肉加工から撤退する中で、その「すきま市場」でシェアを伸ばしてきたのが木の屋だ。


味付けも、学生が述べたように、ショウガをたっぷり入れて、鯨肉の生臭さを消している。「生臭さ」が苦手な若い人たちでも抵抗なく食べられる工夫をしているのだろう。

 大和煮という調理法は、明治になってから、牛肉など動物の肉を食べるようになったときに普及したもので、しょうゆと砂糖による濃い目の味付けと、ショウガや香辛料による香りで、けもの臭さをなくす工夫だった。肉食という「近代文化」を日本化させて受容する「和魂洋才」の1つで、その意味では「大和煮」という名前も言い得て妙と言える。

 2年前のこの授業で、鯨のベーコンを出したのだが、このときは、あまり人気がなく、ずいぶんと余った。大和煮ではポピュラーすぎて面白くないと思ったのだが、鯨肉がもはや食品としては「珍味」のたぐいになっているのか、ベーコンは若い世代にはハードルが高すぎたと反省したのだった。

鯨のパワーを生み出す栄養素とは

 しかし、今回の思わぬ鯨肉への人気の高さは、大和煮という工夫だけではないと思った。実は、今回の授業は、日本捕鯨協会会長代理の山村和夫さんにクジラの生態や捕鯨の歴史、食文化としての鯨肉の話をしていただいたのだ。クジラや鯨肉の話をゲスト講師からたっぷり聞いたあとだから、鯨肉への評価も高くなったということがあるかもしれない。

鯨肉の食文化を語る山村さん

 


 そのうえ、山村さんは健康食品としての鯨肉の素晴らしさを説いた。「南極海という世界で最も汚染の少ない場所で取れたクジラの肉だから、最も安全な食べ物」「鯨肉はあまり食べられていないので、過剰摂取から起こるアレルギーが起きにくい」「鯨肉には、魚肉と同じように、動脈硬化になりにくいと言われる不飽和脂肪酸がたくさん含まれている」「鯨肉の赤味は鉄分が多く、鉄分が不足がちな女性の健康に良い」・・・。

 これだけ聞けば、思わず鯨肉に手が出るはずだ。


さらに、極め付けが「バレニン」だった。クジラは1年の半分を餌場である高緯度の冷たい海で過ごし、残りの半年は繁殖のため餌場から数千キロも離れた暖かい海へ移動し、そこではほとんど餌も取らずに子育てに専念する。スポーツ選手にもそっとこれを摂している人がいる・・・。

 こんな話をしたところで、日本捕鯨協会の「バレニンで、みんな元気! 驚異的なくじらパワーで疲れ知らずに!!」というパンフレットを配布。そこには「半年間も絶食状態で出産し、そのまま数千キロも不眠で泳ぎ続ける驚異的なパワーが、くじら特有成分のバレニンをはじめ、アンセリン、カルノシンの3種類のイミダゾール・ジペプチドではないかと考えられています」とあった。

 学生の感想文にも「スポーツ選手が飲んでいるというバレニンというサプリが気になりました」など、栄養学科らしいコメントがいくつもあった。私もバレニンという言葉を聞いたのは初めてで、さっそく、私が教えている体育大学の学生にも鯨肉を勧めようという気になった。

日本捕鯨協会が作ったバレニンのパンフレット

 


 テレビの情報番組で、○○がからだに良いと言うと、スーパーの売り場からその食べ物が瞬間蒸発してしまう。そんな現象が始終起きている時代である。日本捕鯨協会がバレニンのパンフレットを作ったのも、鯨肉の需要拡大に効果があると思ったからだろう。栄養学科の学生の食べっぷりを見ても、その効き目は確かだと思った。

 水産庁のウェブサイトを見ると、クジラ肉の魅力を語るところで、バレニンは「絶食状態で子育てをし、さらに数千キロ離れた餌場に不眠で泳ぎ戻っていく、クジラのパワーの秘密ではないかと考えられ、疲労回復効果が期待されています」と書かれていた。この程度の表現なら、公的機関として許されるということなのだろう。

 日本の捕鯨は、国際的な反捕鯨国や団体による包囲網という前門の虎だけでなく、若い人たちが鯨肉を食べないという後門の狼からも攻められている。バレニンは起死回生の後門の狼対策になるかもしれない。