「汽罐報国」(汽罐=ボイラー) | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 





ニッポンの防衛産業  

海自艦艇の乗員の生活を支える「単管式ボイラー」

http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20130618/plt1306180710001-n1.htm






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艦艇用ボイラーチューブの曲げ加工機





 鳥取県出身で日本を代表する発明家の1人である田熊常吉(たくま・つねきち)は、大正元(1912)年、40歳にしてボイラーを発明した。まともな教育も受けず機械については全くの素人、職業を転々とした末の偉業だった。

 極貧と数々の苦難に耐えかね、玄界灘に身を投げようとしたこともあったが、水面に映る月光が天の啓示のように常吉の背中を押し、「諦めず、この研究に全身全霊を傾けよう!」と決心する。

 やがて国産ボイラーが誕生、それまで使われていた海外製品にとって代わった。戦時体制下では海軍の艦本式ボイラーを手掛けることにもなった。

 そして現在は、この歴史を持つタクマを親会社とする日本サーモエナーが海上自衛隊の艦艇用補助ボイラーを製造している。艦艇の造水装置、機関各機器への加熱、そして調理や空調など乗員の生活を支えるものだ。

 大きな特徴は「単管式ボイラー」、つまり管1本で作られているボイラーだ。らせん状の管に水を送り込み下から加熱する。

 同社は単管式の国内唯一の製造メーカーだ。一般的なボイラーはほとんどが数十本の管でできている「多管式ボイラー」。なぜ、艦艇用は単管式なのかというと、多管式は傾いたときに水位が変動するため、管が焼損する恐れがあるが、単管の場合は、管の中が水で充満されているので、水位そのものを気にすることなく、傾きによるダメージがないのである。

 昨今は多管式の方が量産ができるということで、一般商船を筆頭に多管式の採用が増えているという。しかし、海自艦艇のように長い航海に出たり、単に波の揺れだけではない舵を切って旋回するといった大きな動きが想定されるものは単管式でなければ対応ができない。艦艇には45度傾いても機能を損なわない事が求められているのだ。

 「海外に出ている光景をテレビで見るとハラハラします」

 京都にある工場では、海自の海外派遣の度に自分のことのように気が気ではない。もしも不具合でもあって水が作れないなどということになれば、艦は戻ってこなくてはならないのだ。

 管を蚊取り線香のように加工する特殊な作業をしているのは、年配の技術者だった。隙間も全て幅が異なるといい、溶接は鏡を使いのぞき込みながらの姿勢で行う。これが航海中の乗員の見えない裏方の姿だ。

 ボイラーは動いて当たり前、しかし、その当たり前を実現し除籍まで約30年間元気に働いてもらうために、こうして汗を流す人たちがいる。

 「汽罐報国」(汽罐=ボイラー)という創設の理念は時代が変わっても受け継がれているようだ。

 

■桜林美佐(さくらばやし・みさ) 


 1970年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作後、ジャーナリストに。防衛・安全保障問題を取材・執筆。著書に「誰も語らなかった防衛産業」(並木書房)、「日本に自衛隊がいてよかった」(産経新聞出版)など。