円高是正に困惑の中国。
人民元切り下げに動けない深いワケ。
http://www.zakzak.co.jp/economy/ecn-news/news/20130426/ecn1304260710002-n1.htm
先のワシントンでの20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議では、日銀の異次元で大胆な金融緩和政策が容認された。ところが、韓国と同じく中国は円高是正に困惑している。なぜか。
グラフは、中国の鉄道貨物輸送量(各月までの12カ月合計)前年比増減率と1人民元当たりの円相場の推移を対比させている。鉄道貨物輸送量は、中国の李克強首相が以前に「最も信頼性のある経済指標」として推奨した。中国の国内総生産(GDP)統計は信憑性に乏しいが、鉄道貨物データは経済実体を正直に反映していると李氏は認めている。
興味深いことに、2007年前半までの円安期に鉄道貨物伸び率は減速し続け、08年9月のリーマン・ショック後の超円高局面に入ると一挙に回復した。そして、12年秋から円高是正が始まるのに合わせたように、貨物輸送の増加率は下がり、今年に入るとマイナスに落ち込んだ。総じてみると、円安または円高是正局面ではモノの動きが鈍くなる、つまり景気が失速するように見える。
理由は推測の域を出ないが、一般的に言えば、円安期は日本企業が国際競争力で優位に立ち、日本国内で増産する。円高局面では中国からの輸出が活発化すると考えられる。そんな背景から鉄道貨物が変動するのだろう。
中国自身の内部要因もある。不動産価格の下落や欧州危機の影響で11年初めから内需や輸出の伸びが減速し続けている。鉄鋼、自動車、家電など主力産業の生産過剰とともにモノの輸送量が減り始めた。そのサイクルがアベノミクスによる円高是正局面と重なっているわけで、このまま円安に加速がかかると中国景気には一層の下方圧力がかかることになる。
中国が円安の衝撃を和らげるためには人民元を切り下げるしかない。中国は通貨の自由変動相場制をとっている日米欧と違って、外為市場介入によって人民元相場の変動幅を小さくする管理変動相場制をとっている。
従って、人民元を当局の意のままに切り下げることもできるが、米国は中国が意図的に人民元をドルに対して安い水準になるよう操作していると批判している。切り下げると、米国から「為替操作国」だと認定され、制裁関税を適用されかねない。
中国自身も国内事情の制約を受けている。というのは、中国の党幹部とその一族や大手国有企業はこれまで国外でため込んだ巨額の外貨を、中国国内に投資して不動産や株で運用してきた。これらが「熱銭」と呼ばれる投機資金であり、その流入によって不動産バブルの崩落は食い止められ、株価も崩壊を免れている。
通貨当局はこれまで熱銭を国内にとどめるためもあって、人民元レートを小刻みに切り上げてきたが、一転して人民元切り下げ政策に転換すれば、1000億ドル単位の熱銭が国外に逃げ出す恐れがある。アベノミクスによる円安に対し、中国はどうにも動けない。
(産経新聞特別記者・田村秀男)