http://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20130312/plt1303120710000-n1.htm
イラク・サマワで、防弾チョッキを着込む陸上自衛隊の佐藤正久先遣隊長(現自民党参院議員)=2004年4月
イラク派遣で国産メリット実感。
防弾チョッキにも研究・開発力。
そういえば、ずっと気になっていることがあったので書いておきたい。
昨年末に武器輸出3原則が緩和された際、国際平和協力活動において現地に寄付できる例として、「防弾チョッキ」という項目が散見されたことだ。こんな重要な物をそのまま置いてくることはあり得ないのではないか。
まず、こうした戦闘員の身に着けるアイテムは欧米列国では重要装備に位置付けられている。米国の国防に関わる連邦調達規制225条では「米国外で生産された物は調達しない」と規定されるなど、国産調達を義務付けている。防弾チョッキはもちろん、戦闘服もヘルメットも当然ここに含まれる。
秘密保全上、防弾技術の流出を防ぐのは当たり前で、自国に技術がなくて輸入に依存せざるを得ない国は、だいたい旧世代の製品を買わされている。
わが国では東洋紡や東レなどが主な製造元で国産している。自衛隊の装備品はいずれも日本の国情に合わせていると常々申し上げているが、これもまた日本人の体形に合わせることが欠かせない。臓器がどこに位置するかなどを綿密に考慮し、死傷率低減ための研究を尽くしているのだ。
そして、自衛隊の持つ装備とのバランスも重要。携行する火器、その際の操作性、車両を操縦できるかなど、細部に渡り計算されている。
さて、そうは言っても日本のような平和な国では、国産のメリットを実感する機会は長年なかった。再認識することになったのは2003年から始まったイラク派遣だった。派遣が決まってから約3カ月内に、いわゆるイラク仕様(国内使用を想定した従来品でない物)数千着単位を調達する必要が生じたのだ。
「今から国内生産は無理だろう」と、米国からの輸入などが検討されたが、調べてみると米国もイラクやアフガンに派遣される自国兵士が優先だった。日本に回ってくるのは早くても半年先、それも確実かどうか分からないということであった。
そこで、国内企業が緊急製造をしたのだ。オートメーション化などされていない手作業の工程を数週間でやりとげた。
「自衛官の命を守るためだ」
その一念だったという。
また、派遣中に米軍兵士が防弾チョッキを付けたまま川に落ち溺死する事故が起きたことも、日本企業の実力を発揮する出来事となった。4カ月後には、ひもを引くだけで脱衣できる「クイックリリース」型に改善させることに成功した。
それまで積み重ねてきた研究・開発力が生きた。「急なニーズに応え、小ロットでも作ってくれる」。そんなことができるのは国内基盤あればこそなのだ。
■桜林美佐(さくらばやし・みさ)1970年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作後、ジャーナリストに。防衛・安全保障問題を取材・執筆。著書に「誰も語らなかった防衛産業」(並木書房)、「日本に自衛隊がいてよかった」(産経新聞出版)など。