危機にひんする中国社会。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 








【石平のChina Watch】胡政権の失敗と不作為




 10年前に胡錦濤政権ができたとき、中国国内では「胡温新政」という言葉がはやった。政治改革の停滞と腐敗の蔓延(まんえん)が彩った「江沢民時代」がやっと終わった後、多くの人々は清新なイメージの胡錦濤・温家宝両氏に多大な期待を寄せ、新しい国家主席と首相となったこの2人が政治を刷新して明るい時代を切り開いてくれるのではないか、との希望的な観測が広がっていた。

 だが蓋を開けてみれば、胡・温両氏が中国の政治をつかさどったこの10年間はむしろ、「新政」への期待が裏切られる日々の連続だった。待望の政治改革は10年にわたって一歩も進まず、「創新」よりも「守旧」の方が胡政権のモードとなったからである。

 政治改革が進まなかった結果、権力と市場経済との癒着から生まれた「権貴資本主義」の利権構造が空前の規模において拡大かつ強化され、腐敗の氾濫は未曽有の新境地に達した。政権末期になると、「清廉潔白」な政治家として腐敗の一掃を期待された温家宝氏その人の身辺でさえ、巨額の不正蓄財の情報が流されるありさまだ。

 「権貴資本主義」の利権構造が拡大されている中で、貧富の格差の是正と社会的対立の解消を目指した胡政権の「和諧社会(調和のとれた社会)建設」はただのかけ声だけに終わっている。胡政権成立時と比べれば、格差はむしろ数倍以上に拡大している観がある。
人民日報系の雑誌「人民論壇」が今年10月に実施した意識調査で、回答者の70%が「特権階級の腐敗は深刻」とし、87%が特権乱用に対して「恨み」の感情を抱いていると回答したことは前回の本欄でも紹介した。それはまさに「和諧社会建設」の失敗に対する現実からの嘲笑であろう。

 貧富の格差が極端に拡大し「特権階級」に対する人々の「恨み」が増大すると、社会的不安はますます高まってくるものだ。全国で発生した暴動などの集団的抗議活動が年間9万件に上ったのは胡政権中盤の2006年のことだったが、政権末期の11年になると、暴動・騒動事件の発生件数が18万件を超えた。さすがの「胡温新政」、ただの5年間で「国民所得倍増」ならぬ「国民暴動倍増」を見事に実現させたのである。

 胡錦濤政権はその成立した日から、「維穏」、すなわち「社会的安定維持」を最重要課題にして国政の運営を行ってきたが、上述の「暴動倍増」の数字によっても示されているように、政権が「維穏」に熱を入れれば入れるほど社会的不安はむしろ高まってきている。揚げ句の果てには、胡政権最後の年である今年の国家予算に計上された「治安維持費」は当年度の国防費を上回る巨額となったほど、中国社会は完全に乱れている。
こうしてみると、過去の10年間にわたって、胡錦濤政権が推進してきた諸政策はほとんどが失敗に終わってしまい、いわば「胡温新政」たるものは、単なる黄粱一炊(こうりょういっすい)の夢に過ぎなかった。そして、10年間にわたる胡政権の失敗と不作為の結果、中国社会全体はかつてないほどの危機にひんしているのである。

 今年9月、「中国経済学界の良心」と呼ばれている著名学者の呉敬●(=王へんに連)氏が「中国の経済・社会の矛盾はすでに臨界点に達している」と警告を発したことは、まさに「中国の危機」に対する知識人たちの現状認識を代弁したものであろう。

 危機打開の難題は結局、胡・温の後の新政権に委ねられることになる。ちょうど今日開かれる党大会で誕生する予定の習近平政権には果たして危機脱出の妙案があるのか。お手並み拝見である。