ペルシャ湾での国際掃海訓練に参加した掃海母艦「うらが」
いま防衛問題の関心の多くが尖閣諸島に向けられているが、時を同じくして日本の安全保障上、とても大きな出来事が中東で起きていた。ペルシャ湾における大規模な国際掃海訓練だ。約2週間にわたり行われ、約30カ国が参加。海上自衛隊からは掃海母艦「うらが」と、掃海艦「はちじょう」が参加した。
ことの発端はイランである。核開発疑惑に対する圧力に反発した同国は、ペルシャ湾口であるホルムズ海峡封鎖をほのめかし始めていた。そこで米国を筆頭に、これだけの国が航路の秩序維持のため立ち上がったのだ。
言うまでもなく同海域は日本のシーレーンである。わが国の原油自給率はわずか0・4%、残りの99・6%は輸入で、うち86・6%は中東からのものだ。つまり、ここはまさに日本の生命線。それゆえ、訓練とはいえ日本が参加し、高い成果を上げられたことは、即応能力を見せつける効果もあり、非常に意義深い。
そして、日本の掃海部隊が世界を驚かすのは、その実力以外にもう1つある。それは、掃海母艦以外は木造の船を駆使していることだ。
排水量約1000トンの掃海艦は世界最大級の木造船だ。1991年のペルシャ湾派遣では、500トンクラスの木造掃海艇「ひこしま」「ゆりしま」「あわしま」「さくしま」も、掃海母艦「はやせ」、補給艦「ときわ」とともに片道約1万3000キロの海域に赴いた。これがわが国初の自衛隊海外派遣であった。
「木でできた船で行くなんて気の毒だ」
と怒った政治家もいたらしいが、機雷を処分するための掃海艇は非磁性でなくてはならないのである。
「立派な世界遺産だと言っていいでしょう」
海上自衛隊幹部が胸を張るように、これを作り上げ維持する技術についても世界に類を見ない。
建造はユニバーサル造船で、2年前に木造は終了したが、私はこの最後の木造掃海艇「たかしま」建造現場に何度か足を運んでいる。立ち込める木材のすがすがしい香りと木屑、そこで目にしたのは船大工の技に他ならなかった。最終的には灰色に塗られるので見た目は分からないが、他の海自艦艇とは全く別のものである。
木造艦艇は甲板に立っていても足腰への負担が少ないことや、何より居住区の心地良さもあり愛着を持つ掃海隊員も多かった。しかし、ヒノキや米マツなどの材料が高騰したという理由で、その歴史にピリオドを打つことになった。
■桜林美佐(さくらばやし・みさ)
1970年、東京都生まれ。日本大学芸術学部卒。フリーアナウンサー、ディレクターとしてテレビ番組を制作後、ジャーナリストに。防衛・安全保障問題を取材・執筆。著書に「誰も語らなかった防衛産業」(並木書房)、「日本に自衛隊がいてよかった」(産経新聞出版)など。