【危機の正体】野田と輿石
京都大学の山中伸弥教授のノーベル医学・生理学賞受賞で同じ日本人として誇らしい気持ちになった。だが、わが国の足元に目を向けると、暗い現実を目の当たりにせざるを得ない。最大の原因は政治の停滞にあることは言うまでもない。それに伴って、国民の外交・防衛への懸念、経済・生活への不安がもはや沸点に達しようとしている。
ところが、永田町では奇妙なことが相次いでいる。先週11日、野田佳彦首相(民主党代表)と、自民党の安倍晋三総裁がようやく顔を合わせた。両党とも新執行部ができて2週間もたってのことである。今週にも党首会談を開いて臨時国会の日程を決めるとされるが、民主党の輿石東幹事長と、自民党の石破茂幹事長は携帯電話の番号交換さえしていない。
輿石氏は「幹事長同士で連絡を取っていないので、(党首会談を)週明けにできるわけがない」と周囲に漏らしたという。臨時国会をできれば開きたくない、1日でも先送りにしたいということだ。臨時国会での野党の追及と、内閣不信任案、問責決議案の可決を恐れてのことであることは言うまでもない。
同じ日、衆院の「決算行政監視委員会の小委員会」が流会になった。東日本大震災の復興予算が本来の使途以外に流用されている問題を検証するため、自民党が開催に踏み切ったが、民主党は「委員が決まっていない」として1人も参加しなかったため定数に足りなかったのだ。
民主党執行部は、財務省や復興庁などの政府参考人にも出席しないよう指示したという。これまた、野党からの追及を回避しようというものだ。
このような民主党の姿勢は、かつて日本社会党が自らの反対する法案の採決に際して行った「牛歩」戦術を彷彿とさせる。投票箱まで何十分も掛けてゆっくり歩いて採決を先延ばしにする手法である。輿石氏は社会党の出身であり、牛歩はお手の物だろう。
しかし、そうやって牛歩を続け、民主党政権が首相官邸に籠城している間、日一日と国民生活は疲弊し、国益も失われている。赤字国債発行に必要な特例公債法案成立の見込みも立っておらず、地方自治体は困窮するばかりだ。地方経済への打撃も大きい。
中国や韓国からの侮蔑は政権基盤がしっかりしていないことに加えて、両国とのパイプが細い民主党の素人外交が招いたものだ。国民生活や国益を考えれば、1日も早く下野すべきだが、彼らは保身のために政権に居座っているのだ。
■八木秀次(やぎ・ひでつぐ)
1962年、広島県生まれ。早大法学部卒業。同大学院政治学研究科博士課程中退。国家、教育、歴史などについて保守主義の立場から幅広い言論活動を展開。第2回正論新風賞受賞。現在、高崎経済大学教授、フジテレビジョン番組審議委員、日本教育再生機構理事長。著書に「国民の思想」(産経新聞社)、「日本を愛する者が自覚すべきこと」(PHP研究所)など多数。