【風を読む】論説委員長・中静敬一郎
「危険な飛行機」という烙印(らくいん)を一方的に押されている垂直離着陸輸送機MV22オスプレイが、日本の危難を救う「切り札」になりうることをご存じだろうか。
沖縄・尖閣諸島が占領されるという有事の場合、奪還する能力に乏しい日本は米海兵隊に出動を要請せざるを得ないという極めて情けない事態が起こりうるからだ。
問題は、「専守防衛」という空虚なスローガンに縛られ、自衛隊が奪還に必要な攻撃力、いわば海上の軍艦から海と空を経由して陸地に乗り込んで作戦を実施する水陸両用戦能力をほとんど持たずにきたことなのである。
こうした能力の一端を担うのがオスプレイだ。揚陸艦などから空を経由して陸地に海兵隊員や資材を送り込む。しかもこれまでの老朽化が著しいCH46ヘリコプターに比べ、最大速度、搭載量、行動半径などは格段に高い性能を備えている。
尖閣諸島は沖縄本島の那覇から西南約420キロに位置する。CH46の行動半径140キロに対し、オスプレイは約4倍の600キロだ。尖閣有事には配備予定の普天間飛行場から即応できるのである。
安全性については開発段階での4回の事故に加え、普天間配備通告目前にモロッコと米フロリダ州で事故を起こした。フロリダの事故は空軍仕様のCV22だ。運用はMV22が人員・物資輸送、CV22は特殊作戦用という違いがある。10万飛行時間あたりの事故件数はCV22で13.47だが、MV22は1.93にとどまり、海兵隊所属のヘリを含む航空機の平均事故率2.45より低い。
佐々木類特派員によると、MV22は2013年から大統領に随行するスタッフらの移動に使われるという。最大限の安全確保が要求されるワシントン上空での運用に関し、米軍が太鼓判を押したと報じた。もう少し耳を傾けるべきではなかろうか。「オスプレイ恐怖症」で問題は解決しない。直視すべきは奪還能力を欠く自らの非力さである。