【40×40】山田吉彦
国境の島・尖閣諸島を持つ沖縄県石垣市は「食」のパラダイスである。ブランドが定着してきた石垣牛のほか、ホンマグロなどおいしい食べものの宝庫なのだ。石垣島を研究フィールドとして尖閣諸島問題、国境離島振興、海洋環境保全などの分野の調査を行っているため、年に数回は訪れる。その都度、妻から食べ過ぎに注意するように諭されるが、石垣島には、私の食欲をかき立てるものがある。海風をうけミネラルをたくさん含んだ牧草を食べて育った牛の肉質は柔らかく、口に入れるとうま味がにじみ出てくる。島内には焼き肉、ステーキ店の数が多く、東京などに比べると値段もリーズナブルだ。
魚介類もおいしい。初夏、旬を迎えたマグロは本土の半分ぐらいの値段で食べることができ、タカセ貝の刺し身、グルクンのから揚げなど南国ならではの魚介料理もおいしい。海藻類も、ウミブドウの酢の物、アオサのみそ汁など癖になりそうなものが多い。ウミガメ、ナポレオンフィッシュなど普段は水族館でしか見ることができないものが「本日のおすすめ」に並べられていることもある。野菜類もオオタニワタリ、アダンなど、名前や見た目では想像もつかないが、食べるとおいしさがわかるものが多い。もちろん果物は申し分ない。一押しは初夏が旬のパイナップルを上品な甘さに品種改良したスナックパインだ。酒はもちろん泡盛がいい。ほのかな甘さ、のど越しのさわやかさが南国の風土にあう。
その南の国境線の島が脅かされている。中国漁船は尖閣諸島周辺まで進出し、乱獲、違法操業を繰り返す。日本の海域の魚類は中国において高価だ。「クエ」という名で売られる「スジアラ」は1キロあたり1万円相当で取引される。最近は、マグロ狙いの漁師も多い。最盛期には、日中中間線を越えて数百隻の中国漁船団が操業を行っている。
このまま国境の島の管理を怠っていると、国境の島々の社会、自然環境は、隣国の経済的な面も含めた侵略により衰退することになるだろう。日本の自然、文化の多様性を維持するためには、国民が国境を守る意識を持つことが重要だ。
(東海大教授)
南小島の新田立石=26日、沖縄県石垣市(三尾郁恵撮影)
尖閣諸島周辺にはたくさんの海鳥の姿が見られた。奥は魚釣島=26日、沖縄県石垣市(三尾郁恵撮影)
今回初めて視察した久場島。潜り漁の漁師達はカメラを沈めて海中を観察した=26日、沖縄県石垣市
(三尾郁恵撮影)