【石平のChina Watch】
去る6月、中国の国内外から伝わった経済ニュースの多くは、この国の経済衰退を如実に示している。
まずは6月21日、英系金融機関のHSBCが中国の6月の製造業購買担当者景気指数(PMI)を発表したが、それは前月比0・3ポイント低い48・1だった。景気の良しあしの分かれ目となる同指数が50を下回るのは8カ月連続で、指数としては昨年11月以来の低い水準となったという。
そして29日、今度は国家統計局の発表によって、今年1月から5月までの全国一定規模以上の工業企業の利益が前年比2・4%減と連続4カ月のマイナス成長となったことが判明したのである。
産業の景況悪化は別の情報によっても裏付けられる。電力消費量の大幅な低減である。国家統計局が発表した今年4月の全国の発電量は前年比0・7%増だが、それは1月の9・7%増から大幅に落ちた。英字紙ヘラルド・トリビューン紙は6月25日付の紙面で、基幹産業が集中する有数の工業ベルト地帯である江蘇省と山東省の電力消費量が前年比10%以上も激減したと報じている。
筆頭副首相の李克強氏はかつて、中国の経済動向を見るのに電力消費量の変化が最重要な指標であると語っているから、彼の見方からすれば中国経済が衰退していることは確実である。
経済衰退の兆候は別の方面でも表れている。シンガポールの聯合早報が、中国本土からの観光客がシンガポールや香港でブランド品や高級住宅、美術品などを買いあさるといった高級品の消費ブームが下火となったと報じたのは5月31日のことだ。
6月23日のマカオ政府の発表によると、5月に中国本土からマカオを訪れた人は前年同月比4・2%減で、約3年ぶりに前年同月を下回ったという。経済の衰退に伴って、「金持ちの中国人観光客」というのは徐々に過去のものとなりつつある。
これまで中国経済は主に、対外輸出の拡大と国内固定資産投資の拡大という「2台の馬車」で高度成長を引っ張ってきたが、この成長戦略が今や限界にぶつかっていることが経済衰退の主因であろう。
例年25%以上の驚異的な伸び率で拡大してきた対外輸出の場合、今年1月から5月までの伸び率が8・7%増に止(とど)まり、過去のような急成長はもはや望めない。
一方の固定資産投資の拡大に関して言えば、6月28日、経済参考報という経済紙が「資金不足ゆえに複数の国家的事業としての鉄道建設プロジェクトが中止・延期されたまま」と報じている。「ハコモノ造り」で成長を維持していくという戦略自体がすでに限界を迎えていることがよく分かる。
こうした中で、中国経済の全面衰退は明確な趨勢(すうせい)となってきている。6月25日、中国の各メディアが伝えたある政府高官の発言は実に興味深い。全国の国有企業を監督する立場にある国有資産管理局の副主任にあたるこの人物は最近、国有大企業の経営者たちに向かってこう語ったという。
曰(いわ)く、連続30年以上の高度成長を続けてきたわが国の経済は今、長期的な「緊縮期」に入ろうとしている。国有大企業は今後、「3年から5年間の厳冬期」に備えなければならない、という。
おそらく国有企業だけでなく、中国経済全体がこれから「厳冬期」を迎えることになるだろう。ただしそれは果たして「3年から5年」の短期間で終わるものであるかどうか、それこそ問題なのである。
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【プロフィル】石平
せき・へい 1962年中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『謀略家たちの中国』など著書多数。平成19年、日本国籍を取得。