家庭教育支援条例の混乱を正す。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 









【解答乱麻】明星大教授・高橋史朗






大阪維新の会の家庭教育支援条例をめぐる混乱について3点述べたい。

 まず第1点は、条例案の「乳幼児期の愛着形成の不足が軽度発達障害やそれに似た症状を誘発する大きな要因」と書かれた箇所のうち、「愛着形成」を「愛情不足」とほとんどのマスコミが誤報し、この文言が一人歩きしたために反発を招いたということである。

 乳幼児が不安や恐怖に陥ったときに求められる「愛着形成」は、対人関係能力と自己制御能力の土台であり、この形成に決定的な問題が生じたとき、セロトニン系の神経機能不全を引き起こすことは広く知られている。

 また、医療の立場で育てる「療育」の観点からも、2次障害を防ぐための「愛着形成」の重要性が指摘されている。

 親にどんなに愛情があっても、愛着を形成するための具体的なかかわり方がわからなければ、愛情は伝わらない。その意味で「愛着形成の不足」と「愛情不足」は意味が異なり、これを混同したことが混乱の一因といえる。

 第2点は、先天的な器質障害と環境要因が関与する後天的な2次障害を混同したことである。「乳幼児期の愛着形成の不足」が先天的な器質障害の「大きな要因」ではないから、この点で条例案は不適切である。

 しかし、環境要因が2次障害に関与していることは明らかであり、社団法人日本発達障害福祉連盟が一昨年、発達障害の臨床にかかわる医師へのアンケート(回答1031人)と20人への面接調査を主体に医師の意見を求めたところ、ゲーム・インターネットの普及、家庭の教育力の低下など、成育環境や胎内環境などの変化を発達障害の増加要因とする意見も少なくなかったことが明らかになっている(同連盟編『発達障害白書2012版』日本文化科学社)。

浜松医科大学の杉山登志郎教授は「素因のレベル」と「障害のレベル」を分ける必要があるとして、前者を「発達凸凹」、後者を「発達障害」と呼び、発達凸凹プラス適応障害イコール発達障害、と定義づけている。このような「発達障害」の定義について共通理解を図る必要がある。

 発達障害をどう捉えるかという共通理解の欠如が今回の混乱の背景にある問題であり、愛着形成は「発達凸凹」の「素因」ではなく、後天的な「発達障害」の「誘因」といえる。

 杉山教授が「発達凸凹」という呼び方をするのは、凸凹は発達の個人差であって「マイナスとはかぎらない」からである。子供を正常か異常かで二分し、発達障害児は異常と捉えるのは根本的な誤りである。

 第3点は、子供は発達段階に応じて親から保護される権利があり、教育基本法第10条は、「父母その他の保護者は……心身の調和のとれた発達を図るよう努めるものとする」と明記している。そもそも家庭教育支援条例はこの教育基本法の趣旨を具体化するためのものであり、子供の「発達を保障」し、「親育ち」を支援するためのものであることを見落としてはならない。

 何よりも大切なのは親の「心のゆとり」であり、そのための総合的な環境整備が必要なことは言うまでもない。先天的な器質障害は「完治」できないが、社会に適応できる程度に症状を「改善」できる可能性はあるので、「発達凸凹」の早期発見、親支援、家族支援のシステムと人材育成を全国に広げる必要がある。

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【プロフィル】高橋史朗

 たかはし・しろう 埼玉県教育委員長など歴任。明星大学教育学部教授、一般財団法人「親学推進協会」理事長。