【消えた偉人・物語】
修身教科書 子供には明るく力強い夢を。
自分の家や家族や身内や祖先について悪く言われれば心中穏やかではいられない。また、誰しも身内や一族については誇りを持ちたい。そういう考え方が、将来を担う子供や若者には大きな自信とも、励みともなるからである。このような思いは、母校に対しても、国家に対しても相通ずるものだ。家族愛、愛校心、郷土愛、そして愛国心なども、それぞれ根は一つと考えてよい。
昭和19年刊『ヨイコドモ・下』は二年生の修身教科書である。同16年版は色刷りであったが、戦局唯ならぬ事態を映して黒刷りになり、紙も質が落ちている。だが、内容は力強い。
《十九 日本の國 明カルイ タノシイ 春ガ 来マシタ。日本ハ、春 夏 秋 冬ノ ナガメノ 美シイ 國 デス。山ヤ 川ヤ。 海ノ キレイナ 國 デス。コノ ヨイ 國ニ、私タチハ 生マレマシタ。オトウサンモ、オカアサンモ、コノ 國ニ、オ生マレニ ナリマシタ。オヂイサンモ、オバアサンモ、コノ 國ニ オ生マレニ ナリマシタ。
日本 ヨイ 國、
キヨイ 國。
世界ニ 一ツノ
神ノ 國。
日本 ヨイ 國、
強イ 國。
世界に カガヤク
エライ 國。》
どんな印象、どんな感想を読者諸賢は持たれるだろうか。既に本土空襲が始まり、空襲警報もしばしば発令され、防空頭巾を常に持ちながら、私は、この文章を教室で習った記憶がある。国民学校二年生の時だ。
背筋を伸ばして、大きな声で、みんなで声をそろえて読んだ。読みながら、身体に力が湧いてくるような高揚した気分になったことを思い出す。
結果としては敗戦を迎えたが、私は子供心にもこの文章を好ましく思った。子供には、明るく力強い夢を持たせて育てたいものだ。
(植草学園大学教授 野口芳宏)
戦前の修身教科書では子供たちが日本の国に生まれてよかったと思えるような記述が多い。