日本の絆は色あせたのか。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 









【解答乱麻】明星大教授・高橋史朗






東日本大震災から1年を迎え各地で追悼式典が開催された。復興のために出動した自衛官・消防士・警察官等は延べ1千万人を超える。ボランティアを含め、これらの公のために尽力された人々に改めて心から感謝したい。

 ゼミ合宿で交流した台湾の大学から東日本大震災に寄せた和歌集が送られてきたが、高さ12メートルの津波が到達するまで、防災無線で避難を呼びかけ続けて亡くなった女性や原発に身を顧みず立ち向かった男性を思う歌が目立った。

  

○ 荒れ狂ふ津波に退避報道す大和女の勲雄々しき

○ 大津波「退避」を叫ぶ報道の大和をみなに妻涙ぐむ

○ 福島の身を顧みず原発に去りし技師には妻もあるらん

○ 原子炉の修理に赴く男の子らの「後を頼む」に涙止まらず

○ 核廠を自己の命も惜しみ無く守り続ける日本精神

○ 原発にいざ立ち向かう武士たちよどうかご無事に生きて下され

  

 台湾大地震の際に世界最大規模の緊急救助隊を派遣した日本の恩義を台湾は忘れない、と李登輝元総統は『文芸春秋』昨年5月号に書いた。震災で台湾からは200億円を超える義援金が寄せられた。にもかかわらず、政府主催の一周年追悼式典で台湾代表を指名献花から外す暴挙が行われた。「日本精神」をたたえた台湾の人々はどう受けとめただろうか。

日本は古来、外圧による国家的危機や大地震等の天災からみごとな復興を遂げてきた。その根底にあった精神とは一体何か。為政者や他人に責任を転嫁せず、自らを省みて自分が変わることによって世直し、復興を目指してきた。

 石原慎太郎東京都知事は今回の震災について「死んだ親の年金を搾取した人間がいるような社会になったことへの天罰」と指摘した。「天罰」という表現だけを取り上げて、メディアは非難したが、被災者が悪いから天罰が下ったという意味でなく、今日の日本の在り方に天が警鐘を与えたという意味であることは明白だ。

 米紙ワシントン・ポストは今月、自治体ががれきの受け入れを拒否している問題に触れ「日本の絆は色あせた」と警鐘をならした。「絆のある社会」とは育児や介護から解放される社会ではない。家族の絆を深める「自助」を基盤として、地域の絆を深める「共助」、国や地方自治体の「公助」の3本柱で成り立つ社会であろう。

 「絆は色あせた」と言われながらも心強い思いがした出来事もあった。私がかかわる沖縄県の八重山青年会議所が子が親を思う「親守詩(うた)」を募集したところ千を超える大量の作品が集まったことだった。八重山といえば、子供の教科書採択をめぐって石垣市、与那国町と竹富町が対立した場所で率直にうれしかった。

少子高齢化の危機を乗り越えるためには、親子の情と異なる世代にも思いやりなどが必要だ。他人のせいにせず、自分が変わり、日本を危機から再生させてきた、わが国の精神的伝統を蘇(よみがえ)らせ「色あせた」家族と地域の絆を再生し、日本の心を親子の心に取り戻す子守唄と親守詩を全国に広げたい。

                  ◇

【プロフィル】高橋史朗

 たかはし・しろう 埼玉県教育委員長など歴任。明星大大学院教育学専攻主任、一般財団法人「親学推進協会」理事長。