ホルムズ海峡封鎖問題。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 









【環球異見】





イランの核問題をめぐって欧米諸国が制裁の動きを強める中、イランが原油輸送の大動脈であるホルムズ海峡封鎖の可能性に言及した。イランの核科学者が何者かに爆殺される事件も起き、緊張が高まっているが、世界の原油供給を混乱させることは過去のイラクの例からも「致命的なミス」(汎アラブ紙)であり、海峡封鎖に踏み切ればイランは手痛い報復を受けるとの見方が支配的だ。

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 ▼ウォールストリート・ジャーナル(米国)

 ■海軍力から封鎖は困難

 4日付の米紙ウォールストリート・ジャーナルは、現役の米海軍大佐と安全保障の専門家が共同で寄せた記事を掲載し、イランの海軍力を考慮すれば、ホルムズ海峡の封鎖は困難と指摘した。海峡封鎖は「水を飲むくらいに簡単」と豪語したイラン海軍高官の言葉を引き合いに「実際にはバケツの水の一気飲み」に等しいと切り捨てている。

 記事の執筆者はブラドリー・ラッセル大佐と米シンクタンク、外交問題評議会のマックス・ブート上級研究員。

 2人はイランが過去にもホルムズ海峡の封鎖を策謀しながら「惨めな失敗」に終わってきたと指摘。

 イラン・イラク戦争中の1988年4月には、米ミサイルフリゲート艦が、イラン側が仕掛けた機雷に接触して損傷。米軍は報復として6隻の艦船を投入し、2カ所の原油採掘施設を攻撃、イランの高速艇少なくとも3隻を撃沈している。

 記事は、その後にイランが新型対艦巡航ミサイルを導入するなど、戦力を増強しているとはいえ、とても「米国や域内の同盟国にはかなわない」と分析する。

 米海軍は空母2隻をアラビア海周辺に展開済みで、攻撃ヘリなどを艦載した強襲揚陸艦も派遣可能。バーレーンなどに航空基地があり、米国や同盟国はイラン海軍を「圧倒的な兵力で破壊できる」と指摘した。

 戦力的に劣勢のイランは機雷や小型高速艇、小型潜水艦、対艦巡航ミサイルを使った非対称戦を挑んでくる可能性が高いが、「比較的短期」での鎮圧が可能との見方を崩さない。

 何より、海峡封鎖に乗り出せば「核兵器計画という最も価値ある財産が米国の報復対象になるリスクを負う」と、核施設攻撃の可能性が高まれば、イランは威嚇行動を慎むだろうと予測している。

(ワシントン 犬塚陽介)

▼アルハヤート(汎アラブ紙)

 ■イラクと同じ失敗の道?

 汎アラブ紙アルハヤートは12日付の解説記事で、ホルムズ海峡封鎖をちらつかせるイランのアフマディネジャド政権は、1991年の湾岸戦争で多国籍軍に敗れたイラクと同じ失敗をしようとしている、と論じた。

 同記事は、90年にクウェートに侵攻したイラクのフセイン政権(当時)には、崩壊に向かっていたソ連の影響力低下に伴い、中東での勢力を伸ばしたいとの意図があった、と分析する。

 その上で、現在ではイランが、「イラクやアフガニスタンからの米軍撤退で生じる湾岸地域での『(力の)空白』を埋められると信じている」と指摘、ホルムズ海峡を封鎖するなどとしているのは、「域内で超大国として振る舞おう」との野心の表れだと断じる。

 また記事は、当時のフセイン政権は、クウェートの主権を侵害しただけでなく、原油供給を混乱させて世界の経済・安全保障を脅かすという「致命的なミス」を犯し、アラブ諸国を含む国際社会からの強力な反撃を受けた-と強調。

 イランが、世界で最も重要な原油供給ルートであるホルムズ海峡を封鎖すれば、国際社会から同様の反応を引き起こすことになるだろうと予測している。

 さらに、イランが今月、首都テヘラン南方のコム郊外フォルドゥの地下に建設されたウラン濃縮施設を稼働させるなど、核問題で非妥協的な姿勢を強めていることは、対イラン制裁に慎重なロシアにさえも懸念を与えている、という。

 一方、9日付の同紙は、仮に同海峡が封鎖され米国などが軍事行動に出た場合、イランは「湾岸産油国を不安定化させるための工作を強化するだろう」との専門家の見解を紹介。このため「湾岸地域ではどの国も戦争を望んでいない」のが本音だと分析している。

(カイロ 大内清)



 ▼デーリー・テレグラフ(英国)

 ■宣戦布告なき戦争が過熱

 イランの核開発をめぐる欧米とイランのつばぜり合いが激しさを増す中、テヘランでイランの核科学者が爆殺された。英紙デーリー・テレグラフは12日付の社説で「宣戦布告なき対イラン戦争がヒートアップしている」とイランの核開発を遅らせる欧米側の秘密工作だとの見方を示した。

 国際原子力機関(IAEA)は昨年11月、イランが核兵器開発に向けさまざまな実験を行ってきたとみられると指摘、こうした活動は「核兵器開発に特有のものだ」と結論づけた。背景には、イランの核開発がこの1年内に核兵器製造を開始できる段階に到達するとの危機感がある。

 イランの核兵器保有を認めるか、それともあらゆる手段を使って阻止するか。

 決断を迫られた米英はイランの原油取引を決済するイラン中央銀行への制裁を発動、米国に続いて欧州連合(EU)もイラン産原油の禁輸に踏み切る方針だ。

 これに対し、イランがホルムズ海峡の封鎖をちらつかせ、外交上の駆け引きがエスカレートする中で起きたのが核科学者爆殺だ。

 社説は「2007年から暗殺されたイランの科学者はこれで5人目だ。1人は弾道ミサイル開発の責任者だった」と指摘。イランの核開発施設のコンピューターシステムにウイルスが侵入して深刻な損害が与えられたことや、2つのイラン軍基地で起きた爆発など、一連の出来事が無関係に起きることはあり得ないと断言する。

 その上で、「秘密工作に誰が関与し、正当なのかという問題はあるが、イランの核開発を遅らせる最も有効な手段に見える。欧米側がイランとの軍事衝突を避けたいのなら極端な手法が求められることもある」とし、イランがウラン濃縮活動を止めない限り秘密工作は活発化するだろうと予測する。

(ロンドン 木村正人)