イランのホルムズ海峡封鎖。
【ワシントン=犬塚陽介】
オバマ米政権がイランへの圧力を強めている。パネッタ国防長官は8日に放映されたCBSテレビの番組で、原油輸送の主要路ホルムズ海峡の封鎖は「越えてはならない一線だ」と警告し、軍事行動も辞さない姿勢を強調した。
圧倒的な軍事力の差に加え、自国経済にも打撃を与えかねない海峡封鎖にイランが乗り出す可能性は低いとの見方が米国では主流だ。しかし、不測の事態が原油高騰を招き、世界経済を大混乱させる“悪夢のシナリオ”への警戒感もあり、慎重な対応を迫られている。
パネッタ長官は過去にも「海峡封鎖を容認しないことを明確にしてきた」と述べ、イランが実力行使に出れば「われわれは、それに応じて対処する」と軍事行動も排除しなかった。
同席したデンプシー統合参謀本部議長も「イランは海峡を封鎖できるように投資してきている」と述べ、イランによる一時的な封鎖は可能との見方を示した。
ホルムズ海峡は世界の原油の3割が通過する大動脈。最も狭い場所で幅は約34キロで、毎日数十隻のタンカーが航行している。
米軍事専門家によると、イランが海峡封鎖に踏み切る場合、対艦ミサイル装備の艦艇の出動や、洋上への機雷投下などが想定されている。イランが保有しているとされるロシア製の潜水艦2~3隻が投入される可能性もあるという。
ただ、イランの艦艇はいずれも小型。狭い海峡で艦艇が船団を組み、大型タンカーの航行を長期間封じ込める能力はないとの見方が多い。
また、海峡封鎖が続けば、イランが国家収入の7割を依存する自国の原油輸送にも影響が出るのは確実で、経済制裁の影響にあえぐ自らの首を絞めることにもなる。
一方で、ジョージ・ワシントン大のケイトリン・タルマッジ教授はロイター通信に対し、「武力による脅しは原油価格を押し上げ、イランには好都合となる」と指摘し、緊張状態を継続させることこそイランの狙いではないかと見る。
米国はアラビア海周辺に最大で空母3隻の展開が可能で、バーレーンなどにも航空基地を保有している。海峡封鎖は実力で阻止する構えだが、経済面への影響を考慮し、当面は外交や経済圧力でイランの譲歩を引き出す意向を示している。