【主張】北朝鮮の漂流船 乗員移送は早計にすぎる。
島根県・隠岐島近海で見つかった北朝鮮の漂流船の乗組員3人が中国へ移送された。3人が北朝鮮への帰国を希望し、日朝間の非公式協議で、人道的見地から速やかに帰国手続きを取ることで合意したためとされる。
だが、6日の発見から4日目の移送はあまりにも早計である。
3人は海上保安庁の調べに対し「北朝鮮から出航し、漁の途中で漂流した」と説明しているが、船内から漁具は見つかっていない。冬の日本海はしけが激しく、今回見つかったような小型木造船で出漁することは、自殺行為に等しいともいわれる。
船内にGPS(衛星利用測位システム)が搭載され、密航や違法行為を伴う「偽装漂流」だった可能性も否定できない。「工作員でないか徹底的に調査が必要だ」とする専門家の指摘もある。
3人の氏名や出身地を含め、出航目的などをもっと詳しく聞きただすべきだった。それが主権国家として当然なすべきことである。その上で帰国の可否を判断しても、人道的見地に反しない。
昨年9月、石川県沖で保護された脱北者9人は韓国行きを希望したが、日本側は韓国への移送前に20日間以上、事情聴取を行った。これに比べても、今回の移送は早すぎる判断だ。
仮に、3人の説明が事実としても、北の住民が遭難で日本の領海に漂着した初めての例だ。北の権力移行期でもあり、外交手続きは慎重の上にも慎重を期すべきだった。今後の日朝関係に禍根を残しかねない対応といえる。
今回とケースは異なるが、平成13年5月、金正日総書記の長男、金正男氏が成田空港で入国管理法違反容疑で入管当局に身柄を拘束された。金正男氏は十分な調べを受けないまま、北京に移送されたが、当時の田中真紀子外相の判断とされた。
まるで“厄介者”を早く国外へ出し、トラブルを避けようとするような安易な外交姿勢は当時と変わらない。野田佳彦政権は、このような事なかれ主義外交で北との関係改善を探ろうというのか。
北は金正日体制から金正恩体制への権力移行期にある。食糧事情の悪化が伝えられ、脱北難民や難民を装った工作活動が増える可能性もある。海保と海上自衛隊などの連携による領海警備の強化がますます必要である。