中山成彬オフィシャルブログ・立て直そう日本~この国を守る覚悟を~ より。
ユーロを巡って、EUの激震が続いている。EUが決めたギリシャ支援策について、国民投票に付すといって国内外の批判を受けたパパンドレウ首相だったが、辞任を表明することで、与野党連立政権を樹立して承認手続きをすることとなった。
一安心する間もなく、市場参加者の関心はギリシャからイタリアに移り、ベルルスコーニ首相の求心力が急速に低下し、辞任表明に至った。
10年前、ギリシャはユーロに参加し一時的に受益があり、国民は歓迎した。ギリシャのみならず、東欧までEU参加、ユーロ加盟の波は大きくなっている一方で、財政の弱い国から政治、経済の混迷が続き不安が連鎖している。これは、日本にとっても決して対岸の火事ではないと肝に銘ずるべきである。
長年に亘る仏独の対立を乗り越えて、欧州共同体という一つ屋根の下で平和と繁栄を築こうというのがEUの出発であった。
しかし、通貨主権を共有しながら各国が財政主権を保持するという、ちぐはぐな結合がこのような結果を招いている。質実剛健のゲルマン民族と享楽的なラテン民族の違いというか、気候温暖な地中海沿岸のスペイン、ポルトガル、イタリア、ギリシャ等と気候の厳しい中北欧諸国では国民の気質が違う。堅実なドイツ民族は強いとつくづく思う。
だが、これまで共通通貨ユーロの下で、輸出が好調で潤ってきたドイツ国民も、自分達の税金が際限なく南欧に持っていかれるとなるとさすがに不満が高まっているようだ。財政主権、金融主権が別で、もとより国家主権が別々で簡単に共同体を運営できると思う方がおかしい。特に政治はどこの国も最近ますますポピュリズムに左右されやすくなっている。ユーロ圏は今後とも空中分解の危険性をはらみながらガタガタが続くであろう。
イタリアは、IMFの監視下に入ったが、国の債務がGDPの120%を超えているという事で、国債の信認が薄れ、国債利回りは7%を越えている。今後、採られるであろう緊縮財政は、国民に負担をかけ不人気のもとになる。公務員天国、脱税天国といわれる国がその苦難に耐えられるか。1997年、アジアの金融危機の中で韓国はIMFの監視下に入り、国民は団結して立ち直ったが、その間、外資に企業が買い叩かれた。今、ウオン安で輸出が好調で景気が良いように見えるが、配当という形で利益が海外へ流出し、労働者や国民の生活は必ずしも良くなっていないといわれる。
翻ってわが国は、国の負債がGDPの200%に達し、イタリアの比ではない。しかし、国債が国内で殆ど消化されていることもあり、今のところ金利の上昇も起きず、消去法で逆に円買いが続き円高が固定している。まるで、緊急の避難先に使われている観がある。その間に日本の輸出産業は深刻な影響を受けている。企業の海外移転が進んだ後、円安になったら、仕事はなくなり、物価は高くなり、国民生活は苦しいものとなるだろう。
しかし、日本の低金利もいつまでも続くはずがない。今は、資金の民間需要が弱く、余剰資金が国債に廻っているが、このまま景気低迷が続き、資金需要が高まらないという保証はないし、それでは困る。今後段々とクラウディングアウトが強まり国債発行も厳しくなるだろう。残された時間はそんなにない。
民主党が来年の通常国会に「消費税増税方法案」を提出するという。確かに消費税5パーセントというのは、20パーセント前後の諸外国に比べれば圧倒的に低い。しかし、永年のデフレ不況に苦しみ、東日本大震災、福島原発事故の追い打ちを受けている日本経済に増税は心理的にも大きな負担を課すことになろう。増税前に私が以前から主張するような政策を打たなければならない。
円高は、介入によっては解決されない。通貨供給量の増大によって解決するしかないと考える。リーマンショック後、各国とも通貨供給量の増加によって景気回復を図ってきた。日本だけがきまじめな日銀がインフラを恐れ、通貨供給量の一段の増加に踏み切れないでいる。確かに円高は「円」の価値が高まることであり、日銀にとっては自分の役割を果していることであり、喜ばしい事であろう。しかし円が高くなって日本経済が衰退してしまえば本末転倒だ。
財政と金融の分離が声高に叫ばれ、大蔵省は財務省と金融庁に分離された。私の大蔵省同期の武藤敏郎氏(元財務省事務次官)は、財政と金融の両方を経験しているからという理由で、当時の野党民主党の反対で日銀総裁になれなかった。全く反対ではないか。財政政策と金融政策の双方を経験し、国際経済、国際政治にも造詣の深い人こそ日銀総裁に相応しいのにと歯がゆい思いがした。
財政と金融の一体的な運営がこれからますます重要になってくる。財政主権と金融主権の分離したEUの混乱を見て、ますますその感を強くする。