5つのリビア対策。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 








【朝鮮半島ウオッチ】

金正日総書記が陣頭指揮した中味。





カダフィ大佐死亡によるリビア政変で、年初からの「アラブの春」は第2ラウンドに入った。中東の動きに神経をとがらせてきた北朝鮮だが、実は金正日総書記自らが「リビア対策5項目指令」を発していたことがわかった。対策では何とか情報統制で乗り切ろうとの北朝鮮の姿が浮き彫りになる。しかし、情報を遮断しても北朝鮮には重大な課題が残る。リビアに続くシリア、イエメン…いずれも北朝鮮にとって貴重な武器輸出国。中東の民主化は、金総書記の金庫を直撃する可能性が高い。

(久保田るり子)


「チャウシェスクのときは、うまくいった」


 2月中旬の内戦勃発前の時点でリビアには建設労働者、看護婦など約200人の北朝鮮籍の人々がいた。

 情報筋によると、朝鮮労働党は2月末までに「労働者を帰国させない」との方針を決めたという。1月のチュニジアに始まった中東の動向に北朝鮮は「全神経を高め」(同筋)、現在も金総書記の指示で朝鮮労働党が全党を挙げた情報統制を行っているという。

 リビア対策の5項目は(1)当該国との国際電話の禁止(2)北朝鮮との往来禁止(3)北朝鮮国内の思想教育強化(4)中朝国境を出入りする脱北者の拘束強化(5)国家安全保衛部(秘密警察)による住民管理の強化-である。

豆満江、鴨緑江沿いの1300キロに及ぶ中朝国境地帯では、中国側から北朝鮮の内陸約5キロの地域まで、中国製や韓国製の携帯電話の国際ローミング電波が届く。国境付近の北朝鮮側の都市、新義州や江界、南陽などでは、国境を往来している脱北者が持ち込んだ携帯電話での通話が可能。現在、北朝鮮内には約5000台が持ち込まれていると推定されている。

 これら携帯電話は、普段は脱北者の親族探しなどの連絡に使われてきたが、最近は西側情報を得るためのツール(手段)となってきた。

 保衛部による住民管理では、国境都市の取り締まりに加え、韓国のテレビが入る東西海岸線の咸鏡、元山や平壌でも摘発が行われているもようだ。

 「北朝鮮はルーマニア革命(1989年)のチャウシェスク大統領処刑のときは情報統制をうまくやったが、今度は時代が違う」として、情報筋は北朝鮮内部の動向に複数国が調査を行っていることを示唆した。

 脱北者、携帯電話、テレビ、韓国からバラまかれる数万枚のビラ…。金総書記の命じた水際作戦がいつまで持つのか。判断には時間がかかりそうだ。


中東民主化で危機を迎えた「北朝鮮の武器輸出ルート」と金総書記の「統治資金」


 「アラブの春」の次の焦点はシリアだ。3月に始まった反政府デモはアサド政権の徹底弾圧にもめげずに7カ月間以上続いており、死者は3000人を超えたとされる。イスラエル、レバノン、イラクに囲まれた地政学的な重要性などから、国際社会はシリアに対する軍事介入には慎重。流血の事態の長期化が必至だ。イエメンもカダフィ大佐死後、反政府デモが激化、弾圧強化のなかにある。

第2局面とされるシリア、イエメンは北朝鮮にとって武器輸出の貴重な相手国である。アサド政権、サレハ政権の崩壊や混乱は金正日政権にとって手痛い経済的な損失となる。

 金総書記は9月10日、シリアのアサド大統領に誕生日に祝電を贈った。シリアの反政府デモについても北朝鮮は非難してきた。北朝鮮にとってシリアは、数少ない核・ミサイルの技術輸出相手国のひとつで、2007年にイスラエルが奇襲空爆したシリアの施設は北朝鮮が技術提供した核施設の可能性が高い。北朝鮮の技術でシリア国内にミサイル基地建設が行われているとの情報もある。

 北朝鮮とイエメンの関係はさらに古く、1960年代から北朝鮮はイエメンの民族解放戦線(NLF)との関係を持ってきた。78年には軍事協定、90年代にはミサイル引き渡し協定を締結、特殊部隊の教官を派遣して武器弾薬の使用法から特殊要員の教育も行ったとされ、70年代後半からは米国が北朝鮮のイエメン支援について調査を開始しているほどだ。

 カダフィ大佐死亡によるリビア崩壊も同様で、カダフィ大佐が核開発放棄宣言(2003年)を行ったあとも、北朝鮮はリビアとの関係を続けた最大の理由は武器輸出だった。

 北朝鮮はリビアに長年、弾道ミサイル「スカッドB」(射程約300キロ)「スカッドC」(同500キロ)「ノドン1号」(同1300キロ)の輸出や開発技術提供を行ってきた。核放棄を契機にリビアは射程300キロ以上のミサイル破棄を宣言したが、リビア・北朝鮮の軍事協力関係は続き、政府高官の往来も行われてきた。それだけにリビアがカダフィ大佐死亡で新国家へ生まれ変わる「政変」は北朝鮮との断絶も意味している。

 「アラブの春」は遠い北東アジアの独裁国家に、じんわりと確実に影響を及ぼし始めている。