どうする島嶼の安全保障体制。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 





【40×40】山田吉彦

http://sankei.jp.msn.com/economy/news/111027/fnc11102708170002-n1.htm





 環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)へ参加問題が市中をにぎわしている。限定された情報のみで論争が繰り返され、結論が見えてこない。貿易の自由化は将来的に避けては通れない課題であると考えるが、TPPの問題は、もっと国家の根幹に関わる事項を多く含んでいる。外国人労働者の流入、医療サービスの混乱、検疫制度の低下など国民の生活を脅かす可能性が強いものが山積しているのだ。

 

 貿易の自由化に絞ったとしても現行の農業制度が崩壊するだけの影響では済まない。TPP交渉への安易な参加は、国家の安全保障体制を脅かす可能性がある。民主党の前原誠司政調会長がいうように日米安保体制を維持するためにTPPへの参加は不可欠だという考え方もあろう。しかしわが国の自主的な安全保障体制が崩壊したのでは話にならない。

 

 危惧しているのは、離島社会への打撃である。奄美大島以南の南西諸島の経済は農業に依存しており、主要な産品は、米、さとうきび、肉牛、豚である。いずれの作物もTPP参加後は、外国産との競争により壊滅的な被害を受けることになる。大東諸島や八重山諸島では、急速に過疎化が進行し無人島になる島も出ることだろう。日本最西端の与那国島、日本人が居住する最南端の波照間島なども島の経済が立ち行かなくなることは明白だ。無人島化した場合、突如、隣国が領有権を主張しないともかぎらない。また、上陸し占領する恐れさえある。第2、第3の尖閣諸島が生まれることが危惧される。現在、南シナ海で行われている中国の島嶼(とうしょ)戦略を見れば明らかなことだ。さらに検疫の弱体化は、生態系に影響を与えかねない。


 島嶼の安全保障体制の根幹は、日本人が定住できる環境を構築することである。それには、補助金のばらまきではなく、特定産業、産品に依存する社会体制を変革する必要がある。TPP参加の議論を機に、島嶼政策をはじめ国家のアイデンティティーを脅かす問題をクローズアップし、その具体的な対応策を確立することが必要である。

                                    (東海大教授)