【主張】米国防長官訪日
野田佳彦首相は来日したパネッタ米国防長官との会談で米軍普天間飛行場移設を速やかに進めることで一致した。また一川保夫防衛相、玄葉光一郎外相も沖縄県名護市辺野古の環境影響評価書を「年内に県へ提出する」と長官に約束した。
パネッタ長官は「移設を進めることが重要だ」と日本側の方針を評価したが、評価書提出は行政手続きの手始めにすぎない。米議会では普天間移設と連動する海兵隊のグアム移転経費が全額削除されかねない局面にあり、日本の対応次第で地元負担軽減も抑止力の維持・強化も失われる瀬戸際にある。
日米同盟の空洞化を食い止めるために、首相はあらゆる努力を行ってほしい。
自民党政権下の2006年に日米が合意した米軍再編計画では、普天間移設と並行して海兵隊9千人と家族8千人をグアムへ移転する。加えて嘉手納以南の米軍基地も一括返還することで県民の基地負担を大幅に軽減し、日米の抑止力も維持・強化することを同時に果たすことをめざしてきた。
民主党政権も昨年5月、結果的に現行合意に戻った。ところがこの間に米議会で歳出削減圧力が高まり、上院では再編計画そのものの見直しを求める声もある。
とりわけグアム移転費は年内にも結論が出る見通しだ。何としても普天間で目に見える進展が必要とされるのはこのためだ。
米側の事情とはいえ、元はといえば鳩山由紀夫元首相らが「県外移設」を掲げて問題を迷走させ、県民感情を悪化させたことが原因だ。その責任は極めて重い。
認識すべきは、普天間移設、海兵隊グアム移転、嘉手納以南の返還が一体化したパッケージ合意で「すべてを得るか、すべてを捨てるか」の選択しかないことだ。
過去2年間に尖閣諸島など日本近海への中国の進出や北の核・ミサイルの脅威が進み、日本の安全保障環境は一段と悪化した。移設を遅らせる余裕はなく、むしろ加速しなければならない状況だ。
首相はこれらの内外の事情を国民に明確かつ丁寧に説明し、誠意をもって仲井真弘多県知事らの説得を重ねていく必要がある。
失敗すれば、普天間基地の固定化だけでなく、同盟の抑止能力が損なわれ、地元負担軽減の最大の好機も逸する結果となる。首相の不退転の決意が問われている。