(3)統合に関する諸計画策定及び教育
ア 統合に関する諸計画
統合に関する諸計画として統合長期防衛戦略、統合中期防衛構想等がある。
統合長期防衛戦略は、作成年度の4年後の年度以降の概ね15年間を対象とし、我が国の安全保障に及ぼす影響を明らかにする観点から内外の諸情勢を見積り、これに対する防衛戦略を考察するとともに、統合運用による円滑な任務遂行を図る見地から当該防衛戦略上必要な防衛力の質的方向を明らかにし、防衛大綱の策定、統合中期防衛構想の作成等に資することを目的とし、統幕が作成する。
統合中期防衛構想は、作成年度の2年後の年度以降5年間を対象とし、統合長期防衛戦略を参考として、内外の諸情勢を踏まえて我が国に対する脅威を分析して、これに対する防衛構想、防衛の態勢及び統合運用による円滑な任務遂行を図る見地からの各自衛隊の体制に関する基本構想について検討するとともに、対象期間内における防衛力整備上重視すべき事項を明らかにし、中期計画の策定、陸海空自衛隊中期能力見積り、統合中期能力見積りの作成等に資することを目的とし、統幕が作成する。また、統幕長は、中期計画を踏まえて、防衛力の整備、維持等に係る事項の年度の達成の目標及び方途を明らかにし、統合中期防衛構想を参考にして予算の見積り及び執行の基礎とする年度業務計画の各幕での作成に際し、部隊等の運用の円滑化を図る観点から重視すべき事項を通知できる。
また、統合中期防衛構想は、武力攻撃事態や治安維持上重大な事態が生起した際に自衛隊が対処する場合における基本的事項等を定めた防衛、警備等に関する計画を参考にするものであり、その防衛、警備等に関する計画は、年度業務計画の実施により整備、維持等される防衛力を参考にして定められる。
この様に、統幕が作成する防衛戦略・構想と各幕の防衛力整備、また、武力攻撃事態等における統合運用(防衛、警備等に関する計画)との関連を保持し、その一貫性を追求できる枠組みになっている。
イ 統合に関する教育
統合教育は、統合運用に関する知識を習得させることを目的に行っている教育で、統幕及び陸・海・空自衛隊が各学校での幹部等に対する課程教育で実施している。
具体的には、概ね2佐までの間は、各自衛隊の各課程教育において教育され、1佐以上は、統幕長の監督下にある統幕学校で教育されている。統幕学校では、これらの各自衛隊の統合教育の集大成として、各自衛隊の幹部学校の幹部高級課程に引き続き統合高級課程で、防衛研究所の一般課程選考者に対して統合短期課程で統合教育を実施している。また、統合運用体制移行前のこれら高級課程の修了者に対して特別課程として、これらの課程とは別に統合教育を実施している。
統幕長は、統合教育基準として、教育課目、教育時間等の基準を設定し、統幕学校及び各自衛隊の学校で実施される統合教育の一貫性・効率性を確保している。
3 統合の課題と方向性
(1)統合マインド醸成の現状と将来方向
前述した統合教育・訓練の効果、何より東日本大震災対処を始め、国内外で各種行動(統合運用)が自衛隊に求められている現状において、統合運用の実効性は確実に向上しているところであるが、あわせて統合運用の基礎となる統合マインドも各級レベルにおいて、着実に醸成されている。もちろん、現時点で完全な形に達しているものではなく、実際、米軍でさえ、統合運用を制度化させたゴールドウォーター・ニコルズ法が1986年に制定された後、4半世紀を経ても統合運用が十分機能しているとは認識しておらず、ワシントンD.C.の統合参謀本部の幕僚達は口を揃えて「統合(Jointness)は発展途上にある。」と断言している状況にある。しかしながら、自衛隊の全ての行動、諸活動の遂行においては、「統合運用」が前提であり、そのため、統合マインドの必要性・重要性を疑う余地はない。その醸成に定型化・制度化されたものはないがそのための個人としての努力の最初の一歩は、先ず自らの軍種を熟知する、しっかり学ぶことであり、その努力が必然的に統合マインドを醸成することになると言える。
(2)統幕の在り方
東日本大震災対処でも述べたが、多様で複雑かつ重層的なものに変化したわが国を取り巻く安全保障環境を踏まえ、政府機関と密接に連携し、複合事態にも実効性ある対処、つまり、大臣補佐機能及び自衛隊運用機能(統合司令部的機能)の両方の発揮が必要である。このため、統幕の体制・態勢強化は緊要不可欠である。
大臣補佐機能は即ち政治補佐機能であり、将来創設されるであろう日本版NSCとの関係を充分に検討する必要があろう。また、統幕のもう一つの役割である統合司令部機能の万全を期すために、全自衛隊の統合運用を主宰する常設の統合司令部の設置を検討しなければならないと思料する。
(3)統合任務部隊の在り方
統合任務部隊が全ての自衛隊の行動において編成されるものではないが、少なくともその有効性は、今回の東日本大震災対処で証明された。今後は、統合任務部隊の指揮官となることが予想される主要部隊指揮官を指定するとともに、事態の規模、影響度等に応じて運用形態が決定、運用されることになる。
統合任務部隊を編成する場合は、大規模震災対処時等の地域別の統合任務部隊や、弾道ミサイル等対処時等の機能別の統合任務部隊が編成され運用されることになる。
有事業務量増大に伴うエキスパンドの要領や方策については今後研究する必要があろう。
(4)陸海空各MCの在り方
陸自は、海空自と異なり5コ方面隊と中央即応集団の運用を統括する機能がないことから、統合運用の推進や日米共同による対処態勢の構築を推進するため、既存の指揮組織の整理とあわせて、その機能のあり方を含め、今後検討が必要であるというよりも、創設すべきであろう。
(5)陸海空各MC間の共通の課題
陸海空MC共通、つまり自衛隊として運用上の課題として、特に問題なのは島嶼部の防衛である。島嶼部における事態対処に際しては、周辺海空域及び海上輸送路の安全確保が前提であり、平素からの配置及び事態生起時の全国からの部隊、弾薬・燃料等の補給品の迅速な展開・輸送により、事態の抑止・対処を実施することが必要である。しかし、現状は、島嶼部は平素の自衛隊配備の空白地帯であり、統合輸送等による機動展開能力(いわゆる作戦的・戦略的なパワープロジェクション能力)も限定されている。同時に、島嶼部での負傷者の生起に伴うその治療・後送も制約がある。
このため、島嶼部に必要最小限の部隊を新たに配置するとともに、部隊が活動を行う際の拠点となる基地機能の抗堪性を強化、弾薬・燃料等の確保が必要である。また、統合輸送に関しては、今回の東日本大震災対処で一定の成果を収めた統合輸送統制所による統合輸送統制の更なるあるべき姿を検討し、その範囲及び必要な機能を踏まえた統合輸送体制の在り方について今後検討が必要である。また、自衛隊で保持すべき輸送力及びその保持要領について検討するとともに、各種事態に応じて、米軍との協力、民間輸送力等の活用の枠組みについて検討するとともに、島嶼部での端末地輸送も含めた具体的な患者後送要領及び後送に必要となる治療態勢の在り方についても検討が必要である。
また、離島対処のみならず統合運用の基盤として、確実な指揮命令と迅速な情報共有を確保するための統合通信は不可欠である。しかし、東日本大震災対処においても問題が生起している様に統合運用強化のための統一的なネットワークの整備及び運用等ネットワーク管理態勢の構築、高度な知識・技能を有する人材の育成等による態勢強化等自衛隊全体として実効的かつ効率的な態勢・体制を確保するための検討が必要である。
更に、サイバー空間の安定的利用に対するリスクが新たな課題となっていることから、増大するネットワーク・システムに対するサイバー攻撃の脅威に対応するため、サイバー攻撃対処を総合的に実施するための体制強化が必要である。このため、防衛省・自衛隊の考え方(構想)を整理するとともに、専門的な人材育成、サイバー攻撃対処の中核となる組織の新設等の措置が必要であり、また、米国・軍との連携及び政府全体として行う対応への寄与も必要である。
(6)統合運用の観点からの装備品等整備の更なる促進
これまでも統合運用を前提とした3自衛隊全体の機動性を高めるため装備品等間の仕様の整合化(例えば、ひゅうが型護衛艦には陸海空自のヘリを搭載可能)や統合運用に資する装備品の共通化(例えば、陸空間の携帯地対空誘導弾や軽装甲機動車の相互運用性の向上等)を図ってきたが、類似装備品の仕様の共通化や計画的な各自衛隊間の一括調達等によるコスト削減を図っていく。例えば救難ヘリ、救急車両、端末輸送ヘリ、輸送用車両、警戒監視航空機等。
また、統合運用の基盤となる装備品等についても、各自衛隊毎の指揮システムや業務系システムが並立している状況から、システムの統合化及びネットワークの高速・大容量化を図って情報共有及び業務効率を向上させる努力を促進する必要があろう。
更には、統合運用の視点を踏まえて研究開発の評価を実施すると共に、陸海空自衛隊の一体的な運用による迅速かつ効果的な任務遂行に資する装備品の研究開発を更に推進する必要がある。現在取り組んでいる事項としては、統合運用を前提とした次期輸送機への機動戦闘車の搭載、次期輸送機と次期固定翼哨戒機の装備品の共通化や新野外通信システムや統合無線機があり、将来的には装輪戦闘車両のファミリー化や対艦誘導弾の更なるファミリー化等がある。調達や補給管理ついても装備品等の在庫情報などを統幕及び各自衛隊で共有するシステムを構築することも必要だ。
(7)新たなる「統合」を目指して
陸・海・空自の夫々の固有の色を単純に混ぜたものが統合ではあるまい。統合という新たな軍種を創設する位の努力があってこそ、統合の実を挙げることが出来る。
また、統合の程度・レベルについても、単一軍種のようにリジッドなものから、極めて緩やかな、どちらかというと協同に近いレベルのものまで、様々である。
事態に応じ、最も適切な統合の形態を選択することになるのだろう。米軍においてすら、統合は未だ発展途上であるとの認識であるが、我が国においてはその緒に就いたばかりであり、不断の努力により、日本的な新たな統合を目指すことになるであろう。