(2)統合訓練
ア 統合訓練において演練する事項と各フォースプロバイダーで演練する事項
自衛隊の行動に必要な訓練の責任は、一義的にはフォースプロバイダーである各幕僚長にあり、隊員の練度を向上させるとともに、精強な部隊等を練成することを目的とし、個人及び部隊等の個別の技量を練成する各個訓練及び部隊訓練を実施している。この際、複数の軍種の自衛隊で協同して実施する協同訓練、他自衛隊の支援を得て実施する訓練も多く実施している。
統合訓練は、自衛隊の統合運用に関する部隊行動に習熟させ、もってその任務遂行を完遂するに必要な能力の向上を図ることを目的とし、自衛隊の全般対処構想に基づく、部隊等の各機能及び統合運用に係る訓練、統合任務部隊及び統幕に係る訓練を統幕長が実施するものであり、2軍種以上が関与する訓練が必ずしも統合訓練として位置付けられるものではなく、単軍種でも統合訓練として実施しているものもある。
イ 統合訓練の種類と訓練内容
統合訓練は、大きく3つに区分される。第一に、自衛隊の全般的な対処構想に基づく部隊等の統合運用について練成する訓練である統合演習であり、第二に、自衛隊の対処構想において想定される空地作戦、海空作戦等個々の状況における部隊等の統合運用を練成する作戦別訓練であり、第三に通信、情報等部隊等の有する個々の機能の統合運用について練成する機能別訓練である。
訓練内容は、自衛隊の防衛、警備等に関する事項、東海大震災、首都直下大震災等大規模震災対処に関する事項、国際緊急援助活動等国際平和協力活動等に関する事項等である。これらの内容を、去年12月の日米共同統合演習(実動演習)(KS11)の様に全般的に実施する統合演習、弾道ミサイル等対処、国民保護等措置等その一状況を捉えた作戦別訓練及び通信、情報、後方等の機能別訓練として実施している。また、これらの訓練はその特性に応じて自衛隊単独、日米共同又は多国間訓練として国内外で実施され、必要により関係省庁の参加を得ている。
ウ 成果と課題
統合訓練は、文字通り各軍種の参加を得る「統合」という観点で大きな成果を得ている。統合先進国の米軍は、「統合作戦を成功させる要訣は、第一に作戦の主体となる軍種を明確に示すこと。第二に他軍種が積極的に主体となる軍種に協力すること。」と指摘しているが、この観点から、例えばKS11では、「空軍種を主体とする演習」として実施する等統合運用の習熟に大きな効果をあげている。
具体的には、例えばKS11では、統合任務部隊と米軍の間で迅速な調整を行い、その迎撃を効果的・効率的に実施するとともに、これに伴う複合対処時におけるイージス艦の防護に関する海自・空自間及び日米間の連携について、相当の演練をすることができた。また、島嶼防衛においても、日米海上・航空部隊がそれぞれの指揮系統で行動したにもかかわらず、一体化しているように錯覚する程見事な連携で、海上、航空作戦を行う等これらの運用能力に習熟するとともに、部隊レベルにおける統合共同の観点から指揮統制上の多くの教訓を得ることができた。
更に、これら統合共同運用能力(共同対処能力)の向上に加え、日米の緊密な共同、連携ぶりを具体的に内外に示す絶好の機会となり、日米同盟の健全ぶりをアピールできる有効な手段となった。
国外での多国間訓練においては、今年度は東日本大震災の影響で一部の訓練の規模を縮小し要員派遣となったが、昨年度ベトナム・カンボジアでの医療活動(支援)を実施したパシフィック・パートナーシップでは、陸海空自の医官等による統合の医療チームが海自おおすみ型輸送艦と行動し、米軍と密接に連携した。また、コブラ・ゴールドでは、陸自及び空自による在外邦人等輸送訓練を米軍及びタイ軍との連携・協力下で、在タイ日本大使館の参加を得て実施した。これらの訓練により、自衛隊の国外での国際平和協力活動等に係る運用能力の向上はもとより、日本・自衛隊のプレゼンス発揮、関係国・軍との信頼醸成の向上等による安全保障環境の構築にも寄与している。
但し、統合運用体制移行前と比して統合訓練における統合要素は格段に強化されたものの、改善点も多く、より実戦的な統合訓練、特に統合演習の実施が必要である。この際、関係政府機関の参加を質的・量的に拡大するとともに、今回の東日本大震災対処で見られたように大規模震災対処、武力攻撃事態対処等は、国・政府として対応が必要なことから、政府全体での訓練の実施が必要である。
また、国外での多国間訓練では、国際平和協力活動等に係る運用能力の向上はもとより、より積極的な安全保障環境の構築に資するため、現在実施している海自による日米豪3か国共同訓練、パシフィック・パートナーシップ2012での日米豪3か国の連携等を更に発展させ、特に日米韓・日米豪の連携強化に資する訓練を進展させる必要がある。