統合の現状と課題 2。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 





2 統合の現状


草莽崛起:皇国興廃此一戦在各員奮励努力セヨ。 






(1)今次大震災における統合運用の実際



ア 全般

 平成23年3月11日(金)14時46分頃発生した東日本大震災は、我が国の観測史上最大規模の震災であり、最大16メートルの津波とあいまって、東北地方から関東地方にまたがり甚大な被害が生じ、8月15日現在で1万5000人強の方々が亡くなられ、5000人弱の方々が依然行方不明である。

 この未曾有の「国難」に対し、自衛隊は初の災統合任務部隊の編成も含め、創隊以来最大規模でこれに対処した。現在は、既に岩手県及び宮城県の活動を終了し、各県の要請に基づき撤収したところであるが、依然福島県での生活支援及び原子力災害派遣の活動が継続されている。

 今次大震災における自衛隊の対応は、従来の災害派遣にはない特性を有しており、最大時10万人態勢の派遣及び長期にわたる対応、初の即応予備自衛官・予備自衛官の災害招集、米軍との緊密な連携等が行われるとともに、特に注目すべき点は、東京電力株式会社福島第一原子力発電所(以下「福島原発」という)の事故により大規模震災対処と原子力災害対処の2正面作戦を統合運用により対処したことである。



イ 統合運用に関する判断・決心

 今次大震災の自衛隊の運用、即ち統合運用は、平成17年度末の統合運用体制への移行に伴い制度化されたように、防衛大臣(以下「大臣」という)の指揮は統合幕僚長(以下「統幕長」という)を通して行われ、自衛隊の運用に関する命令は、統幕長が執行した。これは、災統合任務部隊(以下「JTF-TH」という)が編成された大規模震災対処でも、複数の主要部隊(Major Command,以下「MC」という)が協同で対処した原子力災害対処でも同様である。

 具体的には、大臣、副大臣及び政務官、事務次官、統幕長、陸上幕僚長・海上幕僚長・航空幕僚長(以下「各幕僚長」という)、内部部局各局長等が参加する防衛省災害対策本部会議(以下「省対策会議」という)での議論を踏まえ、大臣が判断し、その具体化については統幕長が決定した。

 勿論、3月17日の福島原発に対する空中放水の様な急を要する場合には、省対策会議とは別に大臣と統幕長の会談が別に行われ、統幕長の意見具申を大臣が了解・決心する等柔軟な対応が実施された。

 今次大震災における統合運用に関する重要な決心点は、発災当初における統合任務部隊の編組であったが、大臣及び統幕長、統幕長及び陸海空各幕長の各調整系統によるトップダウンにより迅速に意思決定され、実行に移されたと評価でき、統合運用による迅速な部隊運用構想決定の好例であろう。



ウ 統合幕僚監部の活動


(ア)統合部隊に関する指揮命令等

 今回の東日本大震災対処の様な大規模震災対処又は原子力災害派遣に際しては、それぞれ大臣命令が発出される。但し、大臣命令は通常、状況、方針及び実施部隊等行動の主要な事項が包括的に記述されるのが通常である、これは、あまりに細部まで規定すると、その都度大臣の了解を得る必要がある等、部隊の迅速かつ融通性ある行動を阻害する恐れがあるからである。

 その自衛隊の運用に関する防衛大臣の命令は統合幕僚長を通して一元的に執行されることから、統幕長が、大臣命令の細部を統幕長指令として各部隊に示す。例えば、今回の大規模震災対処のため、3月14日にJTF-THが編成されたが、統合任務部隊の編成は、大臣命令によって規定されたが、これに伴い、特に陸上自衛隊の部隊は全国から東北地方に機動(移動)したが、その際の細部の部隊、輸送の優先順位、輸送手段、指揮転移の時期(条件)等の全自衛隊レベルで処置が必要な事項は、統幕長指令により規定された。

 また、各幕僚長は、フォース・プロバイダーとして、部隊運用の責任は有しないが、それ以外の責任として、人事、教育、訓練(統合訓練を除く)、防衛力整備等の責任を有しており、例えば、今回の大規模震災対処では、移動を含むその行動を可能にするための、補給・整備活動、部隊の戦力回復等も含む人事・厚生活動、予算に係る事項等後方支援について各幕僚長毎、措置指令を発出し、これを律した。

 特に、大臣命令と統幕長指令の一例について、原子力災害派遣を例にして示すと、先ず、発災した3月11日(金)に「東北地方太平洋沖地震に対する大規模震災災害派遣の実施に関する自衛隊行動命令」(以下「行災命」という)及び「東京電力株式会社福島第一原子力発電所及び福島第二原子力発電所における原子力緊急事態に対する原子力災害派遣の実施に関する自衛隊行動命令」(以下「行原命」という。)が下令された。(自衛隊の行動の根拠がそれぞれ、隊法第83条(災害派遣)及び隊法第83条の3(原子力災害派遣)により、異なるため、大臣の行動命令も区分されて発出された)

 行災命は、3月14日(月)に新たに差し替えられ、じ後これを基本として、その修正・追加の行災命が、2回発出された。行原命は、3月12日(土)に新たに差し替えられ、じ後これを基本とし、その修正・追加の行原命が4回発出された。(行災命は4回発出され、内1コは既に廃止。行原命は6回発出され、内1コは既に廃止)

 3月12日(土)に、大臣により発出された行原命では、状況として内閣総理大臣による原子力緊急事態宣言の発出、原子力災害対策本部の設置、及び原子力災害対策本部長からの防衛大臣への自衛隊の部隊等の派遣要請等を、次いで自衛隊が原子力災害派遣を実施する旨が明記された。次いで、各方面総監、中央即応集団司令官、自衛艦隊司令官、各地方総監、航空総隊司令官、その他所要の大臣直轄部隊の長に所要の支援を実施する旨を示した。(自衛隊の活動自体が関係機関による支援のため「支援」という表現を使用)また、航空支援集団は、航空総隊司令官が指揮することを明記し、最後に、この命令の実施に関し必要な細部の事項は、統合幕僚長に指令させるとした。

 これを受けた統幕長は、同じく、3月11日に、統幕長指令を発出。その骨子は、各部隊が活動する中で主担任部隊を明確化するため、中央即応集団を主体とした総合調整所の設置を示した。また、部隊の行動に必要な累積被曝線量の上限やその管理要領を行動基準として明記した。更に、防護資器材や検知・測定器材等の携行装備の基準を明記した。

 更に道路啓開のための東部方面隊から中央即応集団への戦車隊の配属・欠如、横須賀地方隊の真水補給のためのバージ船曳航、航空総隊(航空支援集団)による空中モニタリング(AMS)等新たな支援を実施する度に、その細部を統幕長指令として逐次発出した。

 一方で、統幕は、これらの統幕長指令の発出以外にも、中央レベルでの関係省庁等との調整を通して、特に部隊が現地で実施すべきでない事項、実施に当たり部内外に及ぼす影響が大きく留意すべき事項等について部隊に統幕長の指針として必要な事項を示した。


(イ)各幕僚監部との関係

 統幕が、JTF-THに対し運用に関する事項を担任し、実質的に指揮統制したが、この実施にあたっては、陸上幕僚監部、海上幕僚監部及び航空幕僚監部(以下「各幕」という)と密接な協力が必要となる。具体的には、各幕は、予算処置を含む人事、後方等に係る関連措置を担任し、JTF-THが行動する基盤を付与した。特に、陸幕が、震災初期のガソリン不足の中で、その調達、輸送及び関係部外機関への提供等を統制し、円滑な初動対処を容易にしたのは特筆すべき事項である。更に、陸幕は、疲弊した部隊の戦力回復、出動隊員の家族支援等についても担任している。

 これらの後方支援活動(関連措置)は、統幕の運用と密接に連携して実施され、一部については、統幕と各幕との調整に基づき、統幕が方針事項を示し、各幕がこれを具体化しており、即応予備自衛官及び予備自衛官の招集、放射能除染要領に係る事項等がその典型的な例であろう。

 また、全国的な戦略レベルの輸送に関しては、統合輸送として統幕が各幕等の支援を受けてこれを統制した。統幕は、各幕、各部隊等の増強要員を得て統合輸送統制所を設置し、陸・海・空各自衛隊のヘリ、輸送機、LST等を始め民船(フェリー)、米軍のHSV(高速船)、輸送機、オーストラリア軍輸送機等多種多様な輸送手段を統合輸送統制所の適切な統制のもと、陸自の部隊転用(機動展開)、物資輸送、交代要員の輸送等を効果的・効率的に実施している。

 更に各幕から多くの要員を統幕との兼務補職とし、これらの要員が、主に市ヶ谷駐屯地及び横田基地で日米調整所要員として勤務することにより、効果的かつ適時性ある日米調整に大きく寄与している。

 陸自は、海自の自衛艦隊及び空自の航空総隊と異なり、MCを取りまとめる「陸上総隊」がないため、陸幕が「総隊的機能」を発揮し、陸自の運用を取りまとめる機能を果たした。これらの機能は、部隊運用において必要不可欠な機能であるが、統幕と各幕、MCとの任務区分、指揮関係、資源配分等から、陸自における総隊的機能の保持の在り方について今後検討を進める必要があろう。


(ウ)成果と課題

 統幕は、上記の活動に加え、原子力災害派遣に関する運用も担任する2正面作戦において、的確に作戦を遂行するため全国的に自衛隊を運用する統合司令部的機能を実行するとともに、同じく重要な役割である自衛隊の運用に関する軍事専門的観点からの大臣の補佐についても実行する必要があった。すなわち政府・政治レベルとの調整を行う行政組織的機能と軍事組織を実際にオペレーションする司令部的機能の両面の活動を実施することが求められる。

 統幕が、これら2つの活動を同時並行的に可能にしたのは、今次作戦が災害派遣であり、自然の脅威は存在するが、自由意思をもった敵は存在せず、作戦目的が被災者の救命救助・生活支援、被災地の応急復旧等、明確化しやすかったこと、また原子力災害対処を中央即応集団とういう専門性の高い部隊を指定して運用したこと等が考えられる。一方、態勢面では、各幕との密接な連携・協力が得られたこと、及びJTF-THを編成したことにより大規模震災対処の現地での統合運用・調整は同司令部が担任したこと等が大きな要因として考えられる。また蛇足ではあるが、統幕を牽引した折木統幕長の適時適切な指揮・統率なくしては、今次作戦の任務達成は為し得なかったであろうことを付言しておく。

 今次作戦がある程度の成功裡に遂行していることで、自衛隊の全ての任務において現在の統合運用の体制・態勢で対応できると考えるのは短絡過ぎる。現在までの東日本大震災への対応は、平素からの警戒監視・情報収集の強化を含む防衛、警備等事態、現在活動中の国連平和維持活動等や、在外邦人等輸送等の国際平和協力活動等にも特別な対応を要する、いわゆる複合事態としての対応ではなかった。このため、これら複数の事態が連続的又は同時生起した場合、複合事態に、現行の体制又は今回の東日本大震災対処の態勢で適切な大臣補佐が可能か、また、的確な作戦の遂行・適切な自衛隊の全国運用が可能かは、今後、検討が必要であるが、統合運用に係る機能・組織強化は、喫緊の課題であろう。


エ JTF-THの統合運用の実際


(ア)JTF司令部内の海災・空災部隊との調整等

 今回の大規模災害対処で、海自横須賀地方総監を長とする海自部隊(海災部隊)及び空自航空総隊司令官を長とする空自部隊(空災部隊)を東北方面総監がJTF司令官として指揮統制した。なお、国内の行動(運用)で統合任務部隊が編成されたのは、平成21年4月の北朝鮮のミサイル発射実験に引き続き2回目であり、そのピーク時の派遣規模は人員約10万7000名、航空機543機及び艦艇59隻に及んだ。

 JTF-THの活動及び編成の主体が陸自であったことから、同司令部の基本的な編成も陸自(方面総監部)主体であり、東北方面総監部を基幹として編成された。具体的には、部隊集中による業務量の増大から陸自増強幕僚により増強された総監部の既存組織を主体に、統合運用等に係る調整等の組織及び各師団・旅団等隷下部隊との連絡・調整機能に係る組織が新たに編成された。

 JTF司令部内の海災・空災部隊との調整(統合運用調整)は司令部内に、将補を長とした統幕を主体とした統合運用連絡所により統幕とJTFとの調整を円滑に実施するとともに、それぞれ1佐を長とする海災部隊連絡調整グループ及び空災連絡調整グループを設置し、これらが、全般の連絡調整を司令部内各部官と実施した。

 また、司令部内に特に重要な機能については個別に調整所が設置され、海災・空災部隊の運用調整も含めた調整が実施された。具体的には、航空統制、通信、輸送、民生支援、施設及び日米運用に係る調整所が設置され、各調整所では、ある程度の権限が委任された統制者が配置された。

 実態として、各調整所を中心とした統合運用調整が実施され、各自衛隊の能力を最大限に発揮することを主眼に、司令部内の統合運用調整が円滑に実施することができたと考えられる。


(イ)JTF司令官の海災・空災部隊への指揮命令の実際

 JTF司令官は、活動地域(東北方面区)内の捜索・救助活動、行方不明者捜索活動、輸送支援活動、入浴・給食・給水・医療等の生活支援活動、応急復旧支援活動等の陸災部隊は基より海災・空災部隊の活動を指揮命令した。これらの命令は、前述の要領に基づく統合運用調整により、JTF司令官は海災・空災部隊に所要の命令を発出している。当然、海災部隊である大幅に増強された横須賀地方隊及び空災部隊である航空総隊の全ての行動を指揮命令するものではなく、その範囲は震災対処に係る運用に限定された一部指揮における作戦統制の考え方である。例えば、対領空侵犯措置、警戒監視・情報収集等の運用は、航空総隊司令官等が引き続き担任し、現場への発出兵力もJTF司令官から示される包括的な任務付与に基づき、司令部内の統合調整を踏まえ海災部隊指揮官(横須賀地方総監)及び空災部隊指揮官(航空総隊司令官)の権限で決定された。

 また、災害派遣に係る活動でも全国的な海上作戦輸送及び航空輸送は資源の効率配分の見地から、前述した様に統幕内の統合輸送統制所で統制された。


(ウ)成果と課題

 今回の東日本大震災対処において、東北方面隊を中心としたJTF-THを編成したのは、その地震及び津波による被害が東北太平洋岸の全域に渡る大規模なものであったことから、一人の指揮官に指揮権を与え、各軍種及び自衛隊の保有する装備品の特性を活かして有効かつ効果的に機能させるとともに、活動の進展や新たな状況・ニーズの変化等に応じた柔軟な運用を可能とすることであった。

 JTF-TH司令部における各統合運用調整所の積み上げによる今回の「ゆるやかな統合」は全般的に成功を収めたが、その直接的な要因は司令部内の統合調整機能の組織化・運用(運営)が成功したことにあり、全般としては、今回の大規模震災対処は陸自主体の運用であることが明確であり、海空自も含め認識の共有が図れていたこと、東日本大震災対処以外への事態対処の必要性が少なく震災対処に陸海空自の部隊(戦力)が集中できたこと、「災害派遣活動」であり活動の統一が容易で、陸海空自間の競合が避けられたこと等がある。

 また、JTF-THの編成により米軍との共同運用が円滑に実施できた。今回、米軍が「トモダチ作戦」として、空母、揚陸艦を含む大規模な支援活動を実施したが、この際米軍は、海軍大将(後にUSFJ司令官)を長とする統合支援部隊(Joint Support Forces)を編成し、陸軍・海兵隊、海軍及び空軍を一元的に指揮統制した。今回、自衛隊側もJTF-THを編成したことにより、米軍との共同調整系統を単純化でき、その共同調整を円滑にした一因となった。



オ 陸海空隷下部隊相互間の協同状況


(ア)協同の実際

 司令部内の統合調整が円滑に機能したことにより陸災・海災・空災の各部隊は緊密に協同できた。機能又は区域で各災部隊の運用(役割)を区分することにより、競合を排しJTFとして一体的な運用ができた。

 具体的には、捜索救助・人命救助活動及び行方不明者捜索は、陸地では陸災及び空災が地域を区分して実施し、洋上では海災部隊及び空災部隊が海域を区分して捜索を実施した。この際、行方不明者捜索では、空災部隊が洋上で発見したご遺体を海災部隊が収容する等の連携が柔軟に行われた。また、入浴・給食・給水・医療等の生活支援活動、応急復旧支援活動等は原則陸災部隊を中心として、一部を海災・空災部隊が特定の地域を担任し実施した。輸送支援活動は、物資を空自輸送機が空港まで運び、端末地輸送を陸災部隊が担任する等の連携が実施された。

 この際、特に海自輸送艦等の大型艦は、医療活動や入浴支援、食事支援等を提供できることから、災害時における海上支援拠点としてその機能を発揮したが、被災者への支援の合間を縫って陸災部隊への支援にも活用された。


(イ)成果と課題

 全般的に、各部隊相互間の協同も含め統合運用は円滑に機能したが、特に成果を収めた一例は、多数の航空機が運用(飛行)されている状況下でその運行統制が適切に実施されたことである。陸海空航空機(固定翼機及び回転翼機)の情報共有手段として、指定周波数を空自防空指令所と各航空機間で通信設定するとともに、航空機固有識別のための固有識別コードを設定した。これにより、防空指令所と各航空機間の情報交換が可能になり、陸・空自の航空管制装置及び空自早期警戒機(E-2C)による運行統制を適切に実施でき、安全を確保できた。(関係部外機関及び報道等民間機関のヘリに対しても発災日から国交省への航空情報(ノータム)発出の要請、県庁による官公庁ヘリによるノータムに係る統制への協力依頼、報道ヘリ事業者等へのノータムに係る統制への協力依頼等により運行統制を確保できた)

 課題の代表的な例は、各災部隊間の通信であった。無線通信においては、陸災部隊はFM無線機、海災部隊はHF無線機が主体で相互の無線通信が困難であった。このため、陸災部隊及び海災部隊の回転翼機間に急きょ、FM交信を調整・設定するとともに、艦艇との間は衛星携帯等で通信を確保した。システム通信に関しても、統合通信系の端末が限定される等各災部隊間レベルにおけるシステム通信は十分実施できる環境になかったが、それぞれの端末を貸出し、少なくとも情報共有は可能な態勢を維持した。

 確かに、陸・海・空自衛隊の通信システムの互換性が欠如しているが故の致命的な欠陥は露呈しなかったとは言え、本来的には通信システムの互換性が維持されるべきであり、今後の課題であろう。



カ 原子力災害派遣に係る統合運用

 福島原発への原子力災害派遣は、統幕長指令によりJTF-THが震災災害対処を、中央即応集団が福島原発への直接対処を主に担任した。具体的には、JTF-THは住民避難支援(輸送支援)及び誘導を、中央即応集団は、部隊・避難住民等の除染、福島原発への給水・消火活動を実施することとなった。同時に、中央即応集団隷下の中央特殊武器防護隊に、従来増強されていた陸自化学防護隊(小隊)等に加え、陸・海・空自の消防車を配属し、放水冷却隊が行動命令により編成された。(8月15日現在、福島原発への直接対処が不要になったことから放水冷却隊は既に解組され、東北方面隊(化学科部隊を増強した第6師団)が一元的にこれらの任務を実施している)

 この放水冷却隊は、今まで想定も訓練もしておらず、極論すれば陸海空の消防車の「よせあつめ」であったが、全員事態の深刻さを理解し、陸海空自の垣根を越え、中央即応集団の作戦統制化で、「高放射線下での使用済み核燃料プールへの放水」という想定外の困難な任務を立派に遂行した。

 また、当時原子炉等にやむを得ず海水を注入していたため、これを真水に切り替える作業も東電等が実施していたが、真水の不足が危惧されていたため、米軍が東電等に供与したバージ船2隻に横須賀地方隊が補給艦により真水を給水するとともに、多目的艦により福島原発に曳航した(Operation Aqua)。特に福島原発への曳航は、おそらく海上自衛隊初の高放射線下での活動であったが、中央即応集団が多目的艦に部隊(要員)を乗艦させ、モニタリングの支援、防護・除染の助言等を積極的に協力した。この活動における中央即応集団と横須賀地方隊の指揮関係は協同であったが、任務達成に向けて中央即応集団は海自の苦手な機能を十分に補完する等その成功の一因となった。