蘇った「日本軍国主義復活論」 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 





【石平のChina Watch】

http://sankei.jp.msn.com/world/news/110929/chn11092911320001-n1.htm





 満州事変(中国語では「9・18事変」=1931年)の発端となった柳条湖事件80周年記念日だった今年の9月18日、事件が起きた遼寧省瀋陽市で盛大な記念式典が行われた。毎年の式典開催は恒例であるが、今年のそれは、遼寧・吉林・黒竜江の旧満州3省による初めての共同主催で「史上最高格式」の式典となったと、中国の各メディアが報じている。

 

 式典では、現地時間午前9時18分から14回の「警鐘」の音とともに防空警報が鳴り渡った。このほか、吉林省長春市、黒竜江省ハルビン市も含めた全国100余りの都会で防空警報のサイレンが一斉に鳴らされた。

 

 この日、共産党機関紙の人民日報も記念の社説を掲載した。日本の新聞とは違って、中国の新聞は何か重大事件の発生や重要な記念日に際してのみ社説を出すものだから、中国指導部が今年の「9・18事変」記念日を格別に取り扱いたいと考えていたことがうかがえる。前述の「史上最高格式」の式典開催も当然、上層部の思惑の反映であろう。しかし一体どうして、今年になって「9・18」がこのようにクローズアップされたのだろうか。

 

 人民日報系の環球時報電子版は19日、事変への記念記事を掲載した。前述の人民日報社説と同様、この記事も日本の「中国侵略」批判から始まって「愛国主義精神の高揚」で終わっているが、特別に注目すべきなのは、記事がその締めくくりの部分において「日本国内における右翼の台頭」を取り上げながら、「日本は軍事的に再び捲土(けんど)重来する可能性が十分にあり、日本の軍国主義はすでに復活している」というとんでもない結論を出した点である。

筆者の私自身もこの行を読んだ時には驚きを禁じ得なかった。いわば「日本軍国主義復活論」たるものは、1990年代の江沢民政権下では高らかに唱えられて氾濫していた時期があったが、胡錦濤政権下の2002年あたりから、それが徐々にメディアから姿を消して「お蔵入り」となった観がある。

 

 もちろん胡錦濤政権時代においても、「歴史問題」を用いて日本を叩(たた)くのは依然、中国政府の常套(じょうとう)手段の一つであり続けたが、「日本軍国主義復活論」とは問題の次元がまったく違う。

 

 「日本の軍国主義は既に復活している」と言い出してしまうと、それはもはや「過去の歴史」に即しての日本批判ではない。この論調は明らかに、現在の日本国を「軍国主義国家」、すなわち中国にとっての現実の「敵国」だと見なして、「日本敵視政策」推進のための理論的武装を準備しようとしているのである。

 

 そういう意味では、胡錦濤政権の末期となった今、荒唐無稽な「日本軍国主義復活論」が堂々と人民日報系のメディアで蘇(よみがえ)ったことは実に危険な兆候である。先月19日、中国共産党中央委員会機関誌の『求是』も電子版において「日本軍国主義の復活を警戒せよ」との論文を掲載しているから、「日本軍国主義復活論」の「復活」はどうやら本物のようだ。

その背景にあるものとして、もともと江沢民一派の後押しで最高指導者候補の地位を勝ち取った習近平氏が次期政権の対日方針を江沢民時代に「先祖返り」しようとしていることが考えられる。経済と社会がこれから深刻な局面を迎える中で、政権内の一部の人々が国内危機回避の常套手段として「反日」という「伝家の宝刀」を再び抜こうとしているのかもしれない。

 

 いずれにしても、中国における「日本軍国主義復活論」という敵意に満ちた論調の復活はわれわれにとっては大いに警戒すべき危険な動向の一つであろう。(共同)

                  


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【プロフィル】石平

 せき・へい 1962年中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『謀略家たちの中国』など著書多数。平成19年、日本国籍を取得。