【主張】政府税調
政府税制調査会(会長・安住淳財務相)は東日本大震災の復興財源を確保するため、所得税と法人税を組み合わせ、数年にわたり増税する案を週内にまとめるという。
問題は、野田佳彦政権が税収を増やすための成長戦略の積極的展開はもとより、政府保有株や遊休地の売却など、増税する以外に財源確保の具体案を示そうとしないことだ。
大震災は「1000年に一度」という巨大な被害をもたらした。だが、被災地で復旧するインフラは将来世代も等しく使用する。その費用を「現役世代だけで賄う」という野田首相の方針は、本当に国民に理解されているのか。「増税ありき」ではなく、冷静な議論が必要だ。
政府は復興費用を捻出するために10兆円規模の復興債を発行し、その償還財源に充てるために臨時増税の検討を進めている。増税項目には所得税や法人税、消費税のほか、たばこ税や相続税なども浮上している。
しかし、政府税調が税制を議論する場とはいえ、増税がもたらす日本経済への影響に加え、企業の国際競争力を高めて税収を増やす成長戦略が議論されている姿はうかがえない。デフレ脱却を果たさない限り、増税によって本当に税収増が見込めるかも不透明だ。
野田首相は15日の参院本会議でも「歳出削減や国有財産の売却を徹底して、増税規模の圧縮に努める」と重ねて強調した。だが、民主党のばらまき政権公約(マニフェスト)の見直しは遅れ、JTやNTTの政府保有株の売却も具体的見通しは示されていない。売却が凍結されている日本郵政株も有力財源として活用すべきだ。
野田首相は「将来世代に(復興の)ツケを回さないことが重要」と現役世代への臨時増税で復興財源を確保する必要性を訴えている。もちろん財政規律は重要だが、被災地で将来にわたって利用できる橋や道路などの建設費用を、なぜ現役世代だけで賄わねばならないのか。首相や財務相はもっと明確に説明してもらいたい。
復興債の償還期間もさらなる検討が必要だ。現在は10年程度での短期償還を予定しているが、通常の国債は60年償還がルールだ。
償還期間をもっと長くすれば、1年あたりの負担額は少なくて済む。政府・与党は増税以外の選択肢を示すべきだ。