TPP、オバマ政権の愚策。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 








【今日の突破口】ジャーナリスト・東谷暁




野田佳彦政権に代わってから、急速に復活してきたのがTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)の参加問題である。前政権が昨年10月に突如参加を唱え、その後、東日本大震災が起こると鳴りを潜めたが、オバマ政権の働きかけも国内賛成派の動きも続いていた。いまも賛成派は震災前と同じことを主張するが、それは議論としてまったく成立しない。いまさら指摘するのも気が引けるが、事が重大だから繰り返したい。

 まず、賛成派はTPPに参加すると輸出が飛躍的に増加するというが、これは完全な間違いである。TPP参加国のほとんどは経済的規模が小さく輸出増加が見込まれるとすれば対米輸出だけだが、いまの円高ではそれはまったく不可能だ。財界は韓国が米韓FTA(自由貿易協定)によって対米輸出を急増させたというが、米韓FTAはいまも批准すらされていない。韓国が対米輸出を急増させたのは通貨ウォンのレート急落によるもので、もういいかげんにこんな嘘はやめるべきだろう。

 また、前原誠司元外相が「農業などの第1次産業は対GDP(国内総生産)比で1・5%。残りの98・5%を犠牲にしている」と発言したため、いまもTPP問題は農業問題であるかのようにいわれるが、日米ともにTPPの作業部会は24あって、農業はその一分野にすぎない。経済規模の小さい4カ国だけの経済協定に、米国が加わってから新たに加えられたのが金融サービスと投資の徹底的な自由化だった。農業分野においても、米通商代表部が課題としているのは対日コメ輸出の増加などではなく農協共済の解体である。

 さらに、投資においても米通商代表部の狙いは、政府調達の分野での規制撤廃や制度の見直しであり、日本側の行政刷新会議などの動きを見れば、農地の自由な売買や農協の解体も射程内にあると思われる。すでに林地における売買は匿名で可能であり、外資の農地へのアクセスが容易になれば、日本国の農業政策だけでなく安全保障すら危うくなる。

 加えて、TPP参加は安全保障を強化するという人がいるが、それは日米安全保障条約に任せればよい。冷戦後の地域経済協定では安全保障例外条項を設けるのが普通で、米国が結んだFTAでも、中東の小国とのFTAやイラク戦争時に交渉した米豪FTAなどを例外とすれば安全保障には立ち入っていない。

 米国にとってTPPは自国の雇用対策だが、小国が相手では効果がないと批判され、そこで引っぱり出されたのが外交で失態を重ねる民主党の日本だった。民主党は足元を見られており、オバマ政権と菅政権の間で日米関係修復とTPP参加が取引された可能性は高い。しかし、TPPは米国からしても愚かな政策で、米国がこれまで日米FTAを言い出さなかったことからも推測できる。

 そもそも、米国経済は二番底のリスクが高まっていて35兆円の追加財政支出も効果は限定的だといわれる。そのような状況で日本の対米輸出を増加できると考えるほうがどうかしている。そして何より大震災後の日本はオバマ政権の愚策に付き合っていられるほど余裕がない。迷うことなくTPP参加は見送って、着実な国内経済の立て直しとオバマ政権後の堅実な米国との関係を考えるべきだろう。


                                (ひがしたに さとし)