さてここで、救う会会長で東京基督教大学教授の西岡力さんに基調報告をお願いします。
◆朝鮮学校の教科書は非公開の秘密文書
西岡力(救う会会長)
いま櫻井さんが読んでくださった資料は、朝鮮学校で使われている現代史の教科書の、拉致問題に関する部分と大韓航空機事件に関する部分の記述の翻訳です。(救う会ウエブサイト参照http://www.sukuukai.jp/report02.php?itemid=2360
)
実はこの資料は、三浦さんの「守る会」の萩原燎先生たちが朝鮮学校の教科書を入手して翻訳してくださったのです。というのは、朝鮮学校の教科書は非公開なのです。秘密文書なのです。教科書が秘密文書であるようなところに公的支援をするということは、どういうことなのか。
泉田知事は拉致被害者救出のため先頭に立って闘ってくださっている仲間だと思っていますが、新潟県も朝鮮学校に一部支援をしています。ただ、新潟県の朝鮮学校には高校レベルはない。小学、中学レベルです。お配りした教科書資料は高校レベルのもので、小学、中学レベルでは拉致を教えていない。しかし、拉致を教えてなくていいんですかということです。
神奈川県で黒岩知事が当選されて、前の知事はこの教科書でもお金を出しますよと結論を出したのですが、黒岩知事は、それではだめだと言って、この教科書を変えろと言った。朝鮮総連は、「変えるのは3年に1回、改訂の時期があるから今年は変えられない」と言っていたのに、今年になり突然神奈川県に「変えま
した」というコピーを持ってきたんです。
その内容をいいますと、大韓機事件の記述が全部なくなった。それから、「日本当局は」というところが、「右翼勢力は」となった。拉致問題はなくなって、「右翼勢力が反共和国・反総連・反朝鮮人騒動を大々的にくり広げた」となっています。「右翼勢力」って誰ですか。ここにいる人たちじゃないですか。今度は、我々も、知事の会も、地方議員の会も「右翼勢力」で、極端な民族排他主義的だとしています。
金正日が拉致を認めた2002年の現代史を教える時に、もちろん様々なことを教える自由があっていいでしょう。しかし、日本の中の教科書で、北朝鮮が日本人を拉致したということを北朝鮮政府が認めたということを、中学レベルで現代史で教えないということが、公的な支援の対象としてふさわしいのかどうか。
黒岩知事はその改訂後というコピーをみて、拉致が外れているから、「外れているのがおかしい。教えないこともおかしいじゃないか」と言ったそうです。そうしたら朝鮮総連側から、「分かりました。教えます。『めぐみストーリー』という映画を見せます」という文書が来たということで今年はお金を出すことになりました。
それに対し私はちょっと甘いと思っています。実は、神奈川県の教科書が本当に変わっているのかどうか、秘密文書だから分からないのです。じゃあ、神奈川県だけ変わっているのか、東京都は変わっていないのか、誰も知らないんです。日本の情報当局に聞いても、教科書の現物を持っていないんです。
そして、神奈川県はコピーを総連から見せられています。現物があるのかどうか。現物があるとして、それは神奈川県だけの朝鮮学校が変えたことなのか、日本全国の朝鮮学校で変えたことなのか。だいたい、こんなことを議論しなければならないような秘密結社の地下教育になぜ公的資金が入らなくてはいけないのか、ということなんです。
彼らは、日本の学校教育法上の高校として申請していないんです。各種学校として運営しているのです。それならそれでいい。各種学校として忍者学校とかあるんだから。それなのに、高校と認めて無償化の対象にしろというのなら、教科書くらい公開しなさいということです。
もう一つの問題は、学校法人として理事会があるのですが、その理事会は全く有名無実で朝鮮総連が人事権を持ち、指導しているのです。東京都の場合は、学校法人は都内にある朝鮮大学から朝鮮学校すべて学校法人として一つなんです。しかし、それぞれの地区の朝鮮総連がそれぞれの学校を指導しています。
これは法令上やっていけないことです。学校法人は東京都全体で一つなんですから。しかも、理事会が学校を指導しなければならないのに、理事会は形式的で、指導は各支部がやっています。
こういう不法行為がたくさんあるということについても、きちんと追及していっていただきたいと思います。それなのに、そういうことをしないで、菅政権は昨年、韓国で砲撃事件が起きたから手続きを停止したという、その原点自体がおかしいのです。そして、韓国情勢が元に戻ったというわけの分からない理由で手続きを再開するということ自体がおかしくて、我々の要求は、拉致問題をきちんと教えていないことを理由に手続きをストップしてほしいということです。そして、教育内容についてきちんと審査してほしいということです。
ところが民主党政権が作った基準は、教育内容は審査しない、外形だけ審査するということになってしまった。松原先生たちが部会で頑張っていただきましたが。
我々は去年、高木文科大臣のところに行きました。この教科書の記述を見せたんです。「大臣、これでいいんですか」、「こういうことが書かれているのにお金が行くのなら、文部省前で座り込みをするしかないですよ」と。大臣はこう言いました。「法的根拠はないけれども、教材を提出させて是正するように全力で努力します」と。「じゃあ、努力をしている間はお金が出ないんですか」と言ったら、「努力をします」と繰り返す。
しかしまず、「教材を提出させる」とおっしゃったのですから、まず出してほしい。それが出せないようなところには、審査ができないと言っていただきたい、ということです。
◆制裁は効いている、こちらが厳しく締めると向こうから手が伸びてくる
今日の主題の方に戻りますが、3年前の8月、福田政権の末期に、北朝鮮が「調査やり直し」を約束しました。その時、我々に対する外務省の説明は、「拉致解決という言い方は今後はしない。生きている人のための調査やり直しをすると北が言った」ということでした。
その内容が何なのかまだ分からない中でしたが、しかし、緊張しながら、調査やり直しの結果を待っていたわけです。そしたら福田総理が退任表明をされた。間髪をいれず北朝鮮が、3年前の今日と同じ9月4日、声明を発表して「約束を守ることができなくなりました」と一方的に言ったわけです。
彼らは最近また、「拉致は解決済み」と開き直りを続けています。先ほど、寺越昭二さんのご子息3人から、寺越事件の資料をいただいたのですが、北朝鮮は最近寺越武志さんに、わざわざ日本から取ってきた戸籍の上に、自分の字で、「私は拉致ではありません」と書かせて、外務省に提出した。こんなことを北朝鮮がやらせているのです。
こんなことまで、またやらせるようになった。「拉致じゃない」ということを、拉致された人に書かせるという、二重の意味でひどいことを、この8月にやってきています。
8月末には、共同通信が平壌を訪問した時に、外務省の副局長という人間が出てきて、「拉致は解決済み。拉致問題で話し合いなどしたくない」と公然と言い放っています。3年前の約束を破ったどころか、今また、被害者本人を使ってまで、「拉致じゃない」というでっち上げを公然と北朝鮮がやってきている。
そういう中で、今日の集会の決議の第1項は、「野田佳彦新首相は、北朝鮮に対しすべての拉致被害者をすぐに返せ、という強いメッセージを自らの言葉で発信」してほしいというものです。対策本部長なんですから、北朝鮮が「解決済み」と言っているわけですから、しっかり言ってほしい。
この9月を我々が期限にしようと思って我々は6月にデモをしました。9月までに北が動かなければ、追加制裁をしてほしいとデモをして、決議文を持っていったら、菅直人総理が対策本部会合を開いて、「北朝鮮に対し約束の履行を求めるあらゆる活動をせよ。9月になっても何も起きなければ追加的な措置を検討せよ」という指示を出したと報道されています。しかし、その時期が来る前に菅さんは辞めてしまった。
じゃあ、野田新首相は、対策本部会合で決まったことをそのまま実行するのかどうか。つまり、「石の上にも3年」という言葉がありますが、これは実は中野寛成前大臣が言っていました。「西岡さん、あなたの言うこと分かるよ。石の上にも3年という言葉がある。3年も約束を反故にするのはあまりにもひどすぎる」と。
3年経っても何もしないのであれば、3年間被害者の苦しみは増したんです。何も起きてないんじゃない。膠着状態じゃない。被害者はもっと苦しんでいるんです。その分に対して追加制裁をするのがなぜいけないのか。その上、日本が怒っているというメッセージを、言葉で話合いができないなら、島田副会長の造語ですが、「経済制裁はボディランゲージだ」です。我々が怒っていることを示すということに第1の意味があるのです。
それなのに、朝鮮学校に問題があるのに、無償化のための審査を再開するのか。逆のメッセージになってしまうではないか、ということです。
経済制裁は、メッセージでもありますが、実質的な効果もある。一部の専門家や、民主党内の議論でも、「制裁はあまり効いていない」という人がいます。しかし、考えてください。拉致が起きてから、もう30数年経っています。制裁から4年半くらいです。2002年からの9年間の内、制裁をしなかったのが4年、制裁したのが5年です。
制裁したら何が起きたか。2006年に制裁したら、2008年に、「制裁を
解除してくれ」と言って3年前の約束になったのです。しかし、その時、アメリカが金融制裁を解いてしまい、テロ支援国指定を解除に走ってしまった。それで北朝鮮は一息ついて約束を破った。やはり日米韓連携した制裁が必要なんです。
しかし、アメリカはもう一度制裁に戻ってきました。韓国も、延坪島事件、天安艦事件で制裁を始めました。そしてその制裁のターゲットは、北朝鮮の国家経済じゃないんです。金正日の個人資金、これは労働党39号室というところがあ
るんですが、そこに外貨があるんです。かつて朝鮮総連から多額の資金が送られていたんです。そのお金で軍を維持し、核開発をし、またベンツを買ったり、トロを買ったりしているんです。
人民が飢えていても、そのお金は別なんです。北朝鮮でずっと、8割の人たちは配給がないです。しかし2割の人たちは配給があるんです。ところがここ数年、その2割の中の下の方の人たちが生活が困窮してきています。8割の人はもう闇市で食べているわけです。自分で商売をして食べているから、配給がなくても食べられるようになったのです。
しかし、今まで配給で食べられた人たちも下層部の人は、金正日の外貨資金が枯渇し始めたので食べられなくなってきたという現象が起きています。それで金正日が慌てて3回中国に行ったり、ロシアに行ったりしているんです。
制裁は効いているんです。アメリカの金融制裁の時は慌てたじゃないですか。あの時日本は何をやったか。三浦さんの話にもありましたが、朝鮮総連に対する厳しい法執行をやったんです。税務署もずいぶん動いた。警察もすいぶんやった。日本からのお金はもうほとんど行かなくなった。それどころか、朝鮮総連に対して、日本政府が600億円返せという民事訴訟を起こして、今その最終決着である最高裁の判決だけ残しています。日本政府が勝つと、朝鮮総連の中央本部を押収して競売にかける。朝鮮総連はそれを察知して一部引越しを始めました。
そういうことの中で、菅総理との水面下での何らかのやり取りがあった。総連を守ろうとする、そして日本からモノやカネをとろうとする動きと、7月に一部で報道された中国での秘密接触は関係があるのではないかと私はおもっています。つまりこちらが厳しく締めると向こうから手が伸びてくるということなんです。効いているということです。ここでゆるめてはならない。
アメリカも韓国も一緒になって、金正日の個人資金をターゲットにした制裁を続けていく。北は困ってきているんです。
今日は、地方議員の先生方がこんなにたくさん来ていただきました。去年の地方議員全国協議会の総会で我々は、「各地方も朝鮮学校にお金を出しています。それも止めてください」という要請書をお出ししましたが、各地で止める動きが起きまして宮城県、埼玉県、千葉県、東京都、大阪府が今止まっており、神奈川も今厳しいことになっています。そういうことがどんどん議論されています。間違ったメッセージを出さないために、各地方議会でもまず文部科学省や日本政府に意見書を出していただきたいし、それよりも自分の議会の予算では朝鮮学校の教育内容を問題にして、大いに議論していただきたい。神奈川では少なくとも
「めぐみストーリー」の映画を上映させることを約束させたのです。
一緒に頑張りましょう。ありがとうございました。
櫻井 どうもありがとうございました。ここで舞台の入れ替えをして、家族会の皆様に上がっていただきます。