【40×40】山田吉彦
勝負の世界は厳しい。厳格な競争には明確なルールが必要だ。
韓国・大邱で、世界陸上が開催されている。世界最速の人間を決める男子100メートル決勝。このレースで思いもしないことが起こった。優勝候補のウサイン・ボルト(ジャマイカ)がフライングで失格となったのだ。196センチの長身、人を食ったような態度、そして何より9秒58という驚異的な世界記録を持つ男。誰もが、ボルトの優勝を疑わなかった。
しかし、優勝したのは、9秒92で走ったヨハン・ブレーク、ボルトと同じジャマイカの選手だった。
陸上競技では2010年にルールが改正され、フライングは一発で失格となる。この規則は、選手たちに精神的な強さを求める。スタート姿勢に入ったら、完全に静止しなければならず、風に揺られることさえ許されないのだ。そして、いかに力を持っている人間であろうともルールを守らなければ失格となり即退場だ。
同じ世界陸上の男子400メートルに、義足のランナー、オスカー・ピストリウス(南アフリカ)が出場していた。人工物を着けての参加にアンフェアだとの意見もあるが、このケースではスポーツ仲裁裁判所の裁定によりルールの解釈を柔軟にして障害者にもチャンスを与えた。ルールには、厳格さと柔軟さの両面が必要だ。しかし、その判断基準は明確でなければならない。
民主党の代表選が行われ、野田佳彦氏が当選したが、この選挙は、国民との約束であるマニフェストの不実行、政治とカネの問題、外国人からの政治献金などのルール違反を棚上げにしたままで争われた。民主党の中にだけ通用するルールの解釈で、国政も動かそうというのか。厳格さもなければ、判断基準もない。結局は、親小沢か反小沢かということだけが争点となった。
新代表(首相)は、民主党だけに通用する曖昧なルールではなく、国民との約束をルールとして行動しなければならない。そして、政権方針という明確な判断基準を示すことが必要だ。また就任後は、強い精神力を持ち、陰の声に揺れ動いてはいけない。違反=即失格と肝に銘じなければならないのだ。
(東海大教授)