【主張】電力制限解除へ
東京電力と東北電力管内で実施されている電力使用制限令が、前倒しで解除されることになった。猛暑の昨年ほどに気温が上昇しなかったことや、国民の節電努力によるところが大きい。
だが、夏に次いで需要が急増する冬場に、再び電力不足が起こる懸念は払拭されていない。これも菅直人首相の場当たり政策がもたらした被害といえる。野田佳彦新政権は、原発の再稼働を含めた総合的なエネルギー政策を早急に示す必要がある。
東電福島第1原発事故で電力不足に陥った首都圏では3月、地域ごとに輪番で電力供給を止める計画停電が実施され、大きな混乱が生じた。このため、経済産業省は7月から企業などの大口需要家に対し、昨年実績よりも電力使用を15%削減するよう義務づけた。
自動車業界が平日の工場稼働を週末に一部移し、夜間操業を増やす企業も相次いだ。エアコン使用を控えた家庭も多く、東電管内では今夏の電力需要を最大1000万キロワット減らした。電力危機は家庭や企業に犠牲を強いる形で乗り切ったといえる。
だが、こうした節電の結果を今後の電力需給の前提にしてもらっては困る。産業界では円高や高い法人税などと並び、電力不足が日本における事業継続の障害となっている。産業空洞化を招く大きな要因でもある。電力が安定して供給されなければ、被災地の復興さえおぼつかない。
国内54基の原発のうち8月末で運転中なのは13基だけだ。このままでは来春に全基が止まる。
暖房需要が増える今冬は東日本と西日本で、それぞれ数十万キロワット規模の供給不足になると予想されている。すべての原発が停止した場合、来夏には全国で今夏以上の節電を迫られるのは必至だ。そうなれば、景気への深刻な打撃は避けられない。
菅首相の唐突な「脱原発」宣言で、これまで国に協力してきた原発が立地する自治体の不信感も広がっている。
民主党代表選で原発再稼働に意欲を示した野田氏は、自ら率先して地元の信頼回復に努めるとともに、電力需要の3割を賄ってきた原発の円滑な運転再開を主導しなければならない。長期的には東西の電力融通を促すインフラ整備などの対策も必要だ。野田政権による懸案解決はまったなしだ。