【主張】野田新首相
衆参両院で第95代首相に指名された野田佳彦氏が唱えた「怨念を超えた政治」とは、政治資金規正法違反罪で強制起訴された小沢一郎元民主党代表の復権に手を貸すことだったのか。
野田新首相は30日、輿石東参院議員会長と2度にわたり会談して幹事長就任を要請し、最初の骨格人事が内定した。党運営を小沢氏に近い実力者に委ねることに、唖然(あぜん)とせざるを得ない。
融和路線とは、何もしないことを意味する。マニフェスト(政権公約)見直しを認めない小沢氏を支持するグループと、見直しで自民、公明両党と合意を取りつけた反小沢グループとの調整が困難だということは、代表選でも分かったのではないか。
小沢氏に対する党員資格停止処分の見直しについては、代表選でも焦点となった。「新代表の下で凍結なり解除するのが望ましい」と、口火を切った人物こそ輿石氏である。
小沢氏の資金管理団体「陸山会」の規正法違反事件では、元秘書ら3人が逮捕・起訴され、虚偽記載額は20億円を超えた。小沢氏自身も強制起訴されるに至り、処分が決まった。見直し論は、党として一定のけじめをつけたことを反故(ほご)にする動きである。
この問題について、野田新首相は「これからの判決の結果を踏まえた判断がある」「経緯などを踏まえながら対応したい」などと述べていたが、明確な立場は示してこなかった。
輿石氏は幹事長に内定した後、処分解除について、「私の考えは変わらない」と述べる一方、「いろんな考えがあるから、民主主義のルールと時機をみて考えたい」と含みを残した。
小沢氏は29日、「野田新代表にはがんばってほしいが、言葉だけの挙党一致なのか見極めないといけない」と語っていた。
輿石氏の起用で、野田氏が小沢氏の要求に屈服したようにもみえる。国民の信頼を早々に失ったことを認識すべきだ。
政調会長には前原誠司前外相を充てた。「脱小沢」色の強い前原氏の起用で、野田新首相はバランスをとったつもりだろう。
だが、これからの民主党が「政治とカネ」にどう向き合い、自浄能力を果たすのかについても、国民は疑念を持たざるを得ないことを新首相は分かっているのか。