【解答乱麻】元全日教連委員長・三好祐司
http://sankei.jp.msn.com/life/news/110820/edc11082007420002-n1.htm
7月末、私の所属する岩国掃除に学ぶ会が「掃除に学ぶ山口県大会」を引き受け、県内各地の掃除に学ぶ会の仲間とともに岩国市内の小学校を会場にトイレ磨きを行った。
掃除の後は、山廣康子・広島音楽高校校長を講師に迎えて講演会を行った。彼女は荒れていた県立高校を立て直した校長先生で、『やればできるんよ』の著書もある方だ。
私はその日、5班のリーダーと講師紹介の役を任されており、朝のミーティングで、講師の山廣校長も私の班で掃除に参加されることを聞いた。「へー、講師の先生も参加されるか」と少し驚きながらも、主催者に向けてのおつきあいかな程度に思っていた。しかし、彼女の実際の掃除は、徹底しており、他の参加者と同等、いや、それ以上の熱心な掃除であり、その汗まみれの姿を見ていて、「ああ、この人なら信頼できる」と思った次第である。
その数日後、私は部活動を引退したばかりの3年生のA子を3日間学校に呼び出し、一緒に勉強した。この子は、部活動では頑張りがきくが、勉強では頑張りがきかない。勉強になると「どうせ私は」が口癖で、そのたびに私は「大丈夫、できるって」と言い返してきた。
「勉強を見てあげるよ、その代わり、グラウンドの草運びを手伝うんだぞ」と言うと、大喜びで勉強を快諾した。そして、1日目は数学の連立方程式を勉強し、2時間もたつ頃にはほとんど自力で解けるようになっていた。勉強後の奉仕作業も私と一緒に汗だくになって取り組んだ。2日目は、他の生徒が私の所へ出入りしたため、約束の時間の中でこの子をしっかりと見ることができなかった。「この問題をやっといて、後で見てあげるから」で済ませていた。すると「先生なんか大嫌い」と言って帰っていった。そして3日目はまた、じっくりと勉強を見てあげたら、またも勉強がはかどり、ニコニコして帰っていった。
山廣校長は講演会の中で、「大人に対する不信感がひどかった。それに対して絶対によくなると思って本気で取り組んだ」と言われていた。そして、「やってもダメだと思ったら、子供に伝わる」とも言われた。そのとおりだと思った。
勉強ができなくて苦しんでいる子、自分はダメだと自己否定に陥っている子、そんな子供を目の前にして、「この子たちはダメな子たちだ」とレッテルを貼るのはとても容易なことである。適当に表面的に取り繕うことは楽なことである。しかし、問題があるのに安易なことしかしないのであれば、子供の目の前で、大人が努力や工夫を放棄する具体例を見せつけるのと同じだ。
努力や工夫を口先だけで言う大人と、問題に立ち向かっていく大人のどちらを子供たちは信頼し尊敬するだろうか。
人間誰しもいくつかの問題を抱えているものだ。ただし、問題になるかならないかは、個人の感覚や価値観による。しかし、そのことで苦しむ人がいるのであれば、直ちに解決しなければならない問題である。
高い所から評論するより、問題の発生している所まで下りていこうと下坐の覚悟を持ち真摯(しんし)に立ち向かおうとしたとき、問題の解決の糸口が見えてくる。トイレ掃除と山廣校長とA子に教えてもらった夏休みであった。
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【プロフィル】三好祐司
みよし・ゆうじ 山口県の中学校教諭。保守系の教職員団体「全日本教職員連盟」(全日教連)元委員長。