原子力技術の資産失うべからず。 | 皇国ノ興廃此一戦二在リ各員一層奮励努力セヨ 








拓殖大学大学院教授・森本敏

http://sankei.jp.msn.com/politics/news/110722/plc11072203140003-n1.htm




日本国内ではこのところとみに閉塞(へいそく)感が強い。国を挙げて大震災からの復興に邁進(まいしん)すべきときであるのに、政治のあまりの体たらくに国民の気力も萎えてしまう感じだ。政権交代は国民が選択した結果だとしても、その代償は大き過ぎた。2割未満の国民しか支持していない首相が、十分な議論もなく次々に延命策を繰り出す。こんな政治状況は異常である。

 ≪相次ぐ長期的展望抜きの対応≫

 民主党政権が誕生してから2年この方、鳩山由紀夫前政権は温室効果ガス25%削減を打ち出し、その後、米軍普天間飛行場の移設問題を完全にぶち壊した。菅直人政権は尖閣諸島付近で“実力行使”に出た中国人船長を中国の威圧に屈して釈放し、その後、大震災にあたってろくでもない判断を重ねた揚げ句、「脱原発」を言いだした。いずれも、長期的な展望に立たない対応だらけである。

 その結果、日米同盟の信頼関係は完全に壊れ、中国ばかりかロシア、韓国からも領土問題で攻勢をかけられ、株価は下落、国の赤字は増え、格差は拡大、国力は目に見えて衰えている。企業は円高、電力不足、法人税、TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)不参加などに苦しみ、海外移転を計画しているところも少なくない。防衛費やODA(政府開発援助)など国力の基礎となる外交や防衛の手段もやせ細る一方だ。世界競争力センター(IMD)が5月に発表したところによると、日本の経済力は対象国59カ国中27位、政府の効率性は50位である。何という情けない国になったことか。

 近々、首相が交代すれば、少しはましな状況になるにせよ、問題の根底には民主党の体質がある。若く有為な人材を他党に比べて多く抱えているにもかかわらず、それが総合力にならないのは、それらの識見や行動力が組織として生かされていないからだ。民主党は多様な意見を持つ議員から成る集団である。その議員たちが政策を議論する政策調査会はほとんど放談会で終わり、政策をまとめても首相官邸に利用されない。

 ≪問題の根底に民主の体質あり≫

 では、首相はというと、閣僚や官僚と十分な協議もせず、浜岡原発の中止や原発のストレステスト(耐性検査)を決めたり、「脱原発」を発表したとたんに、「個人の考え」だったとそれを翻したりする。一国の指導者の言葉の重みを自覚していなかったのであれば首相失格だし、分かっていて言ったのなら悪質極まりない。

 日本社会は下からの積み上げとコンセンサスで成り立っている。国家の重要政策は本来、安全保障会議で関係閣僚が協議したうえで首相が決めるべきものであり、長期的視野を欠いた独断専行はただの思い上がりだ。民主党は「政治主導」をはき違えて政権運営に当たるから、国民に嫌われ、官僚の面従腹背にも遭っている。

 この体質を変えない限り、首相・代表を何人代えようとも、統治は抜本的に改まらない。民主党が取り組むべきは、新首相の下で日本の将来を見据えつつ、協議を十二分に尽くして、国家の基本方向を定め、それを国民に説明し国民の協力を得ることである。とりわけ急がれるひとつが、TPPである。政治的リスクを負い政治的代償を払っても、国力再生をかけて参加へと踏み出すことを、当面の優先課題とすべきだろう。

 もっと重要なのは原発政策である。「脱原発」が、日本の経済成長と発展にとって重大な阻害要因になることは疑いようもない。企業は安定的な電力供給も求めて海外に逃避し、国内産業は空洞化して雇用が落ち込み、日本の競争力は一層低下するであろう。

 ≪「脱原発」は「脱抑止力」に≫

 まだある。日本の安全は依然、米国の抑止力に大きく依存している。仮にも、「脱原発」のあおりで、原子炉を持つ米艦艇の寄港が妨げられるようなことにでもなれば、日米同盟の根幹にかかわる重大問題に発展しかねない。

 米国、中国、ロシア、インド、韓国、北朝鮮などアジア太平洋地域の国で、「脱原発」を唱える所などない。福島原発事故を受け、稼働していながら停止に追い込まれたのはドイツの原発と浜岡原発だけであり、原発に依存しないようにしていくと決めたのが数カ国あるだけだ。それ以外はほとんど原発政策を変えていない。

 日本が戦後半世紀、プルサーマルや再処理の高度な原子力技術を持ちつつも、核兵器保有を選択しなかったことは、周辺国に対する大きな抑止力になっている。自然は人間の英知で乗り越えなければならないのであって、困難な環境下で蓄積してきた原子力の技術的資産を失ってはならない。

 日本は福島事故を克服し、その経験と技術を世界の原子力安全管理に活かす方向で主導権をとるべきである。政策は感情で決めてはならず、指導者が「個人の考え」で国の行方を左右する重要政策を決めることは許されない。そんなことも弁(わきま)えていないなら、民主党はもはや、「反国益政党」でしかない。そんな政党に国と民の将来を委ねていいわけがない。

                                       (もりもと さとし)